1-16
※カガリ視点
―――同日の夜
あれから解散となり、今晩は砦で一泊してから街に戻ることになった。
部屋でベッドに潜りさっさと眠ってしまおうと思ったが色々な話が頭から離れず悶々としていた私は雑念を払うべく外に出て1人で素振りをしていた。
「………ん、ダメね」
魔力を全身に巡らせたり、剣と足に魔力を込めて踏み込み岩を両断するがその断面はぶれており加減を間違えたせいで剣も僅かに歯こぼれしている。
これでは全然全くまるでダメだ。
―――今日のジークの戦闘を思い出す。
魔法を駆使して殲滅をしていたが魔族と剣を交えている時の動きは型はないが決して素人ではなく、魔族の少女の槍さばきも目で追えるギリギリのものであったのにそれを顔色一つ変えず捌ききった。
―――強さ。
あの強さは憧れすら抱く。私では足元にも及ばぬ遥かな高み。人としての限界を越えた先に、彼はいる。
―――私は知りたい。
彼の言葉は、いや、何より背中は雄弁に語っていた。多くの戦いを乗り越え、汚泥のような絶望を切り裂いたからこそ彼は魔王になったのだろう。
私も、登り詰めたい。そして―――
「元気だねぇ」
「!?!?!?」
何の前触れもなく―――気配なく背後にジークが現れて声をかけられ、飛び退いたくらいには驚いた。というか心臓が止まるかと思った。
案の定この男はニコニコしているのだが。
「疲れてる時に無理してもいい結果は出ないぞ。ほら、この断面もざらざらしてる」
いつから見ていたのかは分からない。だが、彼の指摘は私も感じていたことなので否定することはできない。
やる気も削がれ仕方ないので寝ようかと砦へ歩を向けるがジークに阻まれる。その顔は少し困ったような、決して悪戯のために来たのではないことが分かる。
「武器を見せてくれない?」
「………歯零れしてますよ?」
わざと不貞腐れて愚痴っぽい言い方をしながら差し出すが、ジークは特にきにすることなく受けとる。こういう時、妙に大人びて見えるのは何故だろうか。
ジークは受け取った剣を眺めたり、柄や刀身に触れたりということを2分ほど繰り返したあと鞘に納め、少し難しい顔をした。
「粗悪品とは言わないが効率が良くないな。これじゃあ消費する魔力も多く、かつ切れ味も悪い」
「………市場で買ったものですから、仕方ありません。高いものを買えるほど稼ぎもありません」
実際これまで各地を回る独り旅をしていた為、お金は適度にクエストを受けつつ食うに困らない程度に留めていた。お金があるならもう少しマシなものを買いたい。
「それもあるだろうが、単純に用途がカガリの戦い方と合致できてない。武器と使用者の相性も良くないと色々影響もでる。よし、戻ったらカガリ専用の剣を作るか」
そういうなりジークは真横に手を伸ばすと肘まで見えなくなる。そしてあれじゃないこれじゃないと呟きつつ何かを漁っている。空間が歪んでいるように見えるが異空間に手を突っ込んでいるような状態なのだろうか。
突っ込んでたらキリがない気がするから私は絶対何も言わない。
「あったあった。ほら、とりあえずこれを持っとけ」
そういって黒い棒のようなものを取り出すとそれを私に差し出した。
よく見ればそれは柄のない剣。剣を抜くとまるで磨かれた鏡のような艶のある輝きを放つ刀身が顔を出す。………これだけで分かる、業物だ。
「え、でもこんなの貰えないわ」
「いいんだよ、それは繋ぎだ。武器が完成したら返してもらうから」
「そうじゃないわ。これだってかなりの業物よ?それ以上なんて―――」
「これはお前のためだ」
そう言われて押し黙る。時折見せる、真剣な眼差しが私に向けられては何も言えなくなってしまう。
「俺はお前達と行動を共にする方針だが一から十まで守ってやるつもりはない。自分の身は自分で守れるようになれ」
そんなことはない、貴方には及ばないかもしれないが腕には自信がある。そう言いたいのに喉元でつっかえて発言することはない。
………分かっている、そんなこと。でもそれ以上に彼は真剣に、私達の身を案じてくれている。ならそんなことは口が裂けても言えない。
何も言えない私に彼は微笑み、割れ物を触るような優しい手つきで撫でてくれる。
「大丈夫だ、お前は強くなれる。強い意思があるからな」
―――安心感を覚えたのは何故だろうか。




