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※ノワール視点
―――アナスタシア聖騎士団を蹂躙する仮面の少女………いや、クロノアの鮮やかな手際を遥か遠方からリーベと共に遠見の魔法で見ている。
相手の弱点を瞬時に把握して効果的な突破方法を編み出し攻略する。これは並外れた洞察力が成せる技といえよう。いや、それ自体は最早一個の生命体が成せるものではない。彼女が魔王だといわれたら納得するだろう。
それほどまでに………彼女の存在は異常であろう。
「本当に………彼女は一体何者でしょうか」
戦闘では優れた能力を持つをリーベも同様にその異常さに呆気をとられている。戦っている姿をみたのは二度目だが一度目の八星魔将より今回の相手は別次元の強さを持っていた。それすらですらクロノアは一蹴してみせたのだ。
………バトルセンスが異常ならば世界を見る目も異常。見えない部分すら見通し既に先手を幾重も巡らせ何れ来る決戦に備えている。
聞かされた時にはまさかと思ったが………いやはや余は運が良い。今度こそ、今度こそ成功させてみせる。この因果を断ち切るのだ。
「なるほど、これはいい素材が手に入りました。高峰総司では食当たりを起こす可能性があると考えていたので、彼にしましょう。
もう帰っていいですよ。高峰総司は殺す予定はないので大人しく去るなら何もしません。あ、そこの少女二人はオマケで生かしてあげましょう。よかったですね、この男性に感謝してください」
そういって死体に転移魔法をかけ、余の元へ転移させる。食えということか。神獣の次に劣化勇者とはこれまたご馳走ではあるが………身体が持つかどうかは怪しい。いや、ここでダメなら悲願の達成もままらぬか。
「あ………あぁ、帰る………」
向こうは完全に心を折られている。ただ首を縦に振って、共の二人の女も震えながら高峰総司にしがみついている。あれはもうダメだ。なんとかして持ち直したとしても、クロノアの存在は大きな傷となって一生残るだろう。
おぼつかない足取りでオルトランド皇国のある方向へ歩いていく。言葉どおり、奴らが見えなくなるまで見守るだけで手を出すことはしなかった。
見えなくなると転移で余の元へ。リーベも時期を同じくしてこちらに転移してきた。
「終わりました。では早速どうぞ」
黒蝕龍ヘイゼルと同じく食えと催促してくる。先ほどまでの戦闘など彼女にとってはあってないものらしい。
「見事であった。
で、余に勇者の力を取り込めと言うのだな?」
「はい。リスクはありますがノワール様には魔族を越える必要があります。そうでなくては全てが破綻します」
余の背後を知っているからこそ確信をもった目ではっきり告げてくる。これは余も納得している。犠牲になるつもりでいたが………それでは足りぬとのことで、別の道として今に至る。
「ではこの男の力を取り込んだあと、魔族は魔神復活のための行動とは別に各国の動向と神獣の動きを探る。
オルトランド皇国はこの一件で大打撃を被るであろうが、神獣がどう動くかまだ不安は残る。よいな?」
「結構でございます。そのようにいたしましょう」
方針は決まった。
魔王ジーク。来るべき時にまた会おうぞ。




