夢
「ナノさんっ!」
「ナノぉ~っ!」
目が覚め胸に飛び込んでくるウィルとグリンを抱きとめる。
二人の目尻は赤く腫れていてどれだけ心配をかけてしまったのかが伝わってきた。
「心配かけてごめんな。」
「ホントですよっ!!死んじゃったかと思ったんですからっ!」
「ちがいっぱいでててもうだめかとおもったぁ~!」
血がいっぱい出ていた…か。
一時はそんな状態にまでなったというのに今の僕の体には何一つ異常はない。
あの時何が起こったのだろう?
「体は大丈夫なのですか?」
「今は傷跡すらなくて不気味なくらい健康体だ。僕があの吸血鬼に噛まれた後、何があったのか話してくれるか?」
僕が気を失っている間に何が起こっていたのかが知りたい。
「はい…あの時ナノさんが噛まれて、私とグリンさんは必死に吸血鬼を引き剥がそうとしました。そこにヘルシングさんが手を貸してくれて、何とか引き剥がすことに成功したんです。ヘルシングさんが吸血鬼と戦ってくれている間に私たちはどうにかしてナノさんの血を止めようとしたのですが噴き出る血は止まらず…。ナノさんの呼吸は止まり…そして心臓までも止まってしまいました。」
「ほんとうにこわかったよぅ~。」
話を聞く限りじゃ確実に死んでいるようにしか思えないんだが…。
「それって死んでないか…?」
「私たちも絶望しかけていたんです。でも次の瞬間っ、まるでナノさんが噛まれたこと自体がなかったかのように傷が塞がっていたんですっ!」
「何が起こったんだ?」
「わかりません。ナノさんの傷だけでなく服や床に飛び散った血痕さえも無くなっていたんですよ!」
「ぼくとウィルにかかったちもなくなってたんだ!」
ヘルシングの言っていたことと一致する。
傷が治ったどころか噛まれたという事実がリセットされたかのように消滅している。
「どんなふうに無くなったんだ?」
「それが一瞬だったんです!瞬きをした次の瞬間には何事もなかったかのように…。」
「ぼくもっ!」
「………。」
ヘルシングは吸血鬼の相手をしていたというし、そばにいた二人ならと思ったんだが…。
一体僕の体に何が起こったっていうんだ?
「あっ。」
「どうしました?ナノさん?」
「そういえば僕、意識を失っている間に変な夢を見たんだ。もしかしたら失った記憶と関係しているんじゃないかと思うんだが。」
「どんなゆめだったの?」
そう。あの夢では確か僕は『兄さん』と呼ばれていた。
「話しかけてきた男の声が途切れ途切れにしか聞こえなくてはっきりしたことは分からないんだが、その声の主は僕のことを『兄さん』と呼んでいた。」
「『兄さん』ですか…。もしかしたらナノさんには弟さんがいるのかもしれませんね。」
「そうかもな。それが事実か確かめるすべはないが、その弟とやらが迎えに来てくれたら楽なんだがな。」
「まぁ、そううまくはいきませんよね。」
「だろうな。」
もしこの夢が本当に過去の記憶に関係していたなら僕には少なくとも弟がいる。
そうだとすれば僕は天涯孤独ではないということだ。
そう思うだけで少し気持ちが楽になった。
自分を天涯孤独だと言っていたウィルはさっきまでの僕のように心細い思いをしていたりするんだろうか?
それとも忘れていただけで実は家族がいたりするのかもしれない。そうだといいな。
「それでこれからお前たちはどうするんだ?」
ヘルシングがコートに付着した灰を払い落しながら言う。
「私たちはこの場所について調べたいので先へ進もうと思います。」
「先って言うと扉を進んでいくってことだよな?」
「はい、そうです。」
「それなら俺も付いていこう。こんなところにいても暇だしな。」
「はいっ!ヘルシングさんが付いてきてくれると心強いです!」
これからどんな危険な目に合うかわからない。
ヘルシングのような強い味方がいてくれるのはすごくありがたい。
「これからよろしく。」
いろいろと世話になる事もあるだろう。仲良くできるといいな。
ヘルシングに右手を差し出す。
「あぁ、よろしく頼む。」
僕らはガッチリと握手を交わした。




