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※へクター視点
行進せよ、果ての果てまで
―――たった一人の女に敗走した我々は通信用の魔具で帝国に連絡。ギニアス皇帝にアルフィア王国及び魔王に関わってはならないと進言した。
皇帝は血の気こそ盛んだが決して短慮される方ではない。仮にもフィンブル騎士団の団長まで上り詰めた私が、これほど強く警鐘を鳴らしている。これを重く見ていただけたが―――ただ一つだけ、条件が示された。
その男を帝国に連れてこい、というものだ。流石に無茶ではあったがその後に続く言葉で私は覚悟を決めたのだ。
『アズガルム帝国は力こそが全てだ。俺は皇帝の座をそうやって掴み取った。つまり、だ。俺が折れるのは力で敗北したときのみ。この目でみて言葉を交わし、場合によっちゃ剣を交え、俺が負けを認めない限り手を組むなんてあっちゃいけねぇのさ』
あぁ、そうだ。これでこそアズガルム帝国でありその頂点であられる方だ。身震いしたと同時になんとしても使命を果たすという覚悟を私は抱いた。あの方に仕えることができて本当に良かった。
やることが決まった上で私は付近で待機している部下の他に帝国内にいる部下にも指示を出した。
転移用の魔法陣を用意させ、付近で待機していた部下と合流して恥ずかしくないよう戦力を整える。
そうして我々は再びアルフィア王国近隣に戻ってきた。
「戻ってきた理由を伺いましょうか」
再びあの女と合間見えるが………今度は黒衣ではなくメイド服。隣には黒衣の男と執事が立っている。
「皇帝に話をしたところ是非会って話をしたいと仰られた為、その遣いとしてきた。決して戦意があるわけではないことは理解していただきたい」
そういうと女は握っていた武器を腰に戻して一歩下がった。
「なるほどな。そっちの皇帝は無名のお兄さんに会って話がしたいなんて物好きだな」
普通であるならそうだ。だが、目の前にいる男は異常と言っていい。あの魔族の大軍を退けた場面はこちらでも記録しているが………災厄としか言い表せない。我々でも危険視していた八星魔将グラードを一方的に屠ってみせた。
奴を討つにしてもかなり条件を揃えないとならず、アズガルム帝国だけでは不可能といっていい。討つことができる人物がいるとするなら………オルトランド皇国にいる異世界から来た最強の勇者のみだろう。
「そんなことはない。貴方は皇帝が興味を示すほどの力を持っている。
是非ともアズガルム帝国に来ていただきたい。できる限りの歓迎を約束しよう」
「おっけ。じゃあ先に帰って準備でもしていてくれ。後からいく」
「………え、あ、承諾していただけるのか」
こうもあっさり頷くものでつい聞き返してしまった。しまったと思ったがこの男は特に気にすることなく背を向ける。
「そうそう、コイツは返しておく」
そういうと執事が後ろに置いていた袋をこちらに投げた。人が一人入りそうな大きさで、開けて見ると―――中にはぼろぼろになったアイザック。生きてはいるが気を失っている。
「最低限の治療はしといたから死ぬことはないないだろう。じゃ、また後でな」
「下手な歓迎をするようでしたら命は保障しかねますので、ご注意を」
「無駄な抵抗はしても構いませんぞ。後の楽しみになりますからな。」
3人がそれぞれ一言だけ残して姿を消した。
………とりあえず、任務達成はできる。アイザックも失わなかった。
まだ、痛手ではないだろう。




