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※セラフィ視点
「ジーク様」
どちらに向けてかは不明だが、ガーベラさんはため息を吐いたあとジークに声をかける。すると先ほどまで夢中になっていたのにすぐにガーベラさんのほうを向き、ガーベラさんの視線の先を見る。
「ん?あぁ、すまん。ごめんね、考え事しててさ。で、何か用かな?」
爽やかな笑顔を女性達に向けると瞬く間に女性達の目が輝く。これが凄まじい力を持つ魔王だと知ったらどうなるだろうか。………いや、寧ろ取り入ろうとより必死になるだけだろうか。
「お兄さん達冒険者ですよね?私達も冒険者なんですけど良かったら一緒にパーティ組みませんか?お兄さんにとっても興味あるんです!」
私は杖を、カガリはジークから貰った剣を、ジークも冒険者登録してから帯刀してるし確かに人目で分かるか、なんて考えているとぐいぐいとジークに寄っていく女性冒険者達。目が違う。獲物を見つけた目、肉食の目だ。
「あー、ごめんね。先約がいてさ、魔導士団の副団長と待ち合わせしてるんだ」
やんわりと断りをいれるジーク。猫かぶりよる。しかし目の前にいるは肉食獣。この程度では引き下がるどころか―――
「えぇ!?あのミレイナ様と!?」
「お強いんですね~」
「きゃ~!素敵~!」
寧ろ前進。極上の獲物と認定されたらしい。これには流石にジークも苦笑い。南無。
「ねぇ、カガリ。置いていかない?」
「ちょっと!?ダメよ!?」
却下される。半分現実逃避だったけど真面目なカガリはしっかり否定。偉い。
「あー………どうすっかな。めんどくさくなってきた」
「殺りますか?」
主人が不快に思っていることを理解するなりそんなことを言っている。殺っちゃダメ。それだけは非常に不味い。あ、武器(ジーク曰く銃というものらしい)に手を伸ばしてる。本気?ガーベラさん本当に光属性?
「―――セラ?」
ふと、私を呼ぶ声は何処か懐かしく………同時にあまりいい思い出がない。振り返ると男子2人、女子2人の4人パーティー。そのうち金髪の青年と藍色髪の少女を私は知っている。
「クリスと、ミラ………」
「やっぱりセラだ!」
―――すっかり忘れていた。気をつけていたのに。あぁ、彼にだけは会いたくなかった。だというのに、なんと迂闊なことだろう。しかも、しかもだ。ジークがいる。今、この場にはジークがいる。これは非常に不味い。
「セラ!」
私の名を呼び駆け出すクリス。―――しかし、ガーベラさんが間に入りそれを阻止する。
「………君は?」
流石にガーベラさんが間に入ってくれたこともありクリスは立ち止まる。チラっとジークを見て、ガーベラさんへ視線を戻す。いつの間にかジークに張り付いていた女冒険者達は姿を消している。なんというか、凄い。
「ガーベラと申します。お二人がどのような仲であるかは存じませんがそのような切迫した表情で詰め寄られてはセラフィ様も驚かれます」
女性に言われてはクリスも冷静にならざるをえず、深呼吸して落ち着かせる。………おぉ、できるメイドは一味違う。許されるなら雇いたいレベルの有能さだ。
「あ、あぁ。そうだね。ガーベラさん?申し訳ないけど退いてもらえるかな?僕は彼女に話があるんだ」
「………とのことですが?」
こちらを向いて尋ねてくる。ここで丸投げか~と思ったが自分のことなので仕方ない。私の返答は勿論―――
「私はありません。それでは」
撤退あるのみ。




