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※魔族達の視点
―――砦を視認できる距離まで到達した軍勢。その中にいる魔族の誰もがこう考えていた。
この戦いは我々の勝利であり、決して揺るがない、と。
事実、戦う前からあらゆる要素において敗北はあり得なかった。
同胞が同じように魔物を率いて各地に侵攻し、砦に戦力を送れないよう牽制してくれている。これも長い間調査し、慎重に分析し、そして確証を得たからこそ断言できる。
本命であるこの砦を落とせば街は目前。ライセンと呼ばれるあの街は魔族の統治する地域からそう遠くないところにあり作物を育てるのに適した土壌もある。
取ることができれば人間族を滅ぼす為の足掛かりとなる。
当然人員にも気を配っている。八星魔将という魔王様に認められた実力者を2人、更に選りすぐりの精鋭………冒険者組合で評価するところで最低でもBランク以上の兵士を連れている。
例え勇者が防衛に参加したとしても数の暴力で疲弊させてから幹部が殺しにかかれば勝算は十分にある。
―――揺るがない。揺るぎようがない。
そう、万に一つも敗因がない。誰もがそう確信していた。
………イレギュラーさえ、いなければ。
「………ん?なんだ?」
先行していた幹部の1人が砦の前で棒立ちの男を視認した。
赤と黒のメッシュで、顔には痣のようなものがあり、背格好から成人したばかりであろう青年がたった1人。
何者かと口を開こうとしたが、男の頭上に突如出現した刀身から柄まで黒い影のような剣によって遮られる。
その数は最早数えることが不可能なほどで、明らかにこちらを向いている。
―――背筋に悪寒が走る。
「障壁を張れぇ!」
幹部のその一言が引き金となり、魔物の軍勢に降り注ぐ漆黒の雨。
誰1人予想していなかった、あり得ない事態。
たった1人の男による蹂躙が始まった。




