見えざる者
「…ウィル?」
「違いますよ、兄さん。そろそろ勘付いているんでしょう?」
僕のことを兄さんと呼ぶ…こいつは。
「夢で…あった…。」
何故だかわからないが夢であった僕のことを兄さんと呼ぶそいつがウィルの体を借りて喋っている。
「ゆめ?…あぁ、まぁその解釈はどうでもいいんですが。どうです?存在の重要性が理解できましたか?」
「存在の…重要性?」
何のことだ…。
グリンのことを言っているのか?
「何を意味不明なことを言っているんだ!ウィルをどうしたっ!」
「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ。すぐに戻りますから。そんなことよりわかったんですか?」
だから何がわかったっていうんだ!
「そこで死んでいるグリフォンの子がいいきっかけになってくれたと思うのですけれど。」
「きっかけっ…て…ふざけるなッ!グリンが死んだんだッ‼グリンはそんなわけの分からないきっかけのために死んだんじゃないっ!」
グリンは大切な仲間で…友達だっ!
そんな存在の重要性だとかよくわからないものを知るためなんかに死んでいいはずがないっ!!
「ふむ…、冷静さを欠いているようですね。兄さんの今の境遇を考えれば理解はできますが…。分かりましたっ!今回は出直して、また次の機会にいろいろ話の続きをしようと思います。今度は死んじゃだめですよ?」
「お前…何を言って…。」
「それじゃ、またね。兄さん。」
そういうとウィルに表情が戻った。
「ナノ…さん?」
「ウィル?…ウィルなんだなっ!」
「は、はい…そうですけど…。」
「ウィルッ!!!」
がばっ
僕は涙で濡れた頬擦り付けるようにウィルを抱きしめた。
「ぼ、僕…お前までいなくなっちゃうんじゃないかって―――っ」
「?? いったい何をいっているんです!そんなことよりグリンさんがっ!!」
「あぁ……わかってる……。」
グリンは死んだ。
あの透明な何かに首を絞められて…。
「お前ら…大丈夫か…?」
「ヘルシング…。」
動けるようになったんだな。
「その…グリンのことは残念だったな…。俺は出会って間もないがあいつがいい子だってのはわかる。辛いだろう。だが気をしっかり持てよ。今のような危険な奴がいる状況じゃいつまでも悲しんでいるわけにはいかない。冷たいようだがな。」
ヘルシングのいうとおりだ。ここでうじうじしていても事態は好転しない。
こんなへこんだ状態のままでいていたらウィルまで失うようなことになりかねない。
意思を強く持つんだ!
「わかってるよ…。いつまでも立ち止まっちゃいられない。」
「そう、ですよね…。私たちは前に進んでいかないと。」
「そうだ。その意気だ!」
僕は決意を固め、もう仲間を決して失わないと誓った。
「グリンさんの亡骸…どうしましょうか。」
ウィルのこの一言からこのままにしておくのはかわいそうだという話になった。
グリンの部屋にまで運んで埋めてあげたいが途中にはあの絵がある。
僕らは仕方なく緑の扉から隣へ行き、図書館でグリンが寝ていた位置にひとまず安置しておくことにした。
ヘルシングが白いコートをグリンにかけてやる。
「ちゃんと弔ってあげられなくてごめんな。」
僕らは後ろ髪を引かれつつ激闘あった血塗れの部屋に戻ってきた。
時間が経ち少しずつ冷静さを取り戻していく。
「ウィル、さっきは強く当たって悪かったな。」
「何のことです?」
「グリンが血を流してた時のこと…。」
「あぁ…。」
僕はあの時、取り乱すあまりウィルにあたってしまった。
ウィルに治すことができたのならとっくにやっていたはずだ。
「すまなかった。」
ウィルに頭を下げる
「いいですよ、あんな状況なら誰だって取り乱してしまいます。気にしないで下さい。」
「…ありがとう。」
ウィルは優しかった。
あの時、ウィルは僕を兄さんと呼ぶ何者かに憑依されたかのように話していたが、それを覚えているような素振りはない。
固まっていたヘルシングも固まっていたことにすら気づいていないようだった。
二人に今話したところで混乱を招くだけだろう。この話は落ち着いたころにしよう。
「ヤツを調べるぞ。」
そういうとヘルシングは杭の二本刺さった透明な何かをまさぐり始める。
空中を撫でるように触った後、杭から流れる血をそれの体に塗りたくっていく。
「人間……か。」
その透明な何かは人型をしていた。
「何なんだこいつは?」
「おそらく透明人間ではないでしょうか?」
「透明人間…か。」
透明人間。
姿の見えない人間。
こいつのせいで…。
「こいつはいつの間にこの部屋にいたんだ?俺と吸血鬼の野郎がやりあっている時からいたのか?」
「どうでしょう?何せ透明ですからね、確認のしようがありません。チェシャ猫さんにでも聞けば何かわかるかもしれませんが。」
「チェシャ猫?」
「となりの図書館にいた猫だよ。この透明人間と同じように姿を消すことができる。」
「ほう…、そいつは今どこにいるんだ?」
僕がここで目覚めたときにはすぐ傍にいたが今はどこにいるのかわからない。
「わからない。近くにいるかもしれないし、もうどこかへ行ってしまったかもしれない。」
ドアが開閉された音は聞こえていないから移動していたとしても僕らが扉を開いたときだろう。
この部屋か隣かのどちらかにいる。
「会えたところであの性格ですから素直に教えてくれるとは思えないですけれどね。」
「捻くれたやつなのか?」
「そりゃあもう陰険でにやにやしていて意地悪な猫です!」
「ずいぶんな言われようだニャー。」
!?
「チェシャ猫っ!」
相変わらずにやにやと笑う猫がそこにいた。




