暗闇
ピエロの強襲をかいくぐり、扉を抜けた先には一寸先も見えないほどの闇が待っていた。
目を閉じても開いても見える景色は変わらない。
「二人ともいるか?」
「はい、いますよ。」
「いるぜ。」
返事と同時にウィルの体が青白く灯篭のようにポワンっと光っていた。
「これで少しは視界が確保できますね。」
「お前便利な特技持ってんなぁ。」
そういえば初めて出会った時も青白く光っていたな。
「1メートルほど先までしか見えませんけどね。」
「いや、すごく助かるよ。」
「そうだぜ、全く見えないのとじゃあ大違いだ。」
ウィルのおかげで、手探りでこの部屋の中を調べることにならずにすんで本当に大助かりだ。
「あの変態ピエロ野郎とおさらばできたことだし少し落ち着きたいところだな。」
「二度とあの部屋は通りたくないですね。気分が悪くなります。」
「殺傷能力こそ他の赤の部屋に比べればましだが、狂気に溢れてた。」
あのウサギの着ぐるみ…。
おそらくあれの一つ一つには子供の死体が入っている。
考えただけでも気分が悪い。
「とどめを刺しときゃよかったかもな。」
「戻るとか言わないで下さいよ?危ないんですからっ!」
「わかってるよ。あんな野郎のためにリスクを冒すつもりはねぇよ。ほっときゃ出血多量でくたばる可能性もあるしな。」
物騒なことを言っているがあのピエロは死んでもその罪を償いきることはできないだろう。
あいつに償う気持ちなんてないだろうが…。
扉を閉めるときの最後のあの顔…あの表情を思い出すだけで背筋がゾクっとする。
「この部屋にも何かいる可能性が高い。まずはそれを調べよう。」
「そうですね。ヘルシングさんの部屋よろしく緑の扉で横に赤い扉があるということもなかったので安全だとは思いますが、何がいるのかは把握しておきたいです。」
ウィルが先行し、その光を頼りに扉からまっすぐ前に進んでいく。
「誰かいないのか?」
暗闇に声をかけるが聞こえてくるのは僕らの足音だけだ。
「誰かいないんですかー?」
ウィルも呼び掛けてみるがやはり返事はない。
「今までのパターン上、何かがいるのは確かだと思うのですが…。」
「どこかに潜んでいるのか?」
チェシャ猫のようにこちらには気づいていて僕らの様子を窺っていることも考えられる。
「部屋の反響からして部屋の大きさはそんなに広くねぇ。どこに潜んでようが距離はそう遠くねぇはずだ。気いつけろよ。」
僕らは気を引き締め歩を進める。
「……わぁっ‼」
「なんだっ!」
「か、鏡です…。」
ウィルの目の前にはちょうど顔が収まるサイズの丸い鏡があった。
その縁は青緑色の装飾が施されており、博物館にでもあるような台の上で飾られていた。
ヘルシングと僕が鏡を覗き込む。
「大層に飾られちゃいるが普通の鏡だな。」
「特別何かがついているようには見えないなぁ。」
それは置かれている場所と装飾から芸術品であるように見えるが何の変哲もない鏡だった。
「普通の鏡ではありません。」
……ん?
突然聞きなれない大人の女性の声が聞こえてきた。
「誰だっ!」
ヘルシングが杭に手を添え身構える。
「私は記憶を司る鏡です。」
「鏡?」
その女性の声は確かに目の前にある丸い鏡から聞こえてきていた。




