表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
審判の箱  作者: 千人
47/50

別れ

この物語の終幕も近づいてまいりました。ここまでお付き合い頂きありがとうございます。最後まで全力で書いていこうと思っていますので、残すところあとわずかのこのお話にあと少しだけお付き合いください。

「ナノさんっ!」


呆然としてウィルを抱きしめたまま固まっていた僕の意識をウィルの声が呼び戻す。


「―――っ!」

「大丈夫ですか?」


ウィルは心配そうに僕を見上げる。


「あぁ、大丈夫だ…。」


実際は大丈夫ではない。

今まで一緒にいて僕らを守ってくれていた仲間を、ヘルシングを失ったんだ…。

平気なわけがない。

でもそれは僕だけじゃない。

ウィルだって同じ思いのはずなんだ。

僕だけがふさぎ込んでいつまでも心に負った傷をなめ続けているわけにはいかない。


「辛いでしょうが先へ進みましょう。きっとこの先に答えがあるはずです。」

「……あぁ、…そうだな。」


ウィルの言葉には何か確信めいたものが感じられた。

僕は地面に落ちたヘルシングの十字架を拾い、血を拭う。

ヘルシングが自分の命を犠牲にしてまで紡いでくれた僕らの命。

なんとしてでも脱出してみせるっ!

僕は十字架を首から下げ、白い扉へと向かう。


「白い扉…か。」

「私がいた部屋と同じですね。」


この先に何が待っていようが進み続けなければならない。

諦めることは許されない。

二人の分も強く前に進まないと。

白い鍵を強く握り鍵穴に刺し込む。

カチャンッ


扉の鍵が開きドアノブを握りしめる。


「開けるぞっ!」

「はいっ!」


白い扉を開いていく…。


「ここは…。」


そこは白い部屋だった。

正面には緑の扉、右手には赤い扉、左手には青い扉があった。

これは…僕が目覚めた部屋だ。

そして、僕らが入って来たのがウィルのいた部屋の位置にあたる扉だった。

一つだけ違う点と言えば部屋の中央に黒い本が置かれているということだけだった。

僕らは部屋の中に入り周囲を見回す。


「ここって僕がいた部屋だよな?」

「そうですね黒い本があるという点を除けば全く同じように見えます。…そこの赤い扉近くを見てくださいっ!少し焦げている箇所があります!」

「これはサラマンダーのときの…。」


ここがもといた部屋?

これだけ犠牲と時間をかけて、もといた場所に戻ってきただけだとでもいうのか!?

全てが無駄だったとッ⁉


「僕たちは何のために…。」


今までの苦労は何だったんだっ!

絶望が僕の心を包み込んでいく…。

僕が落ち込んでいくのを見てウィルが声をかけてくる。


「ウィルさんっ、この本を見てみましょう!私たちがいたときはこんなものなかったはずですっ!」


ウィルが示す本に目を落とす。

こんなものはあの時ここにはなかった。となると誰かが置いていったはずだ。

では誰が置いたのか?

考えられるのは一人しかいない。

もうすぐ会えると言ったあの男しか…。

僕は部屋の中央に置かれた黒い本を手に取り表紙を見る。


「審判の黙示録…。」


その本の表紙には金の装飾で『審判の黙示録』と刻まれていた。

著者名など他には何も書かれていない。


「審判の黙示録?」

「黙示録と言えば終末思想によって書かれた預言書のようなものだった気がしますが…。」


とにかくこの本の中身を見てみよう。

僕は本の表紙をめくり1ページ目を読む。



アークを部屋の中央に睡眠状態でセッティング。

白い扉の先に管理システム:ウィルをスタンバイ。

審判の箱内での対象の補助、誘導を目的とし行動させる。

ただし、記録への接続は制限し、必要に応じて随時開放していく。

状況に応じスペクトが管理システム:ウィルを使用し誘導を行う。

………。



「……なんだ…これ。」

ページをぺらぺらとめくっていく。



………。

アークが死亡してしまったため、アーク再召喚を行う。

吸血鬼との戦闘後、透明人間を投入しグリフォンの子供を排除。

これによるアークの反応を見る。

管理システム:ウィルを通じてスペクトが接触し計画の完了・続行の判断を行う。

………。



そこに書いてあったのは僕が今までに経験してきたことだった。

この本では僕のことをアークと呼び、その内容はまるで報告書のようだ。


「ウィル…、これって…」


本から目を上げウィルを見るとそこには無表情で視点の定まっていないウィルがいた。


「ウィルっ!!」

「………あっ、ナノさん…。」


ウィルはすぐに表情を取り戻したものの、何だか元気のない様子だった。


「どうした?」

「…私、…全部思い出したんです。」

「なんだって!?」


全部思い出したってことはここのことも分かるってことかっ!

確実にこの状況から脱するのに近づいたはずなのにウィルは浮かない表情をしていた。


「記憶を取り戻したっていうのにどうしてそんなに浮かない表情をしているんだ?」

「………。」


ウィルはチラチラとこちらを見ながらもなかなか口を開かない。


「あ、あの………。」


ウィルは一生懸命話そうとしてくれるが次の言葉に繋がらない。

そんなウィルの様子を見て僕は何となく察しがついてきていた。

本に書いてあったこと。

そこでのウィルの書かれ方から大体の予想はつく。


「ごめんなさいっ…わ、私はっこの場所を管理するシステムなんですッ!」


ウィルはあの男と同じこの場所を支配する側の存在だ。


「私はこの場所、審判の箱を管理するシステムの人工知能なんですっ!」

「人工…知能?」

「はい…私は…私は生き物ではありません。」


ウィルは目をぎゅっとつむり謝罪する。

ウィルが生き物じゃない?

人工的に創られた物?


「今まで騙してしまってごめんなさいっ!!」


黒い本にも書いてあった。


『管理システム;ウィル』


それは文字通りの意味だったというわけだ。

ウィルはただのシステムで生き物ではない。

でもだから何だというのか?

命があろうとなかろうとウィルという存在は変わらない。


「ウィルは今まで知らなかったんだろ?」

「それは…そうですけど。それでもナノさんを裏切ってしまったことは事実ですっ!」

「そんなことはないよ。」


そう。そんなことはない。

本に書いてあったように僕を助けることが役目であったとしてもこれまで共に危険を潜り抜けてきたこと、泣いたり笑ったり、たわいのない話をしてきたこともまた事実だ。


「騙そうと思って騙したわけじゃないんだ。それは裏切ったことにはならないよ。」

「……ありがとう、ございます。」


ウィルの目に涙がにじむ。

あぁ、やっぱり記憶が戻ったところでウィルはウィルだ。

僕はそのことに安堵する。


「ウィル、記憶を取り戻した今ならここから出る方法が分かったりするのか?」


ウィルは涙を拭い答える。


「それでしたら心配しなくても直に出られると思いますよ。」

「直に出られるって…。」

「ここが旅の終着点。その本が置かれているということは恐らくそういうことだと思います。」

「ここが出口だってことか?」

「そうですね。実際には場所なんて関係ないんですけどね。」

「どういうことなんだ?」

「その辺の説明はおそらく後でされると思います。今は時間がありませんので最後になるかもしれないのでお別れを言いたいと思います。」

「時間がないって…最後ってどういうことだ?」


ウィルはニコッと笑って僕の質問には答えなかった。


「短い間でしたがナノさん…いえ、アークさんと一緒に過ごせて楽しかったです!私はこれからもあなたのサポートをしたいと望んでいますからそれだけは忘れないでください。」


「どういうことだ?」そう聞こうとしたその時、目の前が真っ白になり意識が途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ