別人格
「話を戻すがグリンが死んだあの時、ウィルが別人のようになったって言ったのがあの男なんだ。」
「それが私の別人格ということですか?」
「いや、そうじゃない。僕が別人格といっていたのはもっと無機質で…こう…まるで機械と会話しているような感じだったんだ!」
「記憶で見たウィルさんの姿はまさにそのような感じでしたね。」
「私に二つも別の人格があるということですか?…事実なんでしょうけど信じがたいですね。」
記憶を司る鏡がなければこんなこと説明のしようがなかった。
僕たちのおかれた状況はよくないが、そういう意味では幸運に恵まれたな。
「そのウィルが野郎になってた時は俺は固まっていたというわけか?」
「あぁ。」
「目を開いたまま固まっていらしたので迫力がありましたね。」
「その話だとそれをやったのは野郎か…とんでもねぇな。」
そう。あいつは並々ならないことをやってのけた。
もし次会った時に同じように止められでもしたら対処方法などない。
口ぶりからして僕らに直接、害を加えてくるような雰囲気ではなかったのは救いだ。
「あいつが言っていたことなんだが、”存在の重要性”って言葉の意味がわかるか?」
「存在の重要性…ですか、そばにいてくる存在の大切さとかですかね?」
「生きることが素晴らしいって意味じゃねぇのか?」
「やっぱりそうなるよなぁ」
二人の言っていることでも納得はできるがあいつに聞かない限りは真意を知ることはできないか。
「そういえば記憶の中でその人が気になる事を言っていましたね。」
「何のことだ?」
「去り際の一言ですよ。今度は死んじゃだめですよと言っていたことです。」
そうだ。確かにあいつはそういっていた。
「あの言いぶりだとあの人がナノさんが死にかけた…というよりも死んだときに助けたように聞こえます。ナノさんはあの時死んでいたんじゃありませんか?」
「………。」
鏡の言うように考えればあいつの言い方に筋が通る。
でも、僕が死んだ?
それをあいつに蘇生でもされたというのか?
そんな神様みたいなことをあいつがやってのけたと?
「僕が一度死んでいてあいつが生き返らせたねぇ…そんなことが可能なのか?」
「さぁな。でも、別にそんなことどうでもいいんじゃねぇか?お前は今生きていてその野郎に何か要求されているわけでもない。要求されたところで話を聞かなきゃいいしな。相手が勝手にやったことだ。」
「そうですね。」
「そうだな。」
一度死んでようが僕は今は生きている、それで十分だ。
「そうですね、私は野暮なことを言ってしまったようです。すみません。」
「いいさ。もっと何か気になるようなことがあるなら言ってくれ。」
同じ記憶を見ていても視点が違えば新たなことに気が付いたりすることもあるだろう。
「今、問題なのは私の中に男の人ともう一人機械のような人がいるということです。」
正確には男の方は本体が別にあるのだろう。夢だと思っていたあの出来事が現実だというのならウィルはあいつに乗り移られていると考えるのが妥当だ。
「それに関して僕は何も問題ないと思うけどな。」
「どうしてです?いつその人格に切り替わるか分からない上に私はそれを自覚できないんですよ?」
ウィルからすれば得体のしれないものが自分の中に、しかも認知しない間に行動しているというのだから当然問題だろう。
「ウィルはもちろん迷惑だろうが僕たち全体としてはむしろ助かっている点が多い。まず僕が初めに危険な赤の扉を開こうとしたときに止めてくれたのは機械のような奴だった。」
「え~っとぉ? そうだったんですか?」
「あぁ、ウィルは何となくダメとかそんなことを言い出す前にきっぱりと赤と青の扉は開けるなと言っていた。」
「それだけ聞くと俺には明らかに手助けしてくれているように聞こえるな。」
「そうなんだ。敵対するようなことをしてきたことはない。むしろ僕を危険から遠ざけようとしてくれていた。」
「それなら男の人の方はどうなんです?」
「そっちは言っていることは訳が分からないし何がしたかったのかもよくわからないが、この場所について知っているようだった。できれば情報を聞き出したい。」
「まぁ、警戒だけはしておくってところだろう。考えても仕方ねぇ。」
「そう…ですね。」
ウィルは少しほっとしているようだった。




