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送迎

 さて、この王女様、どういうわけか檻車の檻がいたくお気に入りの様子。

 本来ならば獣を入れる動物臭い場所なのですが、自ら望んでそのスペースに収まりにいきます。

 半ばあきれ顔でそれを見るドミノさんに、王女様は手信号で出発の合図を送ったようでした。、


「……アナちゃん、エステと入れ替わりで私についてきてくれる?」


 ドミノさんが私にこう言います。なんでもエステさん、ここまでずっと檻車を一人で引いてきてとてもお疲れなのだそうで……。

 

--

 

 抜けるような青空の下、私はドミノさんと黒づくめの不審者をふたりがかりで運搬します。

 檻車って思ったより重いです。そしてドミノさん見た目に反してかなりのタフネスです。

 

「こう見えて森育ちだからね、足腰は強いよ……」

 

 ひとまず次の目的地までは一人で檻車を引くつもりだというドミノさん。

 ドミノさんに限界が来たら、私にもこの重労働の順番がまわってくるのでしょうか……。



 そんなことを考えながら街中を歩いていると、なぜか道のど真ん中に急ごしらえの検問所。

 私は不思議に思います。こんなもの午前中には影も形もありませんでした。

 道を封鎖するこの人たちは、私たちのよく知る役所勤めの職員ではありません。

 

 聞けばこの人たちは王命により城から派遣されてきた衛兵さんたちなのだそう。

 どうやらドミノさんとは顔見知りのようで、この怪しい黒ずくめも特に調べもせずノーチェックで通してくれます。

 その後も同じような検問所にいくつも出くわしましたが、ドミノさんはそのすべてを顔パスで通過していきます。

 

『すごいですね……街中検問だらけじゃないですか……』

『姫が悪目立ちしちゃったからね、王様だって動かざるを得ないでしょそりゃ……』

『でもドミノさんよく疑われませんね、現状姫にいちばん近い人間なのに』

『私は王様に隠し事はしない。信用されてるんだよ。だから知らないもんは知らないで通るし、言えないもんはちゃんと言えないで納得してもらうし――』


--


 さて、私たち御一行はなぜかハンス邸の目の前で停車しました。

 明らかな急ぎ足でドミノさんは誰よりも早く店の中に入っていきます。

 そしてしばらくして、ドミノさんはしかめっ面で眉間を押さえながら店の入り口から出てきます。


『――野暮用が出来ちゃった、ちょっと王女様のお世話役をお願いしていいかな――』


 そう言われて手渡されたのは携帯用の発煙筒数本。非常時に焚けばその煙を見た誰かしらが駆けつけるとのこと。


 そして次の瞬間、ドミノさんは行き先も告げずものすごいスピードでどこかへと言ってしました。

 ドミノさん、私の想像よりはるかに足が早いです。いえ、そんなことに感心している場合ではないのですが。


--


 にこにことほほ笑む王女様の横で茫然とする私。

 ああ、なぜこんなことになってしまったのか。困惑している私の視界に王女様の右手が不自然に入りこみます。

 そして『何も知らされていないのですか』と手信号で私にこっそり語りかけてきます。

 私は視線はそのままで、伏し目がちに頬をわざとらしく膨らませて見せます。

 もはや手信号ですらないただの顔芸ですが、王女様はこれで私の心境を汲み取ってくれたようでした。

 王女様は可笑しそうに笑っていました。

 

 『――わかりました、じゃあ話は中でしましょう。この家の者たちが私のために部屋を整えているはずなので――』

 

--


 通されたのはハンス邸の二階。

 かつて姫も泊まったという本来ならばハンス君の私室であった住空間。

 綺麗に片付けられており、聞けばハンス君が私物をあらかた他の部屋に運び込んで作った部屋であるとのこと。

 ですがその空間に、やたら豪華な装丁の分厚い本だけが運び出されることなく積み上げられているのでした。


 そう、この王女様が人目を盗んで街に降りてくる動機となったのは何を隠そうこのララブ戦記だったのです。

 

 なんでもこの王女様、姫と同じくこの本の大ファンで物語の筋をそらんじられる程度にはその内容を読み込んでいるとのことでした。

 なら目当ては例の新しい本ですか、そう問うと、そうではないと王女様はどういうわけか不敵な笑みを浮かべます。

 

 王女様は言いました。私の知るララブ戦記は王族が訳をつけたララブ戦記。

 そして今目の前にあるのは、平民階級の青年が訳をつけた未だ見たことのないララブ戦記であるのだと。


 ……はぁ、と、私の喉から本日二度目の間抜けな生返事が漏れてしまいます。

 王女様、その嗜好ちょっとだけマニアックすぎやしませんかね……。

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