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僕はどこかの誰かさん(前編)


 ――やったぞ!ついにあの糞塊術士の末裔が現れたんだ――!


 たまたま城のそばの離れにいた僕は、伝達猫のミケから糞塊術士襲来の報を受け小躍りをした。


 ああそうとも、そりゃあもう嬉しかったさ。

 僕はあの無機物に知性を与える糞塊術士の伝承技術に興味津々なのだ。


 差し込むだけでその物体に知性を宿らせる、そんなことができる核を作れる人たち。

 そんな奇跡の存在である糞塊術士たちが、あの村落で根絶やしにされることなく生きていてくれた。

 しかも、格段にパワーアップしたというスカラベ個体を引っ提げての再起だというではないか。


 ――ああ、夢のようだ。

 糞塊術士の創造物と出会える機会なんてもう二度とないと思っていた。

 スカラベの核はいま僕が一番欲しい宝物。極めて貴重で価値のある研究対象なのだ。

 よーし待っていろよ糞塊術士。待っていろよ輝かしきスカラベの核。

 物も技術もその頭脳も、この世の中の優れたものはすべて僕が収集し尽くしてやるんだもんね!



 ――ああ、もう我慢できない。居てもたってもいられない。

 いいよね。シェニール候の大鷲、勝手に一匹拝借しちゃうけど許されるよね。

 あとで侯爵の拳骨をしこたま食らうかもしれないけど、そのくらいなら別にいいんだ。

 だって今の侯爵の拳骨、痛くないないから怖くもなんともないんだよね。


**


 そしてそして、やって来ました現地上空。


 うん、潜伏型スカラベの潜む戦場に陸路から入るのは非常にナンセンスだよ。

 対スカラベ戦は空からってのはもう絶対のセオリーだし、最悪でも一回はここ一帯を俯瞰しないとダメなんだよね。

 あっ、あくまで上から見るのは地形だからね。

 擬態したスカラベなんて空からじゃ小さすぎて判別できないから。


 あれっでも、姫は糞塔を巨木に例えてたからあれは鷲の上からでも見えるサイズなのかな?

 ……ねえミケ、例の糞塔がいるのってドミノさんの事務所前なんだよね?

 それは間違いないんだよね?


**


 僕はミケから姫の伝達内容とはまた別の、ミケの主観から見た現地の状況を聞かせてもらった。

 そしてそれを聞いたぼくは、姫の愚かさに大きく肩を落とすこととなる。


(……ああ、そっか……考えてみたらこのへん、ドミノ一派のテリトリーじゃん……)


 油断が仇となったのだろう。

 姫は夢魔の設置罠の存在をあの場にいながら微塵も警戒していなかった。


 何もない空間を畏怖し、何もない空間を警戒し、何もない空間にひたすら投石を繰り返してしていたという姫。

 そしてその結果がこの惨状だ。

 ドミノさんたちの事務所の庭は投石により徹底的に破壊され、あたりには砕けた石ころがこれでもかとばかりに散らかっている。


 ……あー、もうほんと、何やってんだよお前は。


 僕は再び腹の底から深いため息をつく。


 いいか姫、ドミノさんたちは棄児院の子供たちを満足に食わせるために必死に働いてる。

 自分の責任を果たすため、とんでもないスケジュールで毎日を懸命に生きてるんだ。

 なのに姫はそんなドミノさんたちのところに押し掛けて、相手の都合も考えず自分の世話を焼かせている。

 そしてその上さらに追加でこの庭の惨状だ。まったく、情けなくて涙が出るよ。


 ――ああ、あとで姫には僕からきつく説教をしてやらなければならない。


 あいつにはいまだに自分が最高権力者のただひとりの血族であるという自覚がない。

 王家の一員として恥ずかしくない、良識を備えた女性にならねばならないという当たり前の意識が足りていない。


 ――おそらくそう遠くはない未来、父である国王がその波乱万丈な生を終えたとき。

 順当にいけばこの国を継ぐのは、王族唯一の生き残りであるあの姫なのだ。

 他に残された選択肢はない。

 そのことをどれだけ理解しているのかを僕は姫に問い正しておきたい。

 

** 


 僕はこう考える。ドミノさんにこの荒れた庭を絶対に片付けさせるわけにはいかない。

 これは姫の失態であり王家の恥だ。その後始末は何が何でも僕たちだけでやる。


 そう決めた僕は、ミケを姉さんのところに送りシェニールの大鷲を追加投入してもらう。

 土慣らしの道具、破壊された柵の修復に必要な資材などは外から持ち込まなければならない。

 ああ、ついでだから姉さんにも来てもらおうかな。

 どう考えても人の手が足りなくなるだろうから。


**


 ――姉さんは3匹の大鷲を引き連れてやってきた。

 鷲のことは姉さんがシェニール候に改めて話を通しておいてくれたそうだ。


 持ち込まれた積み荷には、十分すぎる量の姫の普段着や日用品なども含まれていた。

 これはここ最近の姫の生活態度をミケから聞かされた姉さんが、怒りに任せて持ってきたものなのだという。


 僕たちは荷物の積み下ろしを終わらせたあと、それぞれの役割分担を決める。

 姉さんは砕けた石の掃除と庭の地ならし。僕は壊された柵や塀の修理だ。

 よし、がんばるぞ。


**


 ――そして、あたりが薄暗くなるまで作業しただろうか。


 僕たちの努力の甲斐あって、地面も、柵も、ひととおり見れるレベルには修復できたと思う。

 なぜか庭先に落ちていたシェニール候の金塊は、邪魔になるからと姉さんがどこかにの壁際に動かしてしまったようだった。


**


 ――さて、次は通路を封鎖している縄の撤去である。

 そしてなにより、姫の署名入りの書き置きだけは速やかに回収、処分しなければならない。

 姫は死んだことになっているのだから、姫の署名などこの世に存在してはいけないのだ。

 

 そしてミケに導かれ、僕は道路の封鎖点へと到着する。

 署名入りの書き置きは発見次第即焼却。

 あとはこの縄を回収して、ドミノさんの事務所の脇へと戻しておけばいい。

 よし、これで姫の奇行の後始末は終了。お疲れさまでした――。


 ……そう思った次の瞬間、僕の頭に固いものがすごい勢いで衝突して砕け散る。

 恐る恐る触ってみると、そこにはなんとこぶしサイズのクレーターができている。



 ……ああ、そうだった、おかしくなった姫の回収がまだだったっけ……。


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