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※セラフィ視点
「そこな女よ。私はお前が気に入った。どうだ、そんなほら吹き男は捨てて俺に仕えないか?」
―――その一言が引き金を引いた。
「………ほう、俺の女に手を出すか。面白い、実に面白い。
レインディアとはまた違った面白さがある」
面白い。その言葉とは裏腹にその目には怒りが灯っている。もう、ダメだ。止められない。王が土下座しようともジークは止まらない。ここで運命は決定してしまった。
「ガーベラ。お前が気に入ったらしいぞ」
「ご冗談を。あんな醜く汚泥のような魂を持つ男のどこに惹かれましょうか」
「それもそうだな」
会話は穏やかだ。………穏やかだが、辺りは殺気で満ちていた。私達まで背筋に寒気が走るほどに、彼は怒っている。バルハード様さえあんな罵倒をされてなお言葉を失っている。………気づくのが遅すぎたのだ。
「前に出ろ。自慢の騎士団長共々相手してやる。ほら、化けの皮を剥がすんだろう?」
不敵に笑みを浮かべるジーク。対するタイラーはその逆鱗に触れたことに焦りを見せているが、背後にいる貴族達に囃し立てられ前にでる。
………ほら吹きがここで退路を断ったことになる。ジークを認めれば第一王子派からの求心力を失い失脚も不可避。前に出ればあの魔王と戦うことになる。どちらにせよ、未来はない。
「い、いいだろう。後悔するなよ」
何も理解していないバルハード様は前にでる。タイラーもその後を追う………いや追わざるをえない。その後ろにいるアドルフ王は言葉を発することができなかった。
―――アドルフ王のすぐ隣に、アスターさんが控えていたからだ。
「ガーベラに目をつけたのはいい。仕方ないことだ。いい女だからな。
だが、お行儀が悪いのはいただけない。お前には躾が必要だな」
―――ここでバルハード様は対峙する者がどういうものなのか気づいた。誰にでもわかるほどその顔に絶望が滲んでいる。
「ガーベラ、アスター、結界を貼れ。―――絶望を与えてやる」
「「はっ!」」
二人が手を前にかざすと3人を囲うようにして結界が展開される。
そしてそれと同時にジークの身体から赤黒い魔力が放出され、全身を覆う。
―――絶対者。
赤黒い魔力の奔流が大気を震わせる。
―――触れてはならぬ者。
この目に焼き付けるのは二度目。赤黒い柱を突き破り、魔王が顕現する。
―――最強魔王。
『オォォォォォォォォォォォ!!!!』
―――絶望など生ぬるいと知れ。
「あ―――あ、ああぁぁぁっぁあっぁあぁあぁあ!!!!!!」
バルハード様が叫ぶ。最早それしかすることがなかった。違うのだ、全てにおいて。
「これが………魔王!?」
タイラーは目の当たりにして知った。この男がきたことで全てが破綻した。全て、たった一人によって潰されたのだと。
『慈悲はない。あるのは死だ』
地を蹴り、バルハード様に肉薄。
赤黒い稲妻を纏った拳が、魔王に楯突く愚か者へ迫る。
「あ――――――」
結界内を満たす赤黒い稲妻。世界が悲鳴をあげるかのような轟音を立て、その存在を消し去った。




