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審判の箱  作者: 千人
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進路

僕らは情報共有を行いウィルとヘルシングにも僕が経験したウィルの別の人格について知ってもらうことができた。


「俺たちにできることは扉の先へ進んでいくことだってのは変わらないわけだがな。」

「あの男はまた現れると言っていたしそのとき情報を引き出したいところだ。」

「その時には私は意識がなくなっていると思うのでお二人に頑張ってもらわないとですねっ。」


あいつはまたねと言っていた。

次は絶対正確な情報を引き出してやる。


「そのときは俺が力ずくでも聞き出してやるよ。」

「力ずくはやめてもらいたいですね…。」


ウィルが苦い顔をしている。

それはそうだろう。

ヘルシングに力ずくなんてやられたら体がいくつあっても足りない。

気づいたら五体不満足。下手したらあの世行きだ。僕も勘弁願いたい。


「大丈夫だって加減はしてやるよ。ちぃっとケガする程度だ。」

「その『ちぃっと』の程度が心配なんですっ!」


助け舟を出してやるか。


「その時は口で話をつけるよ。暴力沙汰にはしないさ。」

「それでよろしくお願いします。」

「なんだ?キスで話をつけるのか?それは無理じゃねぇか?」

「そんなわけないだろッ!」

「冗談だってっ!」


ヘルシングが爽快に笑う。

まぁ、冗談が言えるうちは余裕があるってことだ。


「まったく…。ちゃんと話し合いで解決してくださいよ?」

「わかってるよ。」


ヘルシングはあっさりと承諾し笑顔で答える。

もしかしたら力ずくってところから冗談だったのかもな。

ガサツなところもあるが周りに気を使ってくれて雰囲気を盛り上げようとしてくれる。

僕にもこんな友達や家族がいたりしたのだろうか?


「皆さん中がよろしいですね。」


黙っていた鏡が口を開く。

僕の記憶を覗いているわけだから余計にそう感じられるのかもしれない。


「まぁ、悪くはねぇわな?」

「そうだな。」

「今や一緒にいるのが当たり前って感じですしね。」


ふと本当ならばここにともにいたはずのグリンのことを思い出して悲しくなった。

でも顔には出さない。

ここでまた悲しんでもグリンは戻ってこない。

それならば、今の和やかで楽しい空気を大切にしたい。


「そんな皆さんにお尋ねしたいのですが、この部屋には扉がなさそうですけれど次はどちらに進まれるつもりなのですか?」

「えっ?」


三人の声が重なった。

扉がない?

部屋を見回すと確かに扉と思われるものはどこにもなかった。


「どうしたもんか…。」

「マジかよ…。」

「またあのピエロに会わないといけないんですか!?」


嘘だろ…。

ピエロを抜けて戻ったところで選択肢は危険なものしかない。

あの上位の吸血鬼と対決するか少女の肖像画の部屋を戻るか、あとは透明人間の部屋から奥に進む道か。

その先に関してはまだ進んでいないし未知のエリアだ。

どうするのが一番安全なのだろうか?


「扉ならあるニャ。」

「―――っ⁉」


ふっと鏡の後ろから覆いかぶさるようにしてチェシャ猫が現れる。

毎度毎度心臓に悪い…。

やっぱりついてきてたんだな。


「人を驚かせるような登場すんじゃねぇっ!」

「そうですよっ!心臓が止まるかと思いました!」


ヘルシングとウィルの非難する声がまるで聞こえていないかのようにチェシャ猫はのほほんとしている。


「扉があるってどういうことだ?」

「そのまんまの意味ニャ。掛軸の裏を見てみるニャ。」


掛軸は二つあった。

僕とウィルが左の壁のものを、ヘルシングは右の壁のものを調べる。

掛軸をめくるとそこには青い扉があった。


「こっちに青い扉がある!」

「こっちにも青い扉があるぜっ!」


青い扉が二つか…。

同じ色の扉が一つの部屋にあるのは初めてだな。

緑の扉があればと思ったのだが…。


「助かったよ、教えてくれて。」

「別にいいニャ。同じところを通るのはつまらないしニャ~。」


これからもついてくるつもりなんだな…。

僕らとしても透明人間の部屋や今回のように、誰も気が付かなかったことに気づいてくれることだってあるし助かりはするが。


「あっさり教えてくれるなんて驚きです。…一応お礼は言っておきます。」

「礼は必要ないニャ。この場所について調べていると言いながらガバガバサーチなお三方の節穴加減を見ていると憐れみを感じてしまうのニャ~。」

「せっかく褒めてあげたのにその言い方はないんじゃないですかっ!?」

「だから礼はいらないと言ったニャ。持つものから持たざる者への施しニャ。」

「この猫ぉ~っ‼」


ウィルとの相性がすこぶる悪いな。

というよりチェシャ猫がウィルをからかっている。

ウィルもいい加減軽く流せばいいのに。


「ヘルシングは今のチェシャ猫の発言に怒らないの?」

「あんな安い挑発に乗るほど俺は子供じゃねぇ。それに相手は猫だぜ?」

「それもそうだな。」


こうしてみるとウィルの精神年齢はかなり低いな。

あんな見た目じゃ歳なんてわからないが少なくともヘルシングや僕よりも若く思える。


「それでどっちに進むよ?右か左か、どっち選んでも青だけどな。確か青いのも危険だって言ってたな。」

「あぁ、前の時は不気味な少女の肖像画に取り憑かれたみたいになった。」

「ホラーって苦手なんだよなぁ。」

「吸血鬼なんかを相手してるのにホラーが苦手なのか?」


吸血鬼も大概ホラーな気がするんだけどな。


「奴らの殺し方は知っている。だがお前らが会ったような呪いの絵なんてものどう対処すりぁいいかわかんねぇだろ?ぶち壊せば解決するってんならいいけどな。」


なるほどな。ヘルシングが苦手だと言っているのはホラーが怖いというより未知の危険が怖いというごく当たり前のことだ。


「少女の絵の時はただ逃げ切ったって感じだったしなぁ。今度も同じようなのがいたら全力で先へ進むか後戻りするかしたほうがいいか?」

「俺が壊すなり殺すなりして解決するならそれでもいいがそれが無理そうならそうするしかねぇな。ストレッチはちゃんとしておけよ?」

「あぁ、やっておこう。」


僕がストレッチをしていると言い争い…というか、からかわれていたウィルが戻ってきた。


「それでどっちの扉を進むんです?」

「とりあえず両方の扉を覗いてみて安全そうな方を進もうと思う。そのあとはヘルシングとも話していたんだが、対処できそうなら対処して、無理そうなら全力で先へ進むか戻ってくるかだ。」

「進む場合と戻る場合の判断基準は何にします?」

「緑の扉があれば進んで、赤か青、もしくは扉が無いようなら戻る。」


これが思いつく限りの今できるベストだろう。


「わかりました。ではそれでいきましょう。」

「俺もそれで構わん。」


二人に異論はないようだ。

そういえばチェシャ猫の姿が見えない。


「ウィル、チェシャ猫はどこに行ったんだ?」

「もう消えてしまいましたよ。まだまだ言いたいことはたくさんあったんですが…。」


これは次会った時ももめそうだな…。

ん?チェシャ猫が手を貸してくれるというのなら扉の中を透明になって見てきてもらえばいいんじゃないか?そうすれば危険もないし、何かあるようなら前もって策を練れる。


「チェシャ猫~頼みがあるんだが~!」


何処にいるかわからないので部屋中に聞こえるように声を張る。


「お断りニャ。」


どこからともなく声だけが聞こえる。


「どうせ尖兵にでもなれというつもりニャ?」

「うっ…。」


図星を突かれ声に詰まる。


「そんな危険なことごめんニャ。自分たちのことは自分たちで解決するニャ。」


すごく真っ当なことを言われてまった…。

チェシャ猫が言うように自分たちで何とかするしかないか。


「まぁ、そうなりますよね。」

「あわよくばと思ったんだがなぁ。」


無理なものは仕方がない。気分を切り替えていくか!


「この鏡はどうするんだ?」


ヘルシングが鏡の縁をトントンッと指で弾いている。


「私はこのままで構いません。」

「一緒にほかの場所に行きたいとは思わないのか?」

「私はこの場所が気に入っていますし、それに固定されていて移動はできません。」


ヘルシングが鏡を持ち上げようとする。


「おっ、確かに土台にくっついているみてぇだな。無理やり外そうすりぁ鏡が割れちまう。この大きさだとの台ごと持っていくってわけにもいかねぇか。」


この先この台を持ち運んでいくとなると危険な相手に遭遇した拍子に鏡を割ってしまうというのが落ちだろう。

本人が一緒に行きたいと言ったところで連れて行ってやることはできない。


「すまんな。連れてってやれなくて。」

「いえいえ、先ほども言ったように私はここを気に入っています。気にしないでください。」


鏡はここを気に入っているというがここには年代物の骨董品ばかりで他には何もない。

静かなところが好きというのはあるかもしれないがずっと一人で寂しいと思わないことはないだろう。それにここは僕らが来たときには電気すらついていなかった。


「本当にいいのか?」


どうすることもできないがそう聞いてしまう。


「はい、大丈夫です。」


表情を読み取ることはできないが僕には何だか寂しそうに見えた。

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