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僕はどこかの誰かさん(後編)


 ――間違いない。この頭部の衝撃は姫のスリングから放たれた石によるものである。


 僕は破片の飛び散り方から姫のいるであろう方角に大体の当たりをつける。

 森の中の暗がりに目を凝らしてみるが、当然のようにその姿はまったく見えない。

 ならばと僕も森の中へ。

 道路なんて開けた場所にいたら好きなように狙い撃ちにされちゃうからね。

 頭を守り、障害物を背に。なるべく静かに姫にその存在を悟られないように、だ。


 ――さて、ここからどうしよう。日が落ちてきて森の中は完全に真っ暗だ。

 ただでさえ見えにくい暗がりの中、姫はこっちに気づかれないよう可能な限り慎重に動くだろう。

 できれば姫が動いた時のほんの僅かな足音でも追いたいところなんだけど……。

 

 バチィン、いてっ! 今度は肩に正面からまともに石の剛速球をもらってしまった。


 あーあこりゃもうお手上げだ、僕の五感じゃ姫の居場所が全然見えない。

 でも姫はちゃんと的確にこっちに石を当ててくる。

 ってことは、あの姫こっちのこと見えてんのかなあやっぱり――。


 ――そうだ、ミケなら飼い主である姫のいる場所がわかるかもしれない。


 そう思ってミケのいる場所をふっと向くと、ミケの質量がいつのまにか半分になっている。


 ――あっ、しまった。そういうことか。


 これは迂闊だった。こいつは自分の知った顔なら誰の言うことでも無差別に聞いてしまう。

 きっとミケの半分は姫に呼ばれて戻っていってしまったのだ。

 ということは、じゃあつまりあっちにも索敵用のミケがいるということなのか。

 なんだよ、じゃあどんなに必死に隠れてたってこっちの潜伏場所なんてバレバレじゃないか――。


**


 そのあとはもう、ミケのナビゲートにすべてを託した夜の投石合戦だ。

 僕はとにかく森の中を細かく動き回って、頭を守りながら見えない的めがけ石を投げまくる。

 そして少しづつ、こっちの投石も姫の構える草の盾に当たるようになってきた。

 いやでも、それじゃ全然ダメなんだよね。

 こっちはその倍以上は手痛いのをたんまりと貰っているんだから。

 あーくそっ、また当てられた。なんだよ、姫ってこんなに戦闘慣れしてたっけ……。


 ――そして手元の半ミケから、姫の見ている幻覚についての本当にどうでもいい情報が寄せられる。


 姫は今、想像以上にタフな硬質(ハードタイプ)スカラベ(乾便射出型隠密仕様)が突然現れて、もう用済みになった私を始末しようとしているとかそんな妄言を吐きながら、怯えきった顔で森の中を逃げ回っている状態なのだという。


 ――えっ、なんだよかわいそうになってきた。石投げんのやめよ。


--


 ……さて、なんだかんだで余裕があるようにみえる僕だが本当はこの状況はかなり不味い。

 姫の罠による幻覚は、いわば人の姿がスカラベに見えてしまう呪いのようなものだ。

 さっきの僕のように、ただ道を歩いているだけでスカラベに間違えられる可能性すらある。


 そして最悪なことに、この道を一番よく使うのはあの事務所の主であるドミノさんたち。


 あの人たちは諜報員ではあるが訓練された戦闘要員などではない。

 頭に投石を受けた時点で、いとも簡単に死んでしまうのは間違いはないだろう。


(――これはドミノさんたちの留守中にカタをつけないとまずいよな、さすがに――)

 

 僕は岩陰にうつ伏せになりながら、できるだけ身体を動かさないよう息をひそめる。

 これで僕は姫にとって無害な動かないスカラベになった。

 これ以上姫の恐怖心を刺激するようなことはないだろう。


 そしてしばらくこの体制で、僕は今の状況の打開を考える。

 だが、どれだけ考えてもやはり打つ手がない。


 身体能力や必死さでの点で、僕は絶対今の姫には敵いそうもない。

 それにいまや僕の頭部は、あと一発分の石の衝撃で致命傷となるほどのひどいダメージを受けている。

 姫にその位置を捕捉されている以上、下手に動いてこの身をさらすわけにはいかない。


 では、手元の半ミケを使って姫にメッセージを送るか? 

 いや、仮に送ったとしてどうせまともな解釈などはされないだろう。

 姫にとって僕からの伝言はスカラベからの伝言なのだ。

 ただいたずらに混乱を招くだけとしか思えない。


 ――そして僕が何もできないまま無為に時間を過ごしていると、はるか遠くからミケの半分が戻ってきた。

 ミケは合体してもとの質量に戻り、預かってきたという伝言を読み上げ始める。


『姫の無力化に成功。至急戻られたし』


 ――メッセージの送り主は、僕と別行動をとっていたはずの姉さんだった。


**


 ……ああ、早とちりだ。僕は自分の思い違いを純粋に恥じた。

 ミケの質量が半分になったとき、その半分を呼び寄せたのは姫ではなく姉さんだったのだ。

 そして姉さんは呼び寄せたミケから、僕と姫との遭遇戦のことを聞かされることとなる。


 その後の姉さんの取った行動について、僕の口から説明することはほとんどない。

 ミケによる姫の潜伏位置の捕捉、突撃、確保。それだけ。

 うん、姉さんは姫よりはるかに強いから、難しいこと何も考える必要ないんだよね――。


(……ただ、姉さんはもう少し手加減を覚えたほうがいいと思うよ……)



 ああ、意識のない姫の頭に僕のやつよりはるかにでっかいクレーター。

 死なないでね、姫。


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