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※リーベ視点
―――魔王。
それは魔を統べる王にして頂点を意味する称号。
我らが魔王こそがそれに相応しい。この時代の魔王は歴代でも最強クラスと言っていい。我ら八星魔将もそれに劣らぬ実力者だからこそこの栄誉を賜っている。
―――しかしこれは例外だ。
『じゃあ、行くか。オスカー男爵だっけ?なんでもいいや』
グラード公爵は言葉を失っている。先ほどの攻防が児戯でしかなかったと知り、そして本気をだしたこの男の力を前に絶望すら感じている。
「ふ、ふざけるな!貴様は殺す!ここで仕留める!我が魔装、怨嗟の魔閃にて貴様を刈り取る!」
自らを奮い起たせたグラード公爵が全霊を持ってジークを狩るべく力を練りあげる。
対するジークは―――
『じゃあこっちも………やるか』
空間が歪み、そこに腕を突っ込み何かを引きずり出す。
『天命を穿つ災厄の魔剣。これは魂すら滅する究極の魔剣だ。………上位悪魔はその存在を魂に依存する。つまり―――今度は確実に殺してやる』
背筋が凍る。その手に握られた漆黒の魔剣はこの世にあっていいものではない。あれは………人の手に余る代物。グラード公爵は悪魔将軍と呼ばれる最上位悪魔であるためあの男の言う通り肉体を滅しても復活できる。だが、あれは―――
「あ、あ、あ、ありえない!こんな………こんなことは!ありえんぞぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
雄たけびをあげ、疾走する。全身全霊、文字通り全てをかけた一撃をジークめがけて振り下ろす。
『これが―――魔王の一撃だ』
対するは災厄の一撃。あらゆる全てを飲み込む漆黒の奔流となってグラード公爵と、その背後の軍勢を飲み込む。
「我らの………悲願を………!!!」
―――それがグラード公爵の最期の言葉だった。
「さて、こんなもんか。ガーベラ」
人間形態へ戻り、ガーベラの名を呼ぶとまるで最初からそこにいたかのように傍で跪く。
「久しぶりだったからぶっ放したが、どうだった?」
「至上の一撃にございます。あの逞しいお姿をこの目に焼き付けたこと、私の想いに応えてくださったこと………あぁ、ガーベラは幸せ者でございます。この歓喜をどう表現すれば良いものでしょうか」
歓喜する彼女に先ほどのクールな姿は何処にもなく、その顔は女としての悦びを噛み締めているかのように恍惚としている。
そしてジークの彼女を見る目は優しく、もう少し距離が近ければ頬を擦っていたかもしれないような、そんな柔らかい慈愛を感じる。ここは戦場だというのに、彼らにとっては何でもないということだろう。
「で、だ。リーベちゃんや」
「なっ………なんだ」
唐突に話を振られて焦るが、それをみてジークはニコニコしている。急にムカムカしてきたぞ。
「停戦しない?俺個人と魔族で、さ」
―――いや、何を言ってるのだろうか。




