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審判の箱  作者: 千人
33/50

扉のルール

グリンがいるはずの椅子の上にはグリンはおろか白いコート、血痕すら残っていなかった。


「どういうことだっ⁉」


僕らは問い詰めるようにチェシャ猫の前に戻る。


「そう焦るんじゃないニャ。単純な話ニャ。」


そう前置きをしてチェシャ猫はニヤリと笑いながら言う。


「その赤い扉の先はチェシャの部屋ではないニャ。」

「どういう意味だ?」

「そのまんまの意味ニャ。赤い扉の先にはもう一つの同じ形をした部屋があるのニャ。緑の扉をもう一度見に行けば確認が取れるはずニャ。」


僕らは緑の扉をくぐり図書館の部屋に行く。

そこには白いコートをかけられたグリンが椅子の上に横たわっていた。


「つまり、神殿とサラマンダーの部屋のように空間が歪んでいて緑の扉と赤の扉にはそれぞれ瓜二つの全く別の部屋があったってことか…。」

「そういうことニャ。」


待て、ということはこれまでのパターンからして赤い扉の先にも何かがいたんじゃないか?

もしかしてっ!


「あの時の風…」

「風がどうしたんです?」

「初めてそこの赤い扉を開けて部屋に入って出るときに部屋から風が吹いてきたように感じたんだ…。もしかするとそれが…。」

「それが透明人間だったということですか…。」


そうだ。これは赤い扉。危険な扉なんだ。


「私が…私が赤い扉はそのまま通じているとか言ったから…グリンさんはっ―――。」

「そんなの関係ない。いずれにしてもあの扉は調べていただろうし違う部屋だなんて気が付かなかったよ。」


どうしようもなかったことなんだ。

誰のせいでもない。

緑と赤の並んだ扉はヘルシングと吸血鬼を表していたと同時に別のそっくりな空間に通じるものでもあったということか、あくまで予想でしかないが。


「――ってぇことはこれから取れる選択肢が増えたってことだな。緑の扉で隣に行ってから赤の扉をくぐるとどこに行くんだろうな?」


こちらから赤の扉を通ると透明人間がいたであろう部屋だった。

となると図書館側から入ればどこに通じているのか。

調べてみる価値がありそうだ。


「調べに行ってみようか。」

「そうですね。行ってみましょう。」


僕らが移動し始めるころにはチェシャ猫は姿を消していた。


「あのにやけた面した猫は消えやがったか。」

「どうせ近くにいるんでしょうけどね。」

「部屋のことを素直に教えてくれたのは助かったな。」

「私は本のこと忘れてないですからねっ!」


まだ根に持っているのかよ…。

チェシャ猫の情報のおかげでこの扉について予想を立てることができた。

今から調べる赤い扉も全く別のところに通じている可能性が高い。

油断はできない。もう同じことは繰り返さない。


「そんじゃ、開けてくれ。」

「あぁ、透明人間のこともある。油断しないでくれ。」

「もちろんです。」


「何かあったら俺に任せておけっ!」とヘルシングが明るく振舞う。

もしかしたら僕らがへこまないように空気を明るくしてくれているのかもしれない。

僕とウィルも後ろ向きになりそうになる気持ちを抑えて、明るく振舞えるように努めていた。


「開けるぞ。」

「おうよ。」

「お願いします。」


僕はゆっくりと鍵を開ける。

……カチャンッ


ドアノブを捻り、中を覗き込む…。

ぎいぃーー

隙間から見えるのはアスファルトの床に壁。そして月光のつくる光の柱だった。


「同じ部屋…ですかね?」

「いや…違う。」


その部屋には辺りに散らばる灰や血痕、ヘルシングの投げた杭も何もなかった。

吸血鬼と透明人間との戦いの名残が全くなかったのだ。


「警戒してくれ。もう少し開けるぞ。」

「おう。」

「はい。」


赤い扉をさらに開いていく。

ぎいぃぃー


「――――ッ⁉」


目が合った。

部屋の中央。天窓から月明かりが照らすその中央で女性を抱きしめていた男がこちらを振り返る。


ベタァーー

その瞳は紅くぎらついていてその目だけで獲物を殺してしまうような悍ましさがあった。


そしてその男の口元は真っ赤に彩られていた。


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