6-3
※セラフィ視点
「よくできてるな。俺の記憶から引っ張り出してきたか?」
若干怒りを滲ませつつも、いつの間にか普段のジークに戻っている。
「その通り。私は貴方の記憶から再現しただけの幻影。この姿なら暴れられるリスクも減ると思って借りたわ」
「敵意があってのことなら即座に魔王化してたぞ」
「ふふ、それは命拾いしたわね」
どことなく気安さのある会話。愛華と呼ばれた女性は私より少し年上な雰囲気で、たぶん、ジークと同い年くらいなのだろう。
「で、何か用か?」
「えぇ、漸く大迷宮を踏破しうる人材が現れたと思ったら規格外までくっついてきたから、少し話をしておかないとって。貴方にも損はさせないわ」
そういってゆっくりこちらに向かって歩き出すのでジークは前に出て、私達に後ろにいるよういいつける。
「じゃあ話を聞こうか」
そういって先に話すよう促す。なんだか、穏やかになったというか、許してるのね。
「えっと………ジークね。大丈夫だとは思うけど、貴方にはあまり手出しをしないで欲しいわ。ここは試練のための場だもの。
そして大迷宮を壊さないでねってところかしら」
今、はっきり言った。試練のための場だと。大迷宮は意図して作られたもので、そのためのシステムであったこともこれで裏付けが取れたことになる。
「手出しは最小限にするさ。そうじゃなきゃ意味はない。
あとはそうだな………壊すかどうかはその時の気分次第だ。俺のもんや俺の身内にちょっかい出されてむしゃくしゃしてたら………まあその時は仕方ないよな?」
仕方なくないと思うのだけど。
「それが聞けたなら心配ないわね。それで、何か聞きたいことはある?」
「二つある。
1つは大迷宮の定員数。もう1つは………この大迷宮を作った人物の名前は?」
それを言うと女性は少し考える素振りを見せたあと再びこちらを向く。
「定員は大迷宮によって違うわ。一定数を越えると難易度が上がり、更に越えると侵入そのものを禁止する。ここだと5人以下なら通常難易度。9人以下で難易度が上がり、それ以上なら大迷宮に入れない。
人物については………行けば分かるわ」
そういうと女性は後ろを向いて何処かへ歩き出す。
「分かった。よし、この調子で行くか」
そういったものの、ジークは何処か遠い目で彼女を見つめている。まるで彼女を通して何かを幻視しているような、それを懐かしんでいるかのような、そんな雰囲気がある。
―――すると女性は振り返り、こちらをみて微笑む。
「貴方らしい魔王だわ。私の想像していた通りよ」
それだけ言って女性はふっと、この空間に溶け込むように消えていった。………何故だか、最後の言葉だけ違うような気がする。雰囲気というか、人が違うかのような。
「………お前の計算通りってか。全く、敵わないな」
それだけいって、ジークは歩き出す。
私達は何も言えなくて、ただその背中についていくしかなかった。




