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※ジーク視点
「5箇所か」
闇魔法の応用で作り上げた黒剣を敵陣に射出したところ8箇所で障壁が展開され、そのうち5箇所は防がれた。残り3箇所は障壁を貫通しておりその惨状はお察しだろう。
「でもまだ数が多いな。もっかい―――」
「させるか!」
流石に対応が早い。魔族の1人があっという間に距離を詰め、俺に向けて槍を突きだしてきた。避けたけど。
「アレを防いだグループの1人だな?なかなかやるじゃないか」
「そういう貴様こそ、あの一撃で消耗していることだろう。回復する前に狩らせてもらう!」
他の魔族が続々と前に出ている中で、俺の目の前にいるダークエルフというものを思わせる褐色の少女は俺の黒剣を防ぎつつ前進していたのだろう。幹部クラスだろうか。
「ん?あんなの挨拶代わりさ。流石にあの大軍を相手にあれで全力なんて幾らなんでもお粗末だろう」
黒剣二本を錬成し、魔族の少女の攻撃を捌く。そのうちに他の魔族も到着し、俺は囲まれる。
「生憎ここにいるのは魔王の側近に選ばれる精鋭中の精鋭だ。蛮勇が仇となったな」
魔族といっても千差万別ということか。馬のような頭をした者からダークエルフのような者、色白だが爬虫類のような目をした顔に無数の鱗のようなものを生やした持つ者までいる。
「それはまだ分からんぞ?手薄になったところもあるからね」
俺の双眸が赤黒い魔力を纏い、その刹那赤黒い稲妻が魔物の群れへ降り注ぐ。その位置は―――
「ん?取りこぼしたか」
「貴様ぁ!」
砦を攻略するために用意した魔物を配置した、およそ83箇所にその稲妻は落ちた。今ので全滅させるつもりが幾つかは防がれ、座標ズレしたところもあったので結局2割は残してしまった。
「殺す!」
「これ以上させん!」
魔族達の猛攻を掻い潜り後退する際に近くにいた数人を蹴り飛ばし、斬り殺す。
「あれだけの規模の魔法を使っておきながら魔力切れを起こしていないというのか………!?」
先程の魔族の少女の瞳が赤く光る。恐らく俺の魔力残量を確認しているのだろうが、すぐに血の気の引いた顔に変わる。
「お前………化け物か………!?」
「あの程度の攻撃なら幾らでもできるぞ。というか俺に構ってるお陰で砦は攻略できなさそうな流れになってるけどいいのかい?」
脅威を即座に排除しようと手練れを俺に集中させ、他で砦を攻めているようだがセラフィ達の魔法によって張り付くすらできない有り様だ。
「ぐっ………こんなはずが、ない!」
馬の頭をした魔族が槍を持ち突撃してくるので正面と背後から黒剣を射出。なんとか致命傷は避けるものの背中と庇った左腕に黒剣が突き刺さり、怯んだ隙に首を跳ねた。
「くっ………グラード公爵が手も足もでないとは!」
反応からするとそれなりの人物なのだろうがあまりに弱い。俺が歩を進めると魔族達は後退する。流石に実力差を理解したらしい。
「お前達は退け。………ここは食い止める」
魔族の少女はあまりにも認めがたい現実を前に死を覚悟する。
―――たった一人のイレギュラーによって、揺るがない勝利を崩されたのだ。




