過去
「仮想…世界?」
「そう。兄さんが部屋で目覚めてからこの場所に来るまでずっと僕のつくった仮想世界、審判の箱の中にいたんです。いや、一度死んでしまって戻ってきたこともありましたね。確か夢と勘違いしていたんでしたっけ?」
今までいたあれがすべて現実じゃないっていうのか?
グリンもヘルシングも他の出会ったみんなだって全部現実には存在しないっていうのか?
「そんなはずは…。熱や痛みだって感じた!嘘のはずがないっ!」
「そう思うのも仕方ないですけどどね。五感全てで感じられるようになっていますし基本的に現実世界と違いを判別することはできません。唯一できるとすればおなかがすかないことと死んだときぐらいですかね。あの時の兄さんみたいに。」
「………。」
吸血鬼に襲われたあの時…。
僕は死を覚悟した。
だけれど起きた時にはそれが跡形もなく無くなっていた
つまり、そういうことだったっていうのか?
全部仮想の偽りのものだったと?
「グリンもヘルシングも最初から存在していなかったと?」
大切な仲間だと思っていた存在が端からいなかったというのかっ⁉
「いやいや、しっかりと存在していますよ。」
―――っ!?
「どういうことだっ!?今、全部仮想現実だって!!」
「確かに仮想現実ですけど彼らは自分で考えることもできれば行動もする。それは十分そこに存在すると言えるんじゃないですかね?」
男は僕の目をまっすぐと見て言う。
こいつのいうようにグリンやヘルシングはたとえ仮想現実だとしても確かに僕の目の前に存在していたと僕自身も思う。
だが、そう考えるとこいつの行動はおかしい。
「お前もそう考えるのならどうして二人を死なせるような事ができたんだっ!」
「それは目的のためには必要だと思いましたし、取り返しがつくことだからです。」
「なに!?」
「あのグリフォンの子と吸血鬼ハンターの命は後から取り返しがつくってことですよ。」
命の取り返しがつくって…。
「それって…。」
「生き返らせることができるってことです。」
二人が…生き返る?
「言ってしまえば仮想世界はデータの集合体です。それをつくったのが僕でもちろんそのデータをいじる権限だってあります。『死亡した』というのを『生きている』という風に変えれば万事解決!『箱』のデータを改ざんすることはできないですが、『審判の箱』内なら僕でも手を加えられます。死ぬときの痛みはもちろんあったと思いますが、それは生みの親に対する親孝行ということで我慢してもらいたいですね。」
目的のために子供に死んでもらうなんて自分勝手極まりない。
「生き返らせてくれるということか?」
「兄さんが望むのならもちろんそうします。でもその前に兄さんには全部思い出してもらわないといけません。」
そういうと男は僕の座っている装置をカチャカチャといじり始める。
「何をやっているんだっ?」
「そろそろ兄さんの脳も安定したと思うので、さっき言ったように全部思う出してもらおうと思いまして。そのための準備です。」
椅子からヴゥーンという音が鳴り光りだす。
「背もたれに背中を預けて動かないでくださいね。変に動くと本当に記憶を無くしちゃいますよ?」
最後にものすごく怖いことを言われ、言われた通りにじっと待つ。
キュィーーーン
………。
「兄さん!『箱』をそんな風に扱っちゃだめだよっ!大事な情報が詰まっているんだからっ!」
「スペクト、こんなただの立方体に毎日毎日何時間も時間を取られるのは馬鹿らしくないか?」
そういって僕は手の中にある白い立方体をくるくると回したりして遊ぶ。
「だからダメだって‼それをしっかりと管理して維持することが僕らの仕事なんだから。」
「仕事っていってもこんなあってもしょうがないような物語のデータを整理するだけだろ?こんなもの不要なデータとして処理したほうがスッキリすると思うけどね。」
このまま一生をこんな『箱』のために費やすなんて僕には耐えられない。
「兄さん、『箱』の一つ一つのデータにはちゃんと存在価値があるんだ。物語の情報がここにある。ただそれだけでもとても重要なことなんだよ?」
「重要ねぇ…。」
僕の弟であるスペクトはいつもこうやって僕をたしなめる。
だが、そのたびに僕は思う。
この『箱』に存在するものが本当にそれだけの価値があるのかと。
いつものように『箱』を管理していたある日のこと。
「スペクト、お前何をつくっているんだ?」
その日スペクトは箱にあるデータを使い、何やら製作しているようだった。
「兄さんの間違った考えを矯正させるための設備をつくってる。」
「なんだ、また『箱』が大事だって話か?」
「そうだよ。完成したらちゃんとこれを兄さんに体験してもらって僕の言っていることを実感してもらうからね。」
「別に俺は今の考えを矯正したいとは思っていないんだが。」
「僕は兄さんに今の仕事の価値をちゃんとわかってほしいんだよ。もしこれでも兄さんが今の考えから変わらないっていうなら『箱』は兄さんの好きにしていいよ。」
「本当か?」
これを処分してしまえば面倒な仕事が減って万々歳だ。
スペクトには自信があるようで「男に二言はない」と胸を張っていた。
「まぁ、期待せずに待ってるよ。」
……。
そして数日が経ちスペクトが製作してたものが完成した。
「兄さんっ!遂に完成だっ!」
「おぉ、できたのか。」
スペクトが完成したと言ったその目線の先には『箱』とは色違いの黒い立方体があった。
「それが前に言っていたやつか?」
「そうっ!僕の力作っ、『審判の箱』だよっ‼」
「審判の箱ねぇ…。それっていったい何なんだ?」
『箱』を使っていたから物語が関係しているのは確かだが見た目ではその内容までは分からない。
「『箱』のデータを使ってその物語に仮想世界の中で直接触れ合えるものだよ。これできっと兄さんも考え直してくれるっ!」
そういってスペクトは審判の箱を機械にセットし横の椅子に座るように促してくる。
「ここに座っていればいいのか?」
「うん、兄さんは座っていてさえくれればいいよ。」
「わかった。」
スペクトが準備している間、椅子に座りスペクトが入れてくれた僕がお気に入りのコーヒーを飲む。
…ふぅ、やっぱり美味しい。
準備が終わったようで僕の正面にやってきたスペクトは言い忘れていたと一言いう。
「兄さんの記憶は一時的に取り除かせてもらうからね。」
「――っ!?なんだって?」
「今みたいな先入観を持ったような状態だと目の前にあるものを素直に感じることができないと思うし。」
「聞いてないぞっ、そんなことっ!?」
「今初めて言ったから。」
スペクトはあっけらかんという。
「兄さんは僕のこと信用できない?」
「いやっ、そういうわけじゃないが…。」
例え信用している相手だと言っても、自分の記憶が一時的にであれ無くなると言われたら誰だって不安になるだろう。
「じゃあ、始めるよ。」
「えぇ⁉いやっ、ちょい待てっ!!」
いくらなんでも唐突すぎるっ!!
「背もたれに背中を預けて動かないでね。変に動くと本当に記憶を無くちゃうから。」
「―――ッ!?」
ものすごく恐ろしいことを言われ僕は身動きが取れなくなる。
「それじゃ、いってらっしゃい。兄さん。」
僕は顔をこわばらせた状態で意識を飛ばした。
前回、改行こまめにした方がいいと言いながら前回より改行してない感がある気がしますがきっと気のせいです。セリフが長いのとかもうどう扱えばいいのかわからないので仕方がないのです。そんな言い訳をしながらここまで読んでくださった方なら頑張って読んでくれるだろうと負担を丸投げしちゃいます。読者に頑張りを求めるとはどうゆうことだと思わなくもないですが、今後に期待ということでよろしくお願いいたします。




