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審判の箱  作者: 千人
24/50

笑う猫Ⅱ

僕らは目を見合わせ、仕方なく目をつむりゲーム開始を待つ。


「1…2…3…」


ウィルがカウントを始める。

チェシャ猫のゲームは言ってしまえばかくれんぼだ。

チェシャ猫が隠れ、僕たちが見つける。見つけることができれば、僕らがチェシャ猫に気が付かなかった理由とウィルが持っていた本の在処を教えてもらえる。

ウィルはその本になぜかこだわっているようだし、もしかしたら重要ようなことが書かれているものなのかもしれない。

幸いこの部屋は隠れ場所が豊富というわけじゃない。

三人がかりで5分もあれば余裕だろう。


「…28…29…30!」


僕らは一斉に目を開ける。


「それではさっさと見つけてしまいましょう!」

「しょうがないから探すか…。」

「みつけるぞ~」


チェシャ猫を探すにあたって役割分担を行うことにした。

ウィルとグリンには部屋を左右に分けて本棚の上など高いところをメインに。

僕は低い場所をメインに探すことになった。


「それでは二人とも気合を入れていきますよっ!!」


ウィルのその一言でチェシャ猫探しは開始された。


そんなわけで現在机の下を捜索中…対象を確認できず。捜査を続行する。

本棚の隙間を捜索…対象は確認できません。

2分が経過し、ウィルほどやる気のない僕は警官にでもなったつもりになって猫探しをしていた。

ウィルやグリンから見つけたようなことは言ってこないし思いのほかチェシャ猫は上手く隠れているようだ。

この部屋で隠れる場所なんてそう多くはないだろうに。


「見つかりましたー?」

「いや、全く。」

「みつからないよ~」


3分が経過しウィルが少し焦っているようだ。僕はといえばもう思い当たるところはあらかた探しつくし本棚の間を歩きながら本を眺めていた。

……ん?このタイトル…。

手に取ったその本には不思議の国のアリスと書かれていた。


「ウィルっ、こっちに来てくれ!」


本棚の上や本の間を縫うように調べまわっていたウィルがこちらにやってくる。


「見つかりましたか!」

「いや、猫はいなかったんだが…これ。」

「あ、私が読もうとしていた本っ!どこにあったんですか⁉」

「普通に本棚に入ってた。もしかしたら他の二冊も本棚にあるんじゃないか?」


僕らが話しているのを聞きつけたグリンも合流し中央に集まり、僕とグリンそしてウィルとで机を挟んで話し合う。


「それがさがしていたほんなの?」

「はい、あとは二冊ですね!」

「もはやチェシャ猫を探すより本を探したほうが早いような気までしてきたぞ。」


それにどちらにせよもうすぐ時間切れだしな。

砂時計の砂はあと一分ももたず落ちきってしまうだろう。


「もうじかんないよぅ?」

「隠れられそうなところは探し切ったんだがなぁ。」

「………。」

「……ウィル?」


ウィルを見ると本の表紙を見た状態で止まっていた。

一瞬、あの無表情が姿を現していたが次の瞬間には元のウィルへと戻っていた。

なんだ…?


「チェシャ猫さんっ!自分を見つけてみろと言いながらずっと姿を消したままなのは卑怯じゃないですか?」

「ウィル、かくれんぼなんだから隠れることに卑怯も何もないだろ?」

「違いますっ!隠れているのではなくて姿を消しているんです!始まる前から負けが決まっているゲームなんて認めません。」

「姿を消している?」

「はい、チェシャ猫というのはこの本、不思議の国のアリスに登場する姿を消す能力を持った猫の名前です。姿が消せる以上私たちが見つけることは不可能です。そこら中にペンキのようなものでもぶちまけられるというのなら話は別ですがここにはそんなものないですしね。」


あの猫、そんなことができたのか…。

初めて見た時もそれですぐにいなくなったように見えたと考えれば合点がいく。

ん?でも、ウィルはその本をまだ読んでいないはずだろ?


「なんでそのことを知っているんだ?」

「思い出したんですよ。私はこの本の情報を知っています。」

「またきおくをおもいだせたんだ!やったねっ!」


そういうことか。以前に読んだことがあったから本を読んでもいないのに内容を知っていたのか。

タイミング的にさっき無表情になっていた時に思い出したんだろうか?

そう考えると神殿の部屋でもぼーっとしていたと言っていたあの時、記憶を思い出していたと考えるといろいろ辻褄が合う。

あの状態になるのは悪いことではないということだろうか?

砂時計を見るともうすでに砂は落ちきっていた。


「ニャハハハハハハハーーー!!しゅーりょーーニャッ!!」


!?

僕は肩を跳ねさせ、ウィルは頭をピンッと立てる。そしてグリンは石のように固まっていた。

僕たちの間にある机の上にチェシャ猫は座っていた。

驚いた僕たちを見て心底楽しそうにニヤニヤしている。


「このゲーム、チェシャの勝ちでいいニャ?」

「いいわけないでしょう!」

「でも、時間切れニャ。」

「さっきも言いましたが、自分を見つけろと言いながら…。」

「それは聞いたニャ。ゲームの初めから最後までここにいたからニャ。」

「っ――聞いていたのならわかるでしょうっ!」

「チェシャは”見つけてもらう”といっただけで誰も物陰に隠れるなんて言ってないニャ。」

「っ――――」


相変わらずにやにやとしながらいうチェシャ猫にウィルは怒り心頭といった感じだ。

僕らはゲームには負けたかもしれないがチェシャ猫のトリックも分かり、本も一冊見つかった今、残すは二冊の本だけである。


「ウィル、あとは二冊の本だけだろう?そんなに重要な本なのか?」

「とーーーっても重要です!その二冊がこんなゲームに付き合った一番の理由なのですからッ‼」

「ふむ……。」


そこまで重要情報が載っているのか。


「チェシャ猫、教えてはくれないのか?」

「ダメニャ。ルールはルールニャ!」

「そうか…。」


しょうがないな。この猫が折れてくれるとも思えない。


「ウィル、あと二冊の本のタイトルはなんだ?どうせ同じようにこの本棚のどこかにあるだろう。」

「ぼくもいっしょにさがすよ!」


僕らの言葉を聞き、ウィルの顔がぱぁっと明るくなる。


「ありがとうございます!そうですよねっ、少し時間はかかるかもしれないですけどこの際仕方がありません。」


これだけの本一冊一冊のタイトルを見ていくのはちょっと面倒だが情報のためだ、やるしかないか。


「それで?タイトルは?」

「はいっ!『絶品‼世界に轟く超絶料理‼』と『探せ‼この世のすべての珍味をそこに置いてきた‼』です!!」

「はぁっ?」


僕とグリンは開いた口が塞がらなかった。


「だ~か~らぁっ、『絶品‼世界に轟く超絶料理‼』と『探せ‼この世のすべての珍味をそこに置いてきた‼』です!!」

「聞き取れなかったわけじゃねぇよ⁉」

「なら、なんだっていうんですか?」

「わからないのか…。」

「わかりませんねぇ~。」

「………。」


チェシャ猫のゲームに乗り気だったのはそんな物の為だったのか…。時間を無駄にしたッ!


「じゃあなチェシャ猫!それじゃあ緑の扉を進もうか‼グリンっ!」

「う、うん!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよぅ~!一緒に探してくれるんじゃないんですかぁ~!」


もうここにいる理由はない。いざ行かん未開の地へ!



「面白いやつらだニャ~」

そういってチェシャ猫はにやにやと笑うのであった。

原作小説の不思議の国のアリスではチェシャ猫は笑いを残して消えるようですが、その目を後ろから見るとなかなかグロいことになっていたりするのかなーと相変わらず無駄なことを考えている私です。

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