3-4
※リーベ視点
「くっ………ちょこまかと!」
ナイアスは身体強化からの肉弾戦が得意なインファイター。対するメイドはそれを容易く受け流し、罵倒と共に蹴りをいれる。
「この程度なの?。これではジーク様に褒美を頂けるだけの手柄にならないのだけど」
「ふざけるな!」
魔力を放出し、疾走するがやはり容易く迎撃される。お互いに全力ではないとはいえその実力差は大きい。
「お前はあの男のメイドなのか?それとも番なのか?」
暇なので問いかけてみると再び突進してきたナイアスの顔面に拳を叩き込んで吹っ飛ばし、こちらを向く。
「私はジーク様のメイドです。正妻ではございません」
敵なら容赦ないが私はそうでないらしく敬語。ふむ、なるほど。つまり正妻の座は空いているのか。
「ぐっ………俺の顔に………!?許さんぞぉ!!!」
起き上がったナイアスが遂に本気を出した。全身に魔力を迸らせ、腰に着けていた藍色の籠手を取り出し装着。あれは八星魔将に与えられる魔装の一つ、雷鳴の邪拳。
「ほう、そこそこの武具ですね。それならそのハリボテ筋肉も誤魔化せますか」
「死ねい!」
雷を身に纏うナイアスはまさに雷鳴そのもの。轟音と共に視認することさえ困難な一撃を繰り出すが―――
「ギリギリ赤点を免れた程度の点数をあげましょう。40点です」
しかし彼女にはそれすら児戯に等しく、繰り出された一撃を正面から受け止め―――いや、切り飛ばした。
「なっ!?がぁぁ!!!」
ナイアスは左腕の籠手で覆われていない、肘から切り飛ばされた。今度は手加減していない、全力の一撃。それすら彼女には届かないというのか。
「スピードだけで40点くれてやったのだから感謝することね」
「ぐっ………くそぉ!てめぇ何者だ!」
その姿は負け犬の遠吠えのようにも聞こえる。メイドはゆっくりとこちらを向き、剣を構える。
「私は魔王ジークに仕える者、ガーベラ。
そして知りなさい。あのお方こそがお前達でいうところの異世界にて全てを手中に納めた至高の魔王、ジーク様」
ガーベラと名乗る女はまるで愛しい人の名を呼ぶことに歓喜しているかのように微笑む。それは陶酔しているとも、狂信しているとも言える絶対的な忠誠。
―――そしてそれに応えるかのように、戦況は一変する。
「なっ………!?何事だぁ!?」
大気が震え、地が震え、身体が震える。まるで絶対的な死の奔流に世界が飲み込まれていくかのような錯覚を起こす。
ガーベラはジークのいた方向を向き、跪く。
『さぁ、第二ラウンドだ』
ブラーの掛かったような声だがそれはジークであることは理解できた。しかし、その姿は、力は別次元。
赤黒い魔力を身に纏い、鎧のようなもので覆われたその肉体は最早人間のものとは程遠い。体長は2メートルを越し、表面は筋肉が肥大化したかのようにゴツゴツしている。その顔にはジークの顔にあった痣と同じものが刻まれており、背には6枚の翼のようなものが生えている。
―――そこにあるのは正しく魔王の姿。我らはここに来て漸く気づいた。
「触れてはならぬものに、触れたということか」
魔王の逆鱗に触れてしまったのだと。




