インゴット
――姫の欲しいものリストの作成が止まらない。
もう戻らないと思っていた思い出の詰まった自分の持ち物が旺国にまだあって、ミツさんに頼めば戻ってくるかもしれない。そんな想いが、彼女の筆を走らせているのだろう。
のぞき込むと、『確保のための資金に糸目はつけない』の一文。姫の本気が伺える。
あー、姫、冊子のこと忘れてない? 後でエステにちゃんとそれ渡すんだよ?
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――このあと私はアナちゃんと事務所へ、もちろん姫は置いていく。
実はこの倉庫、事務所のすぐ裏手にあって事務所までの道のりはそう遠くない。
よし、事務所の玄関先に着いたぞ。アナちゃんと一緒にお茶でも飲んで休憩するか。
……そう思った矢先、事務所のドアの真ん前に大きめの布鞄が落ちているのが目に入る。
その地の厚い布鞄は強い衝撃でも加わったのか、部分的にかなり大きく破損していた。
その形状と大きさは城壁の石積みに使われる四角い石材そのものだ。
私は鞄のポケットにメッセージカードらしきものを発見。
差出人を確認する。えっ……ちょっと待って、これっていったいどういうこと?
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地月逸日夕の刻、ご家族そろってご招待いたします
シェニール・ウィリアム
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このシェニール・ウィリアム候、この国で軍神と呼ばれた英雄である。
(……はて、私はこんな招待を受けるようなことを何かしただろうか……)
招待状には「ご家族そろって」とあるが、私もエステも独身で自分の家庭などというものに縁はない。
ここでのご家族というのはおそらく、棄児院の子供たちのことを指すのだろう。
それを指定の日時に呼び出したいというあちら意図は伝わった。
侯爵様のお誘いだ。それに関してはこちらに拒否権もないし断る理由もない。
ただ、私にはこの説明もなしに置き去られたこのばかでかい荷物の意味が分からないのだ。
私が鞄を開けてみると、その中に入っていたのは石材サイズの金の塊だった。
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「……さ、さて。ちなみにアナちゃん、この金塊の価値いくらとみる……?」
「えっ……ここで私ですか? いや、うーん、私には想像すらできないんですけど……」
「だいたいでいいよ、だいたいで。金貨換算」
「それだってわかんないですよ。あまりにも塊のサイズに現実味がなさ過ぎて……」
「金塊の重さから逆算できないかな」
「理屈の上ではできますけどね。まあ、どうやって重さ測るんだって話になりますけど……」
そして金塊を無理矢理動かそうとしたアナちゃんがひとり静かに腰を痛めた。
……ごめん、変なこと言うんじゃなかった。あとで家まで送るわ……。
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私はすぐさま、緊急連絡用の狼煙を上げてウパを呼び出す。
アナちゃんの送り迎えを済ませた後、帰り道にウパを拾ってにそのまま事務所へ。
その道すがら、私はウパにシェニール侯からの招待状の話を簡単に伝えておいた。
事務所内に入り、私たちは連れて行く子供たちの身支度についての話し合いを開始。
そう、侯爵様からのお呼ばれである以上、私たちは子供たちに棄児院のぼろ服を着せていくわけにはいかないのだ。
結局、新しい子供服はアナ商店で人数分を揃えることになった。
もちろん付き添いは必要だ。
失敗のないよう、私、ウパ、エステの三人で店に行こうと思っている。
そしてそうなると心配になってくるのが、庭先にある動かせない金塊のことだ。
一応は布鞄に包まれてはいるものの、その隙間からはしっかり金の地肌が見え隠れしている。
いくら人のこない場所とはいえ、さすがにこのままでは不安で不安で仕方がない。
「――なら私、棄児院から使ってない白昼夢の罠持ってきましょうか?」
おお、すばらしい。あれを事務所の周辺に撒けば確かにそれで確実な人除けになる。
私はウパのこの提案に乗ることにした。
うん、こういう時のウパちゃんは本当に頼りになる子なのである。




