最終回(仮)
「思い出した?兄さん。」
「あぁ、全部思い出したよ。」
スペクトは少しほっとしたように笑顔を見せる。
「これでもう敬語は必要ないかな?」
「あぁ、気持ち悪いからやめてくれ。」
「気持ち悪いなんてひどいなぁ。これでも初対面だと思っている兄さんに気を使ったんだよ?」
気を使うのならもっと違うところにも配慮してほしかったな。
特に僕の心とか。
「それでどうだった?なかなかの力作だったと思うんだけど。」
「確かによくできていたよ。」
現実と見分けがつかないくらいに。
「色々と兄さんを飽きさせないように工夫したんだよ?誰と会わせるかとか扉の配置とかね。」
「扉ね…色で物語を区分けしてたのか。」
「大雑把にだけどね。緑は比較的友好的で安全なもの。赤は直接的に危険で敵対的な生き物、そして青は危険かつ物にまつわるものって感じだね。例外にウィルの白い部屋とラストステージの黒い扉だね。」
「なんで危険なものを入れる必要があったんだよ。」
「その方が退屈しないでしょ?」
「………。」
そうだった。
こいつはそういうやつだった…。
それにしてもラストステージの黒い扉ってあの三頭のことだよな。
「あの黒い扉の問題に答えなんてあったのか?」
「一応誰も脱落しない方法はあるよ。」
「どうするんだ?」
「ウィルだよ。ウィルならあの場で喰われていたとしても関係ない。自分で新しい体を作り出せるからね。」
そんなのウィルが何者か知っている今だからわかることであの時の僕にはどうしようもないじゃないか。それにウィル自身そんなことができる記憶を失っていたわけだしな。
「あとはチェシャ猫だね。」
「チェシャ猫?」
あの場にまでついてきていたのか。
「チェシャ猫に喰われたふりをさせても何とかなったと思うよ?姿を消させてね。」
「そんなの口の中の感触でわかるだろ?」
「あのケルベロスとスピンクスのキメラはチェシャ猫が消えることなんて知らない上にあの体格の差だ。いくらでもごまかしはきくよ。」
どちらにせよあのチェシャ猫に言うとおりに行動させるのは無理だったと思うがな。
「僕としては兄さんに存在することの大切ささえ分かってもらえればよかったわけだから、兄さんがウィルと吸血鬼ハンターをかばうもよし、どちらかを失ってそこにあることの重要性を噛み締めるもよしって感じだったんだけどね。」
「お前って思っていた以上にドSだったんだな…。」
「何のこと?」
スペクトは本当に何もわかっていないようで天然で僕にこんな仕打ちをしたようだった。
こんなことをして悪気もないとか僕の弟、たちが悪すぎる。
「グリンとヘルシングはちゃんと生き返らしてくれるんだよな?」
「もちろんっ!兄さんが望むならそうするよ。それに僕の子供たちみたいなものだしね。」
その子供を死地に追いやるとか獅子の子落としを実際にやってのける奴なんて初めて見た。
それも子の器量を測っているわけではないというただの児童虐待である。ヘルシングはどう考えても児童には見えないな…。
「それで結局兄さんの意見はどうなの?この『箱』を管理することがどれだけ大切なことかはわかった?」
『箱』にある情報を基にスペクトがつくった『審判の箱』。
そこで出会った仲間たちの存在は僕にとって大切な存在となった。
それは紛れもない事実である。
「審判の箱で出会った仲間たちが大切でかけがえのないものだとは感じるよ。」
「そう、それはよかった!」
「でもそれと『箱』を大事に管理するかは別問題だろう?」
仲間たちが大切ならば『審判の箱』を管理するだけでいいわけで、わざわざ莫大な情報量を持つ『箱』を管理する必要はないのだ。
「それは違うよ、兄さん。」
「何が違うっていうんだ?」
「僕がそんな根本的なところでミスをするとでも?兄さんにちゃんと僕らの仕事の重要性をわかってもらうためにやったのにそんな結末を選べるようにはしていないよ。」
手で審判の箱を示して言う。
「この審判の箱の住民たちは『箱』の情報を抜き取ってつくったわけじゃない。あくまで連動させているだけさ二つの箱をね。」
「つまりどういうことだ?」
「『箱』が失われれば審判の箱の住民も消滅するだろうってこと。」
「―――ッ⁉」
我が弟ながらやることがえげつない。
「お前いくら目的のためとはいえ容赦ないな。」
どう考えても脅しでしかない。
兄を脅す弟とか本当にやめていただきたい。
「しっかりと働かないと仲間を皆殺しにしちゃうぞ」なんてそんなブラック企業聞いたことない。
「まぁ、これは仕方がないことなんだよ。いくら僕でもブラックボックスである『箱』のデータをコピーする技術なんてないし、管理者権限を使って流用するので手一杯さ。」
結果的には目的を果たすためにはそれで十分だったというわけか。
「それで、兄さんはどうするつもりなの?『箱』も『審判の箱』も全部ほっぽり出してすべてを無に帰すのか。それとも僕と『箱』の管理を続けるのか。」
「答えなんてわかってるだろ。」
「まぁね。」
僕はカチコチに固まった体をほぐしながらスペクトに言う。
「『審判の箱』の管理権限は僕が貰う。それがこれからも一緒にこの仕事をする条件だ。」
「いいよ。もともとそのつもりだったしね。」
………。
そして今、僕は『箱』の管理を行いつつ『審判の箱』の管理もウィルとともに行っている。
今日はあの日現実に戻ってきてから数日、初めて審判の中に入る。
時間がかかってしまったのは僕が審判の箱にいる間に『箱』の情報整理をする仕事が溜まっていたからだ。
グリンとヘルシングを生き返らせることも無事にできこれが初対面となる。
「準備できたよ兄さん。」
「それではナノさん。私は先に行ってお待ちしていますね。」
機械からウィルの声だけが聞こえる。
自分の本名が分かった今もウィルにはナノと呼ばせている。
今となっては僕の立場はウィルの上司、いや、神にに等しいはずなんだが僕に対する態度は相変わらずだった。
でもその近い関係が心地いい。
これから再びみんなに直接会うことができる。
僕は平静を装っていたが心臓は興奮と緊張でバクバクだった。
待ちに待った時が来た。
「それじゃ、いってらっしゃい。兄さん。」
僕は顔に笑みにを浮かべて意識を飛ばした。
ついに来てしまいました最終回(仮)!!
えぇ、(仮)です。
この話を読んでくださった方は分かるように主人公が仲間たちに再開する話へと続いていきます。
ですがこれ以降のお話を書くかどうかは現時点では決めておりませんので(仮)とさせていただきました。
兎にも角にも【審判の箱】をここまで読んでくださりありがとうございました!
ここまでこの小説を書いてこられたのも私の趣味全開ワールドにお付き合いいただき、読んでくださる皆さんのおかげです!!
次回作がこのお話の続編となるかまた別のお話となるかはわかりませんが、もし見かけるようなことがありましたら読んでいただければなと思います。
『審判の箱』の評価、好きなエピソード・嫌いなエピソードの感想など頂けましたら今後の参考となりますのでよろしくお願いいたします!
ご愛読いただきありがとうございました‼




