尋問官ジビエラ
――しばらくして、害獣課の現場責任者から先ほどの三点セットの男が運び込まれてきたという報告を受けます。
髭面、浅黒、頭に傷。私はそのイメージを反芻しながらその搬入された檻のもとへと急ぎます。
そして私は、その檻の中に入っている浅黒い男の人相を確認しました。
「――間違いありません。この人がリーダー格の男です」
私が職員たちにそう伝えると、先ほどの現場責任者と職員の数人がこの男を奥の部屋へと運び込みます。
……そうです、これから私の役所内での裏の本業、尋問官ジビエラのお仕事が始まるのです。
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実は私は、すでに檻の中で寝ている騒霊たちから夢の干渉による簡単な情報収集を終わらせています。
運び込まれた騒霊たちはみな昏睡状態ですから、夢の世界への干渉自体はとても容易に行うことができるのです。
私は適当な騒霊数人の夢の世界に干渉し、白い人形を取り出して【これはあなたのリーダーです】と暗示をかけました。
そして抽出された人物像のイメージを、私は自分の記憶の中に留めたのです。
私がリーダー格の人物像を到着前から知っていたのは、こういうからくりが働いていたということなのですね。
――私は地下の奥まった場所にある、ごく少数の人間しか入れない尋問室に足を運びます。
そして運び込まれたリーダー格の檻の前に腰を下ろし、夢の世界への干渉を始めました。
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――ここは髭の男の夢。私が作った白く空虚な虚空の世界。
そんな世界に、髭の男と尋問官である私が対峙しています。
髭の男は喋りません。私との会話に必要な、口を開く権限を与えていないのです。
私は髭の男に白い人形を見せ、【これは王家の次女である】と暗示をかけます。
すると現れたのはあの姫の姿。天使と一緒に街にいた時のあの恰好です。
私は虚空から熊狩り用の害獣課の斧を取り出して、力いっぱい姫の頭部へと振り下ろします。
姫の頭部は硬質な音を響かせながら斧を弾き、そのまま姫は姿を景色へと溶け込ませます。
そうです。姫は私の眼の前からシェニール候の秘術で姿を消したのです。
ですがこの髭の男のイメージする姫に次の行動はありませんでした。
秘術で消えて何もせず、そのままどこかに行ってしまったというのでしょうか。
あれ、おかしいですね。これは私の知ってる姫の動きではありません……。
――ここで私は察します。この男、真の意味での正しい姫の情報を持ち合わせていません。
おそらくは猫をかぶった、おとなしいほうの姫の姿しか知らないのです。
この男の認識下の姫は、秘術で己の身を護る可憐でか弱い少女でしかないのでしょう。
……ああ、まったくの期待外れです。
この調子ではこの男、王家のことを何ひとつ教えられていません。
でも、それでいいのかもしれませんね。
下手にすべてを知ってしまったら、彼らだって王家を襲おうなんて思えなくなるはずです。
彼らも所詮は下部組織、鉄砲玉の長でしかなかったということです。
……でもまあ、腐ることはありません。
彼の記憶を掘ることで、今回の作戦参加者のリストくらいは作れるのかもしれません。
私は試しに白い人形を【騒霊兵】と暗示をかけて男に見せました。
すると男の眼の前に、配下と思しき逞しい男たちの一団が現れます。
その男たちの顔は鮮明で、おぼろげな顔になっている者がひとりもいません。
おお、これはすごいですね。
この男、今回の作戦参加者をその末端まできっちり全員覚えています。
ここで私は先ほどの、この男の顔を知るためだけに干渉した夢のことを思い返します。
その夢にいた髭の男は現物よりも凛として、はるかに頼れる印象を醸し出していました。
夢の記憶の良し悪しは、その夢の主が当人に抱く内面感情に大きく左右されるものです。
きっとこの髭の男、指揮官としては非常に優秀で信頼に厚い人物なのでしょうね――。
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――いろいろ調べはしましたが、やはり彼に上層組織との直接の繋がりはありませんでした。
そして彼はあくまで戦時の作戦指揮官でしかなく、組織末端の取りまとめ役ですらなかったようです。
……つまりこの髭の男、情報集めの対象としてはほぼ価値のない大はずれだったわけです。
私は肩を落としながら、虚無の舞台を破壊して髭の男に夢の記憶が残らないようにします。
干渉を切り上げて尋問は終わり。この男からは大した情報は得られませんでした。
私は少し疲れた顔で、据え付きの椅子にもたれながら大きなため息をつきます。
リーダー格でこの感じなら、残りからもろくな情報は引き出せなさそうですね……。
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――尋問室のドアがノックされます。ここの職員でしょうか。
用件を聞くと、私に会いたいとやってきたドミノさんを待たせていると言っています。
ああ、じゃあここに通してください。ええ、ドミノさんならここで構いませんよ。
場所を作りましょう。じゃあこの髭男、さっさとみんなで移動させてしまいましょうか――。




