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審判の箱  作者: 千人
25/50

二人の男

「じゃあ、扉をあけるぞ。」

「うん!」


元気よく返事をするグリンに反してウィルは頬を膨らませむくれている。

やれやれ…。

チェシャ猫と別れた後ウィルがどうしてもとごねるので少しだけ本探しを手伝ってやったんだが結局お目当ての本は見つからなかった。


「あ、待ってください。」

「なんだ?」

「たまには私にも開けさせてくださいよぅ。もともと私の持ち物ですしもしかしたら何か思い出すかもしれません!」

「うーん、それもそうだな。試せることは試してみよう」


今のところウィルの記憶が戻ってくれれば、手っ取り早くここのことが分かりそうだ。

ウィルに白い鍵を渡す。


「それではいきますよぅ~!」

ガチャンっ


「うーーーん!…………なにも思い出しませんね。」

「そうか…。」

「ざんねんだったね。」


まぁ、ダメでもともと。そんなもんだろう。

ウィルに返された鍵を受け取り扉を開く。

ぎぃぃーーー


少しだけ扉を開け隙間を覗き込むと暗がり部屋に上から光の柱がさしているのが見える。


「くたばりやがれっ!!このクソ吸血鬼がぁっ!」

「そんなもの私にには当たりませんよ?ヘルシング。」


「っ―――!?」


部屋の中から話し声が聞こえ手を止める。

な、なんだ?

ヒュゥン――――ガンッ!!  ヒュッ――ガゴンッ!


「さっさと灰になれっ!クソがっ!」

「かッはッハハハハハ!その程度で私を殺そうとは哀れですねぇ!」


怒鳴り声と物が崩れるような音が立て続けに何度も聞こえる。

これって緑の扉だよなぁ⁉どうしてこんな物騒な声や物音が聞こえるんだ!

かといってもう一つの赤の扉を開けるなんてありえないし……行くしかないのか。

ウィルとグリンにアイコンタクトを送り再びドアノブを握る手に力を入れる…。


そーーっとだ…慎重に…。


ぐッぎぃぃーー

扉の先には天窓から差し込む月光に照らされた二人の男がまるで舞い踊るかのように殺し合いをしていた…。


「っ―――。」


僕ら三人が声を出せずに固まっていると男二人がこちらに気づき、向かい合った状態のまま顔だけをこちらに向ける。

一人は大柄で白髪に青い瞳、無精髭を生やして白いコートを羽織り、首から十字架をぶら下げている。

右手には手のひら全体を使ってようやくつかめるほどの大きな杭を持っていて、左手には大きなトランクを持っている。

一方、もう一人の男は細身で肌は雪のように白く、顔だちは整っており、黒髪に黒いコート黒い帽子と全身黒ずくめである。


「おい!お前らそこでなにしてる!」


無精髭の男が怒鳴りつけるように言う。


「え~っと、私たちはこのあたりを調べていまして…。」


ウィルが部屋の中に入っていき説明を始める。


「調べているだぁ⁉今こいつをぶっ殺すところだ!さっさと来た道を引き返しな!」

「そういわれても…。」


どうしたもんか…。

来た道を戻ったとして赤と青の扉の選択を迫られることとなる。

危険な道はなるべく通りたくない。

現状この部屋も安全には思えないが。


「フっ、興が冷めました。お楽しみはもう少し後に取っておくこととします。」


黒ずくめの男は差し込む月光で照らされた地面の端に膝を立てて座る。


「もちろんあなたが戦意のない相手に襲いかかり無関係な人物を巻き込みたいというのならお相手をして差し上げますが?」

「ふんっ!」


無精髭の男は返事をせず、男とは向かい側の天窓から差し込む光の端にあぐらをかいて座る。

弾薬ベルトのように体に巻き付けられた大きな杭が月明かりでキラリと光る。

僕はこの場がひとまず落ち着いたのを見て辺りを見回す。

部屋には物が一切なく天窓があるだけでアスファルトの壁に囲まれていた。

そこら中に大きな杭が刺さっており壁や床が抉れている。

いったいどれだけの力でやればこんなことになるんだ…。

僕が無精ひげの男の怪力に驚愕しているとウィルが黒ずくめの男に近づいていく。


「え~っと、ありがとうございます、止めていただいて…。」

「いえいえ、私としても思うところがありましたので。」

「そう、ですか…。」


思うところがあるといったその男の赤い瞳はギラリと光り入口にいる僕を捕らえていた。

なんだ?その目が不敵な笑みを浮かべているのに気づき、思わずたじろぐ。


「あなた達は入ってこないのかい?」

「あ、いえ…。」


僕とグリンは黒ずくめの男に呼ばれ部屋に入る。

扉を閉めようと振り返ったところで緑の扉のすぐ横に赤い扉があることに気づいた。

前の部屋でも緑の扉のすぐ横に赤い扉があったけど、もしかしてつながっているのか?

だとしたらどうして二つ無駄に並んでいるんだ?


「その男に近づくな‼」


部屋に入り黒ずくめの男のほうに行こうとしたところで無精髭の男が制止する。


「そいつは吸血鬼だっ‼死にたくなければ近づくな!」

「きゅうけつき?」

「そうだ。お前やその青いのならともかく、そこのお前っ!」


無精髭の男は僕を指さして言う。


「僕…?」

「そうだ!お前だけは絶対にあいつに近づくな。血を搾り取られたくなければな。」


吸血鬼。人の生き血を啜る鬼。

この人がその吸血鬼だというのか?


「ぼくとウィルはだいじょうぶなの?」

「吸血鬼…またの名をヴァンパイヤは人の血しか吸わない。お前のような獣の血は吸いはしないさ。だからといってそいつが無駄な殺しをしないとも限らない。近づかないほうが賢明だがな。」

「無駄な殺しなど私は絶対に致しませんよ?ヘルシング。」

「どうだかな。」


ヘルシングと呼ばれた無精髭の男が吸血鬼だと言うのを黒ずくめの男が否定する様子はない。

この部屋に入ってきたときの争っている様子から、この二人がグルで僕たちを騙そうとしているわけではないだろうし、無精髭の言うことが本当だと思ってもいいはず。

ここは吸血鬼だというあの男には近づかないでおこう。


「おやおや、私は吸血鬼ですけれど無駄な殺しは致しませんよ?こっちに来てお話でもしようじゃありませんかっ!」

「話なら離れていてもできます。」

「つれないですねぇ。」


ウィルが入口近くにいる僕らのもとに戻ってくる。


「その人が吸血鬼だというのならあなたはいったい誰なのですか?」

「俺か?俺は吸血鬼ハンターだ。ヘルシングと呼んでくれ。」

この物語で初めての戦闘シーンです!ファンタジーといえば定番の吸血鬼の登場です。この小説で初のナノと人間が出会う話でもあります。ここから物語は加速していく(予定)でありますのでぜひ楽しんでいただけたらと思います。

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