3-15
※イーリス視点
私は、王国のために戦っている。
………最近は、これでいいのか考えることもある。でも、私を育んでくれたこの国を捨てることはできない。
それが例え私の命を代償としても。
―――しかし、一筋の希望は突如現れた。
一見すると顔立ちの整った、微笑むだけで女性を虜にするような青年。
しかし彼は魔王。魔王だというのに、彼こそが王国を変える切っ掛けをくれるのではないかという期待をしてしまう。
………なんとも可笑しな話で、一人苦笑する。
「イーリス、何か?」
「あっ、失礼しました。彼のことを考えていてつい」
少女の声で現実に引き戻される。
今私はサロンでアレイスター様と、その妹であるレインディア様のお二人と今日のことについて話をしていたところだった。
「ふふ、イーリスったら。魔王様のことを気に入りまして?」
悪戯っぽく笑うレインディア様。つられてアレイスター様も笑みを作られる。これは、少し恥ずかしいですね。
「個人的にも一目おいております。あの魔王は強いだけでなくあらゆる面において鋭く、既に王国の状況についても理解している節がございます」
でなければ説明がつかない点がある。特に、八星魔将との交戦前の会話にて何かを手を打っていた。
「まぁ、そうなのですか。お兄様、その魔王様にお会いしたいですわ」
「そうだね。私も、魔王殿と話をしてみたい」
二人とも表面上は好奇心に見えてその目には強い光が宿っている。見極めるおつもりでしょうね。
「掛け合ってみましょう。協力を取り付けるか別として、話は聞いてもらえると思います」
「それは助かる。………正直、このままでは後継者争いに決着が着く前に国が滅ぶ。
兄上も、それに気づいてくださればよいものを」
そういってアレイスター様はため息を吐く。バルハード様のことを考えて、悩まれている。
残念ながらバルハード様は人の上に立つ器ではなかった。自己中心的であり、先見性もない。教養があるわけでもなければ甘い囁きをする臣下ばかり耳を傾けるようなお方。
故にこそ私はアレイスター様の元にいる。このお方と、妹君であるレインディアは聡明で、かつ国を背負う責任を自覚されている。
「さて、叶わぬ願いは置いておこう。今日の報告を軽くしているけど、近いうちに黒騎士団と兄上が父上を巻き込んで責任追及などをしてくるような動きがある。
全くもって可笑しな話ではあるが、付いている貴族も合わせれば父上も王として無視できないだろう。先ほどの話、明日にでも呼んで欲しいところだけど………それは難しいかな?」
アレイスター様の表情は険しくなる。恐らくは明日明後日のうちには召集される可能性が高いとみえる。となれば彼にはすぐにでも会談してもらいたいところだが、こちらの思惑通り動いてくれる可能性は低い。となると―――
「怒りを買う可能性もありますが、可能です」
「というと?」
「彼はメイドの他に二人の少女を連れておりました。一人はカガリという者。もう一人は………セラフィ。セラフィ・ワイズ・ハルモニア。今は亡き宰相の孫娘にございます」
それを聞いてアレイスター様もレインディア様も目を見開く。
………私自身も驚いている。彼女の祖父、エルガドル・ワイズ・ハルモニアは国王の右腕にして国を支えた重鎮。エルガドル様がいなければ国は衰退していた可能性さえあったほどに、多くの困難を乗り越えられた知恵者。その孫娘がかの魔王の元にいるのである。
特にレインディア様は幼少期より交流があり特に親しい友人であったと聞いている。それを考えるとレインディア様が動揺を隠せないのも、仕方ないでしょう。
「彼女巻き込んで、呼び出すつもりかい?確かに今は国との繋がりはないが彼女の性格上無視はしないだろう」
「はい。………どうされますか?」
少し悩んだ末にアレイスター様は頷く。覚悟を決めた、という顔つきをしておられる。
「お願いするよ。エルガドル殿にはお世話になったし、その孫娘である彼女の現在も気になる。
………すまないね。貧乏くじばかり引かせてしまって」
「王国のためならば、私は構いません」
貧乏くじというほどでもないのですが、それを口にすることでもないので私は黙って下がる。
私は私のできることをする。
―――魔王ジーク、信じていますよ。
読んでくださっている方、ありがとうございます。
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