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※ミレイナ視点
この数日で人生でこれ以上ないくらい驚かされたがまだ底が見えない。
私は目の前にいるメイド………の姿をしたゴーレムをジーっと見つめている。肉体は限りなく人に近く、こちらの問いに対してある程度答える。しかもそのときに表情まで変える。これは擬似的な命の創造………神の領域といっていいのかもしれない。
弟子入りできるならもう一生付いていきたいくらい、最早涎がでるレベルの創造物に興味が惹かれないわけがない。このメイド服を剥いてその中を存分に解析できれば大きな進歩ができるかもしれない。………しれないが、できなかった。
襲いかかろうとしたら察知されて迎撃された。変態迎撃用モード起動と言われ次の瞬間組み伏せられた。変態って何よ。私は魔法という神秘に対して貪欲なだけの淑女よ。
「って、そんなこと考えてる場合じゃなかったわね」
そんな自分のことを考えているほど余裕はない。魔王と呼ばれた男は薄々気づいているように思えるが………いや、何かあるとは思っているだろう。
この世界に安寧はない。私の仕えるする国も、今や存亡の危機が迫りつつある。………命が惜しくないわけではない。私だって魔法使いとして研鑽を積みたいし―――恋も、してみたい。
だが今は―――
「大変そうだよねぇ。なんか飲む?」
「えぇ、大変なのです。紅茶をお願いします」
「おk。旨いピーチティーあるから淹れさせよう」
―――痛烈な違和感。
「って!なんでいるんですか!?」
「そりゃノックしても反応なかったからなぁ。一応言っておくと3回くらいノックして声もかけたのに反応なかったから入ったんだぞ?」
言われてみれば確かにどこかで声がしていたような気がしないでもない。確かにジークさんを責めるのはお門違いだ。これは私が悪いでしょう。
「悩んでるんだろ?とりあえず解決できるかは別だが話くらいは聞いてやるぞ?」
「………そこは、俺が解決してやる、じゃないんですか?」
敢えて不貞腐れるように言ってみるが確約はできないからなと笑って返されてしまった。なんて話をしているとガーベラと呼ばれたメイドが入室して紅茶を置くとジークさんの傍で控える。
「できる範囲で力は貸すつもりだよ。………セラフィの大切なお姉さんだからな」
なんともむず痒いというか、気恥ずかしさのようなものがこみ上げてくる。顔が熱い気がする。
「それに俺自身この世界について知るいい機会だ。話してくれないか?」
話せ、ではなく話してくれないかと。セラフィのために力を貸すと。………知れば知るほど不思議な人。なるほど、確かにセラフィが心を許しているのも頷ける。
「………分かりました。私としても助かりますし、伝えましょう。ただ、セラフィ達には内緒にしていただけすか?」
「あぁ、約束だ」
了承を得たので私は現状について語った。
この世界には人間族、魔族、エルフやドワーフ、獣人などの亜人が存在すること。今魔族の動きは活発化していて各国は対応に追われていること。大国の一つでありこと戦においては高い戦力を保有するアズガルム帝国から頻繁に攻撃されておりアルフィア王国は疲弊していること。
そして、王国も後継者争いで揺れていることも。
ジークさんはただ黙って聞いてくれた。一言も話さず、終わるまでずっと、ただ聞いてくれた。そのおかげで心のうちを吐露できた。そんなことをしている場合えではないというのに私欲に塗れる者達は好き放題し、国の最高戦力たる白魔術士団と黒騎士団はそれぞれの目的の為に争っている。
そのせいもあってあの砦の攻防も私だけとなった経緯も話した。
聞いてもらえただけで、心が軽くなったのに―――
「ふむ。問題は山積みだが………そうだな、まずは王国に足を運ぶか」
何故彼は、首を突っ込むことを前提に話をしているのだろうか。なぜ彼はこうも真剣に考えているのだろう。
「とりあえず、情報が必要だ。色々と、教えてもらおうか」
―――あぁ、そんな爽やかな笑みを向けられては、期待してしまうじゃないですか。




