ドリームデリバリー
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<どこでも訪問秘密は厳守、夢の中なら意中の人も思いのままに>
――夢魔による淫靡な夢をあなたに ドリームデリバリー
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これ、ドミノさんが一年前に持ってきた自作のチラシ。うちの店の一番目立つところに貼ってあるんだ。
あっ、私は町のパン屋の娘。シーナっていうの。よろしくね。
で、これを持ってきた人が夢魔のドミノさん。
きれいな女の人で、よくうちの店で飲み食いしてくれる常連さんなんだ。
ドミノさんのお仕事は夢の配達人。ドミノさんにとって、夢は商品。
……そりゃ、売り上げのほとんどが<性的な夢>だって聞いてるけど……まあ、そりゃ夢魔だもんね。誰だってそっち方面期待しちゃうよね。
街のみんなが眠りについたあと、その真夜中の暗い街路をぶらぶら。
ドミノさんはいつもそうやって、遠くから他人の眠りに干渉して夢を見せてる。
夢の中身が中身だから、どこの誰にどんな夢を見せたとかは絶対言えないんだって。そうしないと、お客さんが逃げちゃうんだって。
ドミノさんは知らない土地から流れて来て、女手一つで新しい商売を成功させてちゃんとしっかり稼いでる。
そして街の誰ともぶつかることなく上手くやってるんだ。
私それって、本当にすごいことだと思ってるんだよ。
――だから私、ドミノさんのこと尊敬してるんだ。
いいよね、憧れちゃうよね、経済的に自立してる女の人ってさ!
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――私はドミノ。 シーナちゃんの私に対する憧れの視線がつらい。
私のやってるビジネスなんて所詮は日陰者の商売。
夢の中の売春宿をデリバリーするような仕事でしかない。
だから称賛になんか値しないし商売の手本にもすべきではない。
シーナちゃんにはそのことを、私は何度何度も説明している。
だが彼女は私の言うことを一向に認めようとしない。
ただすごいすごいと私のやることをひたすら褒めちぎるのみなのだ。
……きっと彼女は独立心が強いのだろう。
自分もいつか新しい商売ででかい成功を収めるんだと息巻いている。
だが現実はそんなに甘くない、やめておけと思う。
地域に根付いた実家のパン屋の仕事。仲の良い家族。
心悩まされることのない穏やかで平穏な日常。
いったいそれの何が不満だというのだ。
ああ、私には彼女が理解できない。
**
今晩の夢のお仕事をひととおり片付け、私は街から離れたところにある自分の事務所へ戻る。
今日は疲れた、ゆっくり休もう。
そう思い寝床に向かうとすでに先客に事務所のベッドを占拠されていた。
この先客の名はアナ。事務手伝い。まだ顔立ちにあどけなさの残る少女である。
――ふと目をやると、机の上に私宛の書置きがある。
私の相棒のエステからだ。目を通す。
【商談のため不在。アナちゃんのご褒美をよろしく エステ】
ご褒美――ああ、あれのことだな。
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ここでいうご褒美というのは、おそらく私たちが商品としている夢のこと。
エステはうちの夢遊びのタダ券を、残業手当の代わりにアナちゃんに手渡している。ここで仕事をする以上、私たち夢魔の夢のことはちゃんと知っておくべきというのがその理由だった。
――そしてこのアナちゃん、うちの夢遊びに思いのほかハマってしまう。
以来、アナちゃんは頼まれてもいないのにここにきては進んで泊り仕事をするようになっていく。そしてその都度タダ券を確保しては夢の中でエステといちゃついているらしいのだ。
そう、アナちゃんがお相手に選ぶのは大抵は仲のいいエステのほうなのである。
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――私の夢のサービスは大人向け。
よって、未成人のお客様からのオーダーは基本的にお断りしている。
……だが、彼女には従業員研修という建前とタダ券がある。
特にこのタダ券はここの超過労働で得た正当な対価である。無下にはできない。
私は適当な椅子に座り、目を閉じる。
夢の舞台を整えるべく、私はこれからアナちゃんの眠りに干渉するのだ。