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※アスター視点
―――その日の夜。ジーク様のお部屋に配下が集った。
これからする話は魔王の関係者のみで共有する内容。お嬢様方には申し訳ないですが、こればかりは仕方ありません。
「忙しいところすまないな」
「いえいえ。それより、イーリス様の武器の件ですが………何度も申しあげた通り資源不足の現状では自重してくださいませ」
お嬢様方は気づいていないと思われますが正直な話、あの出費は痛い。手ごろなもので………とジーク様は説明しておりましたが実際のところそうではありませんでした。
「分かってる。魔皇結晶はしばらくは使わないようにするさ」
「………ならよいのですが。魔皇結晶はあと一つしかありません。今後のことも考えて製造は急ぎましょう」
魔皇結晶は上質な魔鉱石にジーク様の魔力を流し込み作り上げる、ジーク様以外作成することができない特殊な素材。魔剣すら作りだせる代物であるといえばお嬢様方もどれほどのものかすぐ理解されるでしょうね。
魔皇結晶の作成は一朝一夕でできるようなものではないのですが………あぁ、やはり惜しいですね。宝物庫の中身がもっとあればこんな苦労はしなかったのですが。
「こっちにくる際に宝物庫の中身の7割は向こうに置き去りだったからなぁ。
お陰でお前には苦労をかける。申し訳ない」
「謝罪は必要ありません。諌めはしますがジーク様のされること、そのお力になれることが我々の幸福にございます」
我々聖霊にはジーク様に返しきれない大恩がある。勿論それを除いてもジーク様にお仕えしたい。これほどお仕えすることに喜びを感じる主にはもう二度と出会えないでしょう。
「………そうだな。で、アネモネ。何かあるか?」
「いえ………その………少し、席を外してもいいでしょうか」
その姿は恥じらう乙女そのもの。なんとも可愛らしいですなぁ。
数分して戻ってきたアネモネは………なんとも可愛らしいワンピースを着ておりました。ほほぉ………これはなんとも。実によく似合っていますな。眼福眼福。
「あの………すみません、その………仕事中ですのに、その………」
色々な感情が混ざったような表情。顔も真っ赤になっていて何をいえばいいのか分からないといった状態ですなぁ。ガーベラと違ってこうした感情表現が豊かなのも愛らしいものです。
「よく似合ってる。セラフィ達と選んだのか?」
「はい………その、女の子なら、と」
「そうか。いいことだ。本来は俺から色々言ってやらないといけなかったところだが………アイツらには感謝だ。
そしてお前にもだアネモネ。可愛らしいお前を見て元気がでてきた。今なら高峰総司も楽勝だ」
アネモネに近づきならがそういうとジーク様は嬉しそうに微笑み、そして頭を撫でる。
―――聖霊には本来性別はない。聖霊は完全な存在。自己完結しており他者の存在を必要としないのです。
しかし我々は肉体を賜るときに性別を望んだ。敢えて不完全な存在になる。ジーク様をみていると不完全故にこそ、可能性を切り開く力がある。そして………愛情とは、なんと尊きことか。なんと、素晴らしき心か。それを知りたくて我々はこうある。
褒めちぎるジーク様と恥じらいながらも嬉しそうに微笑むアネモネ。あぁ、我々の選択は間違っていなかったのですね―――




