8-18
※セラフィ視点
「あぁ、裏が取れた。オルトランド皇国で勇者が派遣された。目的地はアルフィア王国だ」
車で出てから1時間くらい経った頃。数分ほどジークが、たぶんアスターさんと話をしていたようで、終わった頃にそう話してくれた。
「オルトランド皇国ってここからそれなりに離れてるはずだけど………どうして分かったの?」
「私、気になります!」
疑問を素直にぶつけるカガリ&ディア。
オルトランド皇国は女神アナスタシアを信奉する大国の一つ。女神の加護もあるらしいけど、そんなところに間者でも送り込んだということだろうか。
「オルトランド皇国は元々目をつけていたからアスターに探らせていたのもある。今回は協力者も居たからだいぶ楽だったけどな」
やっぱり裏で色々動いているのね。………やっぱり、ジークは慎重だ。常に状況を把握すること、相手の一手を先読みすることに努めている。相手の動きを読むことは確かに基本だし大事なことではあるけどジークの場合尚更慎重にそれを行っている。把握できるまで動かないのではないかと思ってしまいそうになるレベル。
「そうなりますと相手は最強と言われる勇者、高峰総司となりますね。絶空と呼ばれる攻防一体のスキルを持っているようです」
「ほほう、どんなスキルか情報はあるのか?」
「私の知るところによりますと空間を断絶させるようなスキルらしく、自身の周囲に張って攻撃を防いだり飛ばすことでどんな硬い鱗を持つ龍ですら両断できるようです。
単純な身体能力も高く保有する魔力量も常人の数千倍はあるようですね」
空間を断絶って………チートじゃない。しかも魔力も身体能力もって………隙がないわ。それは確かに最強と言われるのも納得できるわ。
「そりゃすげぇ。文字通りチート異世界転生ものだな」
「あ、それで思い出した。そういえばジークって魔法とか魔王化とか色々してるけどスキルって使った姿見たことないけど、どんなスキル持ってるの?」
ふとカガリが超気になる質問をする。………言われて見ればそれ自体がもうスキルなんじゃないかっていうレベルの魔法などを使用していてつい影に隠れがちだけど、これ自体がスキルの影響ってこともありえそうね。
「お嬢様。それは―――」
「あぁ、高峰総司と戦うときに見せるよ。絶空に比べたら地味だけどな」
ガーベラさんが止めようとしたけどジークが構わず返答。ジークの言う地味ほど信用できないものはないと思うの。
「後はまぁ………アルフィア王国をどうするかだな」
「あの、それってどういう意味ですか?」
アルフィア王国をどうするか。文面だけ見ると不穏ではあるけどジークがそんなことをするとは思えない。ディアが恐る恐る聞いているので私も返答を待つ。
「アルフィア王国を滅ぼしたりはしないよ。ただ、形だけでも敵になったほうがいいかなどうか考えてるだけだ。
今度のことを考えると俺の存在は火種になる。そうなる前に―――」
「そんなことはありませんわ!」
ジークの言葉をディアは強く遮る。
「ジーク様を理由に攻める国は単純に理由が欲しいだけです。ジーク様が居なければ他の理由をつけて攻めてくるだけです。寧ろジーク様の存在をちらつかせるだけで一定の抑止力にすらなりえます。
だから………そんな寂しいことは言わないでくださいまし」
そう懇願するディアは悲しそうで、いまでも泣きそうだ。形だけ、そう形式上だけ敵になる話をジークはしていた。当たり障りのないアイデアでもあった。でも、ディアは否定した。
それをみたジークはなんとも言えない、嬉しさと悲しさとせつなさが入り混じったような表情をしていた。
「悪かった。今後については、少し考えるよ」
―――そして、それだけがジークにできた返事だった。




