3-1
※セラフィ視点
―――魔族襲来。この報せはただ一人を除いて戦慄させた。
魔物と合わせてその数は10万。しかも八星魔将と呼ばれる魔王に継ぐ最強の魔族が3人。それが近隣まで迫っているのに気づけなかった。状況は最悪なのである。
「………ジーク」
「なんだ?」
力を貸してと、言いたい。彼ならばこの状況を打開できるかもしれない。大切な友が死地へ向かうのに、見ぬ振りなんてしたくない。そこまで堕ちてはいない。
「力を貸して!私の我儘だけど、貴方の力が必要なの!」
「んー………」
難しい顔をしている。気づけばこの場にいる全員がジークを見ている。参戦の有無が戦況に大きく左右することになるのだ。
「条件がある。全て飲めるなら参戦する。
この条件は王国側と、セラフィ、カガリにだ」
それは一筋の光明。無理難題でなければ活路は見えてくる。私達は無言でジークを見つめる。
「一つ目、参戦は今回だけだ。今後同じことがあってお前達にお願いされても断る。
二つ目は今回の戦闘は撃退だ。俺が不要と判断した時点で攻撃を辞めること。
三つ目は………そうだな。大迷宮についてそちらで把握できている情報を洗いざらい話せ。これはイーリス、お前に言ってる」
つまり今回だけの切札。今後はもう使えない。そして、決着が着いた段階で追い討ちをかけることも禁じられる。最後は―――
「王国側として、私の名と責任を持って約束しましょう。
そして無事に終わったらお茶会ですね。腕によりをかけましょう」
精一杯の笑顔で応えるイーリスさん。これで決定した。この戦いでジークの力を借りることができる。
「よし、じゃあ参加しよう。とりあえず先陣………というか俺だけで足りるはずだから、その辺りの編成は打ち合わせしようか」
「ちょっと待ってくれ。流石にそれは危ういだろう」
ここで静観していたクリスが口を開く。ジークは………冷ややかな目でそちらを向く。
「反論は認めない。こっちにも事情があるんだよ」
それだけ告げてすぐにガーベラさんへ視線を移す。
「ガーベラは敵戦力の確認をしてこい。但し戦闘は極力避けろよ」
「承知いたしました」
一言、それだけ返してガーベラさんが目の前から消えた。―――正確にはそう錯覚しそうになるほど早く店を出た。
「さて、武器の使い方レクチャーしてないしセラフィとカガリは見学な。あと出来ればミラベルも」
私とカガリは頷き、ミラベルはチラッとクリスへ視線を向けたあとすぐに戻して頷いた。
「よし、いい子だ。じゃあ俺達はガーベラが戻るまでお茶しよう」
相手の戦力も分からんしなぁ、と呟いて席につく。ジークとしてはこの状況に何ら危機感を抱いていない。その姿に気づけば自分も肩の力が抜けているのに気づく。
「じゃあ、私もご一緒していい?」
許可を得る前にジークの隣に付くミラベル。
「いいぞ。マスター、旨い紅茶とクッキーを頼む」
声がして奥からこの店のオーナーが顔を見せる。
「シェフと呼んでくれたまえ」
「マジか。旨い紅茶とクッキーを頼むぞシェフ」
―――何とも気の抜けた一時であった。




