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審判の箱  作者: 千人
29/50

傍にいる者  

ウィルの言うように先へ進むとなるとこの部屋の奥にある赤い扉を進むか僕らが入ってきた緑の扉の横にある赤い扉を選択することになる。

後者の扉にいたっては前の部屋にそのままつながっているのか、全く違うところに通じているのかもわからない。

どちらにも進みたくはないけどな。


「それにしても、安全だっていう緑の扉を選んだっていうのに僕なんか死にかけている。赤い扉を進むなんて憂鬱になるな。」


できれば命の危険があるようなところは二度と通りたくない。


「緑の扉の横にある赤い扉だって何処に繋がっているか分かったもんじゃない。」

「それなんですけど、おそらく緑の扉の横にある赤い扉はそのまま前の部屋に通じていると思うんですよ。」

「どうしてそう思う?」

「だってこの部屋は明らかに他の部屋とは違うじゃないですか。ヘルシングさんと吸血鬼、二人いたんです。それに吸血鬼はどう考えても危険な生き物です。緑の扉が割り振られてるとは思えません!そう考えるとこの部屋には赤の扉も通じていて、赤い扉が吸血鬼、緑の扉がヘルシングさんと考えた方が納得がいきます。」

「なるほどな。」


そう考えることもできるか。

空間が当然歪んでいる前提で考えてしまっていたな。

こんな状況じゃなければかなりぶっ飛んだ思考だ。


「おいおい、黙って聞いちゃいたがその話だと扉が違うところに通じてる時もあるってのか?」

「はい、私たちは実際に体験しましたので。」

「これ以上そんな体験したくないけどな。」

「ゴーレムに~、ウンディーネに~、サラマンダーッ!ほかにもたくさんあったんだよっ!」

「俺が言えた義理じゃねぇが常識はずれな経験してやがるなぁ。」


ヘルシングの言う通り結構な修羅場を潜り抜けてきたもんだ。恐いのも痛いのももうごめんだ。


「ひとまず緑の扉の横の赤い扉を覗いてみるか。」

「そうですね。私の予想が外れている可能性もありますから、慎重にですよ?」

「わかってるよ。」


僕は赤い扉の前に行き手慣れた手つきで鍵を開ける。

ガシャンっ!


「開けるぞ…。」

「はい。」

「おう。」

「きをつけてね。」


ぎいぃーー


扉を開くと僕らがいた図書館の部屋だった。


「まえのへやだね。」

「私の予想は当たっていたみたいですね。」

「同じ場所に扉二つなんてここを設計した奴は何を考えているんだろうな。」

「扉の先の空間が滅茶苦茶ですからねぇ。部屋の構造も滅茶苦茶なんでしょう。」


僕は赤い扉を閉めた。

ヒュゥン………。


ん?

扉を閉める直前に図書館から風が吹いてきた。

密閉されているはずなんだけどなぁ?チェシャ猫か?


「そういうわけで進むとしたら奥にある赤い扉です。もちろん来た道を戻って他の扉を開けるという選択もできますが。」

「そうなるとまたあの呪いの絵のある部屋を通ることになるわけか…。」

「こわいからもうとおりたくないよぅ」


進んでも戻っても危険が待っている。

呪いの絵のある部屋を通り戻ったところで赤か青の扉しか選べないのだから奥の赤い扉を進むべきか?


「上の天窓は開かないのか?」

「ぼくちょっとみてくるね。」


グリンが天窓まで飛んでいく。

バサッバサッバサッ…

様子を見てみると押したり突いたりといろいろ試しているようだが開きそうにない。

しばらくしてグリンが戻ってくる。


「ダメそうか?」

「うん…。」


ウンディーネの部屋と同じように上空から眺めることはできないか…。


「俺にやらせてみろ。」


ヘルシングはそういうと僕らに後ろに下がるよう指示する。


「フンッ‼」


次の瞬間ッ!ヘルシングは天窓めがけて杭を弾丸のように投げつけたっ!

ガキンッッ!!!


放たれた杭は天窓に直撃したと同時に砕け散った。


「何だありゃ⁉ ガラスじゃねぇのか?」


この部屋に入った時にも少し見たがその人間離れした動きに開いた口が塞がらない…。

ヘルシングの投げる杭はこの部屋のアスファルトの壁や床を抉るほどの威力だ。それを傷一つ付かず防ぐなんて並大抵の強度じゃない。


「普通の天窓じゃないみたいですね。」

「ヘルシングでもダメなんて…。」


吸血鬼と対峙した時に見ていたせいかウィルとグリンは僕ほどヘルシングの動きに驚いてはいなかった。


「順当に扉を進んでいくしかなさそうだぜ?」

「そ、そうだな。」


奥の赤い扉を進むか、一度戻るか…。


「さて、どうしましょうか?」

「おくのトビラのなかをのぞいてからきめたらいいんじゃない?」

「それもそうですね。」

「そうするか。」


中を覗いてから戻った方が安全そうなら来た道を引き返せばいいか。

僕らは奥の赤い扉の前に移動し始める。


「あいたっ!」


後ろの方でグリンが一人立ち止まっていた。


「どうしたんだ?」

「??なにかここにある…。」


グリンの見ている場所を見ても何もない。

見えない何かがそこにいる?

そういえばチェシャ猫がついてきていたな。


「そういえばさっきチェシャ猫を見たんだ。そこにいるんじゃないのか?」

「う~ん…そんなかんしょくじゃなかったんだけど…。」


グリンは何かがいるというその場所を突く。


「やっぱりなにかあ…るッ⁉」


言葉の途中でグリンが呻く。


「グリン?」

「どうしたんですか?」


「あ…がぁ……ッ‼」


グリンの体が首に引っ張られるように徐々に浮いていく…。


「グリンッ!!」

「グリンさんっ!!」


僕らはグリンのもとへ駆けたッ!!


「がぁッ…!?」

「うッ…‼‼」


腹に衝撃が走り後方に飛ばされる。

ゔぅ……。


想定外の強烈な衝撃に僕は腹を抱えるようにうずくまり痛みと吐き気で動くことができない。

すぐ横にはウィルも同じように突き飛ばされていた。

痛っ……ゔぅっ…。


なんとかグリンのほうに目を向けるとグリンを掴んでいるであろう何かに対してヘルシングが殴り掛かっていた!


◇◇◇◇


「ゔぉらぁっっっ!!!」

ゴンッ!!!

ザっザッザァーーーーーーっ!!


鈍い音が鳴り透明の何かがアスファルトの地面を擦れながら転がっていく音が聞こえる。

音を頼りにヘルシングが追い打ちをかけるように杭を投げるっ!


ヒュッ………ガンッ!!

投げた杭が床にめり込む。そして空中にツゥーっと血が滴る。


「そこかぁぁっ!!」


ヘルシングが血痕を頼りに二発目を打ち込む!!


ヒュゥゥッ………ザクッ!

ヘルシングの投げた杭が空中に突き刺さる。

血に濡れた杭は空中を踊り何かが地面に倒れる。

そしてそれは這いずるように血痕を残しながら図書館へと続く赤い扉に向かおうとしている。


「逃がすかよっ!!」


ヘルシングは這いずるそれに対して渾身の力を込めて杭を放つ!!


ヒュゥゥッン………ザッ!!

放たれた杭は命中しそれは動きを止めた…。

二本の杭の位置に血溜まりができる。


「やったか……。」


ヘルシングはそれが動かなくなったのを確認しグリンのもとに向かう。


◇◇◇◇


うっ………。

痛む腹を抑えながらグリンのもとに這いずる。


はぁ……はぁ……はぁ……


クソッ…あと少しなのに……。


たった数メートルが途方もなく遠い。一歩たりとも動きたくないと叫ぶ体に鞭を打ちずるずるとグリンに近づいていく。


「――――ッ⁉」



ひぃぅぅ…ひぃぅぅ…ひぃぅぅ……

グリンの口からは空気の漏れるような音がしていた。


「グリ…ン……?」


ひぃぅぅ……ひぃぅぅ……

グリンは視点の定まらない目でこちらを見る。


「な………の…。」

「――ッ!!」


グリンの首元にある羽は絞められた時に切れたのか血が滴っていおり、圧迫された場所があらぬ方向に曲がっていた。


「あぁ………。」


何故だ⁉どうしてこんなことになっているっ!?


「いた……い…。」

「―――ッ! ま、待て今どうにかしてやるからっ‼」


なんだッ!何をしたっていうんだッ!グリンが何をしたっていうんだよぅ!!!


「グリン……さん…っ⁉」


ウィルが目を見開いて固まっている。


「ウィルっ!!グリンが…ケガしてて…何とかできないか?なぁ!?」

「何とか…って言われても…私には…。」

「何かないのかっ!? …そうだっ!お前の変形で傷をふさいでくれ!!」

「そんなことは…できません…。」

「できませんって…試してみないと分からないだろッ‼」


息は荒くなり、声はかすれ、まともに思考ができなくなる。


「そんなこと言われたって……ゔぅっ…。」


なんだよっ!何とかしないといけないだろっ!!このままじゃグリンが……。

何とかしないとっ!!!なんとかっ‼ダメだっ、考えがまとまらないっ!


「お前ら落ち着け。」


透明な何かと対峙していたヘルシングが戻ってきた。

ヘルシングはグリンに近づきその容態を診る。


「血を流しすぎだな…。」


グリンの下には血溜まりができていた。

グリンの首を固定しトランクから医療器材を取り出し止血する。


「応急処置はしたが長くはもたねぇ。別れの挨拶を済ませな。」


ヘルシングはトランクを閉め、僕らに言う。


「ヘルシングっ、グリンを治せないのか? なぁっ!その道具を使って直してくれよっ!お礼はなんだってするからさ!!」

「私からもお願いしますっ!!」

「無茶を言うな。俺は医者じゃねえ。」


そんな…。こんなに純粋でまだ幼いグリンがこんなところで死んでいいはずがないだろう⁉


「そこをなんとか…頼むよ…。」

「何とかしてください…ゔぅっ…。」


視界が歪み、雫がアスファルトの冷たい床に落ちる。


「しっかりしろッ‼つれぇのはお前らよりもこのガキだッ!このまま最後の言葉も残せねぇで逝かせる気かぁ!?どうだ‼」


ヘルシングは僕とウィルを怒鳴りつける。


……そうだ。せめて…せめて最期をしっかり看取ってやるくらいしないとっ!

僕はヘルシングの喝のおかげで何とか持ち直そうと努力する。


「ナノさんッ!」


ウィルが涙をためた決意のこもった目で僕を見る。


「あぁ、もう大丈夫だ。」


僕も負けじと決意を固める。


「な…の…、うぃ…る……。」


グリンはもう目が見えていないようで誰もいない方向を見る。


「ここにいるぞ!」

「ここにいますよ!」


体を撫でるようにしてグリンに触れる…その体はもう冷たくなってきていた。

目に涙があふれてくる。

グリンに気づかれないよう嗚咽だけはでないように何とか堪える。

横からはウィルの抑えるような嗚咽が漏れてきていた。


「ぼ…くね…、ふた…りと…あえて…ね…。いっ…しょに、たくさ…んの…ばしょに…いってね。」


かふっ

グリンが口から吐血する。


「グリンっ!!」

「グリンさんっ!!!」


グリンは血を吐いても言葉を止めようとはしなかった。


「とっ…ても…、たのしかっ…たよ?」

「僕だってッ!…とってもっ…。」

「とってもたのしかったですよっ…っ。」



苦しい…。胸が…痛いっ…。




「いま…まで…、いっ…しょに……いて………くれ………て……」

「―――っ!」





あり……が………と………う……………





グリンは眠るように目を閉じ、息を引き取った…。


今回の物語はかなりシリアスな内容となっておりますので皆さんには一気に読んでいただきたいと思い、いつもより長くなっております。皆さんの心に響くようなものがあればなと思います。

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