3-13
※ミラベル視点
訓練場に入るとジークが床に座って何かをしているのを見つけた。
近寄ってみても特に反応はない。なんだかちょっと悔しいので隣に座って見るとようやく彼がこっちを見た。
「どうした?」
少し素っ気無く発せられる言葉。
私は立ち上がってジークの前で見せ付けるようにその場でくるっと回って浴衣姿を披露してみる。
「ほう、浴衣を着こなしているな。よく似合ってるよ」
「ホントにそう思ってる?」
「本当だよ。とても綺麗だ」
綺麗。そういわれて少し浮かれてしまって、またその場てくるっと回ると優しく微笑んでくれる。なんというか、温かくなる。
「で、どうした?」
「お礼を言いたくて。私のためじゃなくても、結果的に私は助かってるから」
「なら素直に受け取っておこう」
そういってはにかむと再び手を動かす。何かの部品が散乱しており、それを拭いたり魔力を流したりしている。武器の調整だろうか。
「ねぇ、何か私にお礼できないかな?」
「ミラベルの浴衣姿はとても良かった。それで貸し借りは無しだ」
なんと欲のないことか。もしくはそれだけ私は魅力的だったのか。興奮している様子もないしさらっと答える辺り………前者だろうか。
「その言い方はちょっと変態っぽい」
「そんなことはない。ミラベルはとても魅力的だ。それで迫れば意中の相手もイチコロだろう」
「こんな風に?」
隣に座ってジークの腕を抱き締めてみる。………が、反応は薄い。
「そうそう。あと、離してくれ」
「やーだ」
「やれやれ」
ため息を吐くも左手と足を使い、魔法で浮遊させるなどしてとても器用に進めている。本当に眼中にないという感じ。ジークはイチコロじゃないらしい。
「ねぇ、私ね。嬉しかったんだよ」
途端に切なくなって、抱き締める力が強くなる。
「あの時ジークが私に応えてくれたみたいで、嬉しかった」
ふとジークを見るとその手を止めて私を見ていた。切なかったのに、急に温かくなる。なんて、不思議なことだろう。
「………泣かせたからな」
「え………?」
「赤の他人なら知ったことじゃない。でも、ミラベルはそうじゃない。で、俺が泣かせてしまった。配慮が足りなかった」
魔王の口にすることじゃないだろう。そして………そんなことを言われると、また切なくなる。私はジークにとって他人じゃないなんて、それだけでも、心に響いてしまう。
「ジークは、優しい魔王なんだね」
ジークの目を見て微笑むと―――彼は驚いたような顔をして、すぐに優しく微笑んで頭を撫でてくれる。
「そう思うか?」
「うん。そうじゃなかったらセラも、カガリちゃんも、ガーベラさんだってあんなに楽しそうに笑ったりしないよ」
迷うことなくそう言い切るとジークは上を見て、ぼんやり呟く。
「それは、良かった。………アイツの言う通りになったな」
私の言葉はジークに響いてくれたらしい。
なんだろう。過ぎていく時間が惜しく感じる。
―――このままずっと、こうしていられたら。
―――せめて、もう少しだけ。




