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※イーリス視点
―――それから時間が経ち、夜になったのでまたジークさんの工房に。今夜も泊めてもらえるということで感謝が尽きません。
今は自由時間ということでそれぞれが訓練に励んだり………ミレイナは、こう、魔法、大好きなのて、うん。楽しそうね。
「さて、イーリス。お前の武器ができたから最終調整をしよう」
私に割り当てられていた部屋にきたジークさんに連れられて作業部屋へ移動。作業部屋には珍しくガーベラさんではなくアスターさんがいた。
「ガーベラは?」
「準備が済み次第出撃します。釘は差しておきましたので無理をすることはないでしょう」
出撃?ガーベラさんが?と疑問に思って首を傾げているとジークさんがそれに気づいてこちらを向く。
「高峰総司が想定より早くこっちに来た時のために罠を仕掛けて時間稼ぎをな。
この手のことはアスターのほうが得意なんだが生憎と他が忙しくてな」
その割に優雅に紅茶を準備してくれていますが………恐らくは他に魔力などのリソースを割いているという意味でしょうか。
「まぁそういうもんだと思ってくれ。それよりお前の武器だ。
見た目はこんな感じだがどうだ?」
立てかけられていた杖を渡される。杖は全体が白で構成されているものでところどころ紅い紋様が刻まれている。持ってみると驚くほど軽く、それでいて杖自体に魔力というか、力を感じる。軽い気持ちでお願いしてみたもののこれは、凄い。
「えぇ、大丈夫です。素晴らしい出来ですね」
「そういって貰えてなによりだ。あとは名前だが………シラユキって名前を考えている」
「シラユキ………武器に名前をつけるのですか?」
そういうとジークさんは杖に優しく触れ、愛おしそうに撫でる。
「あぁ、そうだとも。人と同じで、名前がついて初めて無二の存在になる。コイツはお前と共に生きていくパートナーだ。名前くらいやってもバチは当たらないんじゃないか?」
その言葉は私の胸にストンと落ちる気がした。この人は不思議な人だ。人だけでなく、物にまでそんな優しい目を向けられる。魔王と呼ばれ敵対者には容赦なく抹殺する。そんな暴風のような存在故に隠されがちではあるものの、この人は本質的に優しい。だからこそ、周りに人は集まり笑顔で溢れ、信頼されている。
「そのシラユキという名前にはどんな想いが込められているんですか?」
胸が締め付けられるような痛み。悲しいわけではないのに、何故か。でも、これが心地よい。本当に、私は一体どうしてしまったのだろう。
「俺の世界に語り継がれてきた女性の名前でな。
………どんな逆境においても諦めることはせず、愚かといえるほど誠実で、それでいて人を信じる心を捨てない強さ。いいだろう、コイツも白く美しく、どんな場所においても咲き誇れる。
コイツにぴったりの名前だ」
そういってジークさんが撫でるとシラユキがほんのり紅い光を帯びた気がした。それまるで………意思があるかのように。
「いいと思います。それで、お願いします」
「了解した。じゃあ、最終調整をするぞ」
差し出された手を握る。
他の子達には悪いけれど………ジークさんの一面を知れて、こうして触れて、心が安らぐ。
最終調整を終えて渡されたシラユキ………そう、私の大切なパートナーになる子。
杖を撫でながらよろしくねと囁くと、触れた部分がほんのり暖かくなった気がした。




