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※カガリ視点
―――露店を巡り、王国の名所を巡り、美味しいものを食べて、色んなものをみて、話して………あぁ、楽しい。故郷での生活も楽しかったけど、今の生活はもっと楽しい。充実した日々、それが今ここにある。
「ふむ………なるほど。こういうものですか」
アネモネさんが並んでいる魔導具を見て一人納得している。可愛いアクセサリーや服などがメインのお店なのにアネモネさんは目もくれない様子。
「可愛らしい小物ですね。私、こういうものを見る機会が全然なくてよくイーリスにお願いしてたんですよ」
「団長におつかいって………ディアは使えるものはなんでも使うわよね」
「まぁまぁ。イーリス様ってこういうもの選ぶの上手ですしその目を信頼しているんでしょ?」
3人は昔ながらの友人同士で楽しく談笑。幼馴染み故にできる気安い会話が少し羨ましい。友情に勝ち負けはないと分かっていてもあの輪に入れたらと思ってしまうのは欲張りよね。
「あら、アネモネさん。折角なので可愛いものみてキャッキャしましょ!熊さんですよ熊さん」
熊のぬいぐるみを持ってアネモネさんを呼び寄せる王女様。対してアネモネさんは―――
「………不細工」
ただ一言、それだけ。
これには流石の王女様も固まる。セラフィは向こうを向いて震えている。笑いを堪えているともいう。ミラベルさんは………おろおろしている。どうしていいか分からないといった様子。
「私は今回の同行をこの世界の文明レベルの調査及び魔導具の調達を考えています。
それに私は戦闘メイド。着飾ることに意味はありません」
キッパリ言い切る。違うと思うな………。だってジークってそういうのは自分でやるかアスターさんを使うもの。今回のことはきっと、アネモネさんに遊んできて欲しいからってこと。このままでは良くないけどどうすれば―――
「ふふ、甘いですわよアネモネさん」
「………甘い、ですか」
ここでレインディア様がずずいっと前にでる。
「ジーク様は文武両道容姿端麗。まさに非の打ち所のないお方です」
「その通りでございます」
「つまり、その従者にもある程度のレベルが要求されるでしょう。時に従者をみて主人の品位を確認されるのですから」
「仰る通りでございます」
「―――つまり、アネモネさん。貴女にもこういったアクセサリーやお化粧などで着飾ることは必要だと思いませんか?」
熊のぬいぐるみをアネモネさんに押し付けて話を続ける。………それ、なんの意味があるでしょうか。
「それに、可愛らしいお洋服でいつもと違うアネモネさんを見せたらジーク様も喜ばれるでしょう」
「レインディア様!是非ともご教授を!」
アネモネさん陥落。レインディア様は嬉々として洋服のコーナーに連れて行く。
………さ、流石王女といえばいいのかしら。
「全く、ディアには呆れたものね」
「ずっとあぁなの?」
「そうじゃなかったと思うけど………。
でも、こうしてお出かけするのもいいものね。とっても楽しいわ」
同じ気持ちだった。それが嬉しい。親友と楽しい時間を共有できるというのはこれほどまでに満たされるものなのね。
「さ、私達もいきましょ。折角ならアネモネさんにも可愛く着飾ってジークをびっくりさせるんだから」
セラフィに手を引かれて私達もアネモネさんの元へ。
平穏な時間。この時間がずっと続けばいいのに―――




