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審判の箱  作者: 千人
35/50

道化師は笑っている

「な、なんだあれはっ!?」


一瞬しか見えなかったがとんでもないものなのは分かった。


「わ、わかりませんけどっ、私にはピエロのように見えました。」

「俺にもそう見えたな。」


僕の後ろから見ていた二人はまだ冷静に見れたのか口をそろえてピエロだという。

僕には顔面大魔神にしか見えなかったが。


「ちょっといきなり閉めるなんて酷いじゃないですかー!」

「――っ!?」


扉の向こう側からこちらに呼びかけてくる声がする。


「おい、なんか言ってるぜ?向こう側から。」

「言ってますねぇ。」

「二人とも妙に冷静だな。」


あの顔面を間近で見た僕と二人の間には温度差があるようだ。


「まぁ、とんでもない化け物が出てくると想定してたからな。」

「そうですね、会話もできるようですし幾分かましかと。」

「そ、それはそうかもしれないが…。」


二人の言っていることも分かるが僕と同じ目に合っていないからだとどうしても思ってしまう。


「ねぇてばーー!聞こえているんでしょうー?開けてくださいよーー!」


扉の向こうからは今もこちらに呼びかける声が聞こえる。


「とりあえず話してみましょうか。」

「そうだな。話が進まねぇしな。」


二人は乗り気じゃない僕を置いて話を進める。

そうするしかないのは分かっているんだが…。


「聞こえていますよー!」

「あはっ!やっっっと返事してくれた!ここを開けてくださいよー!」


随分と陽気な声だな。


「あなたが何者なのか分かるまではここを開けることはできません!」

「あーそうですよねー、わかりますぅ!それでは自己紹介をさせていただきまっす!私はっ!道化師を生業としておりますジョンと申しますですはいぃっ!愛してやまないものは『コ・ド・モ』よろしくお願いいたしまっす!!」

「は、はい。よろしくお願いします…。」


姿は見えないがとてつもなく陽気で頭のねじが2・3本は抜けていることが自己紹介だけでわかってしまった。関わりたくねぇ…。

ウィルの表情からも僕と同じ気持ちがひしひしと伝わってくる。

ヘルシングも思いは同じなのかものすごく遠い目をしていた。


「わ、私はウィルといいます。え、え~っと、あなたはその部屋で何をしているのですか?」

「な~んにもしてなさ過ぎて暇で死んじゃいそうなんだよ~。早く扉を開けて一緒に遊ぼうよ~。」


聞こえてくる声は陽気だがこいつは赤い扉の先にいる。


「ウィル、油断するなよ。」

「わかっています。」


小声で会話をし、向こう側にいるピエロには聞こえないように話す。


「どうするよ?」

「意思疎通ができたとしても赤い扉の向こうには危険が待っていると考えた方がいい。ピエロも信用できない。」

「そうですね。話しているだけでも普通じゃない雰囲気がビシビシ伝わってきます。」


向こうの吸血鬼に比べればこっちの扉の方がまだましだろうか?


「乗り気はしないが開けてみるしかないか。」

「そうですねぇ。警戒は解かずに行きましょう。」

「いざってときはお前ら俺の後ろに隠れろよ。」

「わかった。」


初めて会った時はおっかない人だと思ったけれど、今なら口は悪いけど強くて優しい人だということが分かる。


「まぁた無視ですかぁ~?」

「すいません、今開けますので。」

「できれば扉から少し離れてくれないか?」

「どぉうしてですかぁ~?」


相手がどんな人物かわからない以上、近距離での接触は避けたい。

ドアはうち開きだ。扉の開閉を理由にはできない。


「さっきみたいにいきなり間近に現れられるとびっくりするだろ?」

「何やら扉の向こうで声が聞こえたものですからついっ。」

「兎に角離れてくれないと扉は開けられないからな。」

「うーーーん。しょーがないですねぇ………はいっ!離れましたようぅ…では、どうぞっ!開けてくださいっ!!」


声が離れたのを確認して僕がドアを開ける。

ぎいいぃぃー

ピエロの男は部屋の真ん中で両手を広げお辞儀をした。


「どうもっ!改めまして私、ピエロのジョンと申します。どうぞお見知りおきを。」


そして二カッとした厚化粧の笑みをこちらに向けた。

顔全体を白く、そして顔の三分の一を埋め尽くすように赤く裂けた口が描かれている。

さらに両目には黒いダイヤ、右目の下には水色の涙の雫が化粧を派手にしていた。

目がチカチカするようなド派手な衣装はまさにサーカスの大道芸人といった様相である。


「ど、どうも…ナノだ。」

「ヘルシングだ。」


扉で見た顔がトラウマになりかけており挨拶がどもってしまう。


「ということはそこの青くて美しい雫のような方がウィルさんですねぇっ!皆さんよろしくお願いいたしまっす!!」

「よ、よろしく。」


その部屋は広く、中にはメリーゴーランド、コーヒーカップ、さらにはサイズは小さいが観覧車やジェットコースターまであった。

そしてその一番奥には奥には緑の扉がある。


「こりゃあ、大した遊園地だな。」

「観覧車やジェットコースターは子供用といった感じでしょうか。」


周りからは楽しいそうな陽気な音楽が流れており暖色系のスポットライトがそこら中を照らしている。


「そのとーーりっ!ここは子供たちに楽しんでもらうための場所なのですっ!しかし、ご覧の通り今は子供たちが遊んでおりません…そこでっ!今回は特別ッ!皆さんに楽しんでもらおうというわけです!」

「楽しむ…ねぇ。」


グリンがいれば喜んでアトラクションを回っていったんだろうな。


「見てくださいナノさんっ!あそこにウサギのぬいぐるみがたくさんありますよっ!」


僕はよほど暗い顔をしていたのだろうウィルは急に明るく僕に話しかけてきた。

部屋のいたるところに1メートルほどのウサギのぬいぐるみが並んでいる。

ダメだな。もっとしっかりしないとっ。


「なんでウサギばかりなんだ?」

「それはですねぇ、私が小さな子供たちを子ウサギのように可愛がってあげたいという気持ちの…そうっ!魂の表れなのですっ!!」

「魂の表れねぇ…。」


数匹ならまだしもこんなにもウサギのぬいぐるみがそこら中にあると、もはや不気味ですらある。


「さぁさ皆さんっ!どのアトラクションからお楽しみになりますか?」


ピエロのジョンは僕らの返事を待つ間も盛んに体を動かしている。

身振り手振りがやけに多く、いちいちオーバーな反応をする。落ち着かないやつだ。

こいつが危険な人物なのかはまだ判断できないがどうするか?


「それなら…観覧車にしましょうか。」

「いや、メリーゴーランドにしよう。」


ウィルの意見をヘルシングが否定する。

ウィルはともかくヘルシングがアトラクションに誘うとは思わなかった。


「なんです?ヘルシングさんメリーゴーランドが好きなんですか?」

「まぁ、そんなところだ。」


その見てくれでメリーゴーランドが好きとはなかなか可愛らしい趣味だな。意外だ。


「ナノさんはどれがいいですか?」


僕としてはグリンのことで気持ちも乗り気じゃないしできれば乗りたくないのだが、ここでそんなことを言うべきじゃないよな。


「二人が乗りたいものでいいよ。」

「うーん、それでしたら私はあとでいいので、まずはメリーゴーランドに乗りましょうか。」

「助かるよ。」


助かる?

そんなに早くメリーゴーランドに乗りたかったのか?

僕とヘルシングは二匹並んだ馬の座席に座る。

そしてウィルは僕の馬の頭の上にちょこっと乗っていた。


「さぁ、皆さんっ乗られましたね?それではお楽しみくださいっ!! ぽちっとな。」


ジョンがボタンを押すとメリーゴーランドが動き始めた。

メロディーにのせて上下に動きながら回る。


「なんだか恥ずかしいな。」

「そうですか?私は楽しいですよ?」

「……。」


ウィルはどうしてそんなにのんきなのか甚だ疑問だが、ヘルシングはヘルシングで自分から乗りたいと言っていたのに難しい顔をして黙っている。

メリーゴーランドが半周に差し掛かろうとしたころ、ジョンの位置から丁度僕らが見えなくなった時にヘルシングが口を開いた。


「部屋中のいたるところから血の匂いがする。気をつけろ。」


そういったヘルシングは何かを確信したような表情をしていた。

メリーゴーランドから降りた僕は一層濃くなったジョンへの疑いを顔に出さないようにしていた。


「楽しんでいただけましたか?」

「あぁ、楽しかったよ。」


僕は何気なく言う。ヘルシングの言ったことが本当ならあまり刺激しないほうがいいだろう。


「ウィルさんはどうでした?」

「え、えぇ楽しかったですよ?」

「うん?何か問題でもありましたかぁ?ウィルさん?」


ジョンがウィルに顔を近づける。

ヘルシングが弾薬ベルトのように体に巻き付けた大きな杭に手を添える。


「……。」

「………。」


僕は生唾を飲み込み、冷静を取り繕おうとするウィルの顔に汗が伝う…。

……。


「もしかして熱いですか?」

「あ、はい少し…。」

「とても緊張しているように見えます…。」

「そ、それは…。」


ピエロがさらにウィルへと近づいていく。

ま、まずいっ!


「それはお前がそんな厚化粧で至近距離いるからだろう。誰だってその顔が近づいてくりゃ緊張するぜ。」

「ふむ…。それもそうですねぇ…。これは失礼いたしましたっ!!ちゃんとはっきり言ってくれればいいのにぃ~♪」

「あはははぁ…。」


何とかごまかせたのか?

ナイスだ!ヘルシング!!


「それでは次のアトラクションへ行きましょうかっ!観覧車でしたよねぇ~、私についてきてくださいっ!」


そういってジョンは僕らを先導する。

観覧車は部屋の一番奥に位置している。つまりそのすぐ奥の壁には緑の扉がある。


「隙を見て扉を抜けちまうぞ。」


ヘルシングが僕とウィルに耳打ちしてくる。

僕らは頷き、ピエロについていくふりをしながら緑の扉へと近づいていく。


――がっ!

「おっと。」


音のした方を見るとヘルシングの足がウサギのぬいぐるみに当たったようでその一つが倒れていた。


「悪い倒しちまって――――っ!?」


ウサギのぬいぐるみをもとの位置に戻そうとする手が突然止まる。


「どうした?ヘルシングッ―――ッ!?」

「これはっ!?」


ヘルシングが倒したぬいぐるみからは広がるように血溜まりができていた。

ピエロ恐怖症という言葉を耳にする機会はございますが日本に住んでいるとなかなか身近には感じ辛いですね。一度でいいから本物のピエロというのものを見てみたいです。

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