9-13
※カガリ視点
―――高峰総司とジークの戦いが始まった。
私達は王城にある作戦会議室に集まり遠見の水晶を使ってその様子を見ている状態。私とカガリはいてもいいのでは?とは思ったけどどれだけの力を発揮するか分からない以上足手まといになる可能性もあるのでこっちで待機することに。
高峰総司の動きはとても早い………が、決して鋭さがあるわけではない。私の所感だとジークの言っていたのと同じように戦い慣れはしてないと思う。至近距離で何かしようとしていたのもそうだし立ち回りが拙い。
スキルもあるのかもしれないけどその身に宿す魔力で肉体を大幅に強化していなれけばランクFかE辺りと大差はない気がする。
『クソ!ふざけやがって!絶空!!』
高峰総司が聖剣を振ると衝撃波が発生、ジークはそれに黒雷をぶつけるが真っ二つにされ、黒剣を束ねて防壁にしても同じく砕かれる。
しかし迫る衝撃波はまっすぐ単調な軌道であったため簡単に回避できた。
『ほう、なかなかのもんだな』
『そうやっていられるのも今の内だ。僕の絶空は攻防一体のチートスキルだ。君では絶対に勝てないよ』
先ほどからジークが色々な方法で攻撃しているものの全てアレに遮られて届かない。確かにあれは最強クラスのスキルではあるけど………無敵とは違う気がするのは私が偏屈なだけなのかな。
『さて、そろそろ頃合だな。約束通り、アイツらにみせてやる』
『漸く変身する気になったのか?』
ジークの魔王化のことを言っているのだろうけどジークはため息と共に首を振る。約束通りというのか………ジークのスキルのことだと思う。遂に、明かされる。
何をするのか、誰もがその動向を見守っている中―――空気は一変する。
『さぁ、始めよう。深淵たる魔王』
そう唱えると同時にジークが黒剣を放つ。見たところ何の変哲もない黒剣。
高峰総司も疑問に思いつつも左手を前に出して絶空と唱える。空間は遮断され、ジークの黒剣は届かない―――はずだった。
『がっ!?ぐあぁぁぁぁぁ!!!』
絶空は起動することなく黒剣は高峰総司の左肩を貫き、苦悶の表情を浮かべ膝をつく。
『なに………が………。なぜ………絶空が………』
『俺のスキル、深淵たる魔王は支配。自分のものに限定されるけど、代わりに増幅させたり変化させることができる。
君の絶空とは比べようもない貧弱なスキルだ』
それだけ聞くと自己強化スキルの亜種としか思えない。だけど、それだけならこの状況は説明できない。それほどまでに、遠くで見ている私達でさえ寒気を感じるのだから。
『その通り。それだけじゃあないよ。
俺の深淵たる魔王にはもう一つ能力がある。命体以外に限定されるが自分以外のスキルなどを複製、自分のものとする能力だ。
これによって得たお前の絶空を俺は支配し、使用不可にした。俺の絶空とお前の絶空は元を正せば同じもの。………ここまで言えばわかるよな?』
この状況に至るまでの全てが繋がる。ジークは何らかの方法で絶空を複製し獲得と支配を行う。高峰総司が絶空を使うタイミングで自分の絶空を使用できないようにすることで不意を突いた。
このスキルはスキルに依存した戦闘能力を持つ相手には致命的なほどの相性といっていい。そうした意味で、チートスキル一つで戦い続けてきた高峰総司では………ジークに勝つことは不可能と言える。
『そんな………ありえないだろ………』
『現実として起こってるんだ。認めなくともなんとかするしかないだろう?
さぁ、続けようか』
不敵に笑みを深めるジークと後ずさりする高峰総司。既に勝敗は決したといっていい。
―――ジークのスキル深淵たる魔王。一人では成り立たぬその力で、しかし彼は孤独ではないが故に君臨する。




