5ー20
※ガーベラ視点
3月27日一部文章を修正しました。
オルトランド皇国→アズガルム帝国です
―――最愛の人が大迷宮へ向かってから1日が経とうとしていた。
できれば私もついていきたかったが、状況が状況なので我が儘を言うつもりはありません。その代わり、戻ったら沢山愛してもらうとしましょう。
「サボりはいけませんなぁ」
私がジークの部屋で寛いでいると、性格の悪い聖霊から非難がかかる。アスター………あの少女達は温和な老紳士とでも思っているでしょうけど本質は真逆。闇の聖霊のイメージと寸分違うことはない。
「現在は待ちの状態よ。それに、ジークが居なくて寂しいんだからいいじゃない」
「ホッホッ。まぁ、私も人のことは言えませんが世界を渡る際もかなり強引についていきましたからなぁ」
………そう、アスターもですがジークがあの少女達に召喚された時は私達は他の聖霊共々魔王城で仕事をしていた。ジークが用意してくれている聖霊用の異空間にはいつでも出入りできるので異変を察知してすぐに全員が異空間に移動。
しかし、世界を渡るという行為は決して簡単なことではない。実のところジークの宝物庫も7割が元の世界に残され、ついてこれた聖霊も私とアスターのみ。しかも、転移した当初は無理やりついていった関係で魔力もほぼ失っており異空間から出ることさえできないほど衰弱していた。
「それでもあの人と離れ離れになるよりはマシよ。近ければ魔力の回復も早いし、数日で元通りになったでしょ?」
「私は1週間以上かかったのですがなぁ。これもご寵愛の差なのでしょうな」
それを聞くと気が良くなる。自分はあの人にとって、聖霊達の中でも特別であるということを再認識できる。火の聖霊が聞いたらさぞ悔しがるだろう。
「ちょろいですなぁ。
さて、世間話はここまでとして。………動きがありましたぞ」
それを聞いて私も頭を切り替える。漸く仕事がやってきた。
「軍勢?」
「いえ、小隊ですな。恐らく陽導も兼ねているでしょう。アネモネも使いますかな?」
アネモネ………私が産み出した光の聖霊。世界を渡る際に私が保護しつつ一緒に連れてきたものの回復したのは最近のこと。今は万全ではあるが、相手のレベルが分からない以上彼女に重要な役割を与えるのはどうか。
「いいキッカケにはなると思いますぞ」
「分かってはいるつもり。アネモネは妹とも言える存在で、可愛いと思わないわけではないわ。だからこそ、大きな失敗をさせてしまうことになったらと思うと考えるのよ」
聖霊である私達にとって繁殖とは即ち分裂。自分の劣化コピーのようなものが出来上がるに過ぎない。………けれど、あの子は特別。あの子は私に流れてくるジークの魔力の一部を取り込み産まれた、はっきり言ってイレギュラーな聖霊である。
「ジーク様なら、どう考えますかな?」
「………分かってるわ。配置についてはすぐ決めるわ。
それより、相手は?」
そう聞くと笑みを浮かべ、実に楽しそうな表情を作る。しかし目は赤く輝き、決して笑っていない。
「アズガルム帝国。狙いはジーク様が留守であるうちに人質を手にいれる為、ですな」
「へぇ」
小賢しいこそ泥風情がジークのお気に入りに手を出そうとするなんて、なんと身の程知らずなことか。なんと………腹の立つ話であろうか。
「どうされますかな?」
「後悔させるに決まってるでしょう?」
ジークに楯突く愚か者には少し痛い目をみてもらいましょう。




