水の美女
「大丈夫かっ!グリンっ!」
僕とウィルがグリンのもとに駆け寄る。
「…その人は?」
その人型の何かがグリンを助け起こしているのは見えていた。
敵対心はなさそうだがいったい何者だ?
「初めまして、私はウンディーネと申します。」
「う、ウンディーネ⁉」
ウィルが驚いたように声を上げる。
それって確か…。
「ウンディーネといえばサラマンダーと同じ四大精霊ですよ⁉水を司る精霊といわれています!」
火の精霊の次は水の精霊か。
「危険はないんだろうな?」
ウィルにだけ聞こえるように小声で話しかける。
「確か水の近くで罵倒されると水に帰るそうですよ。」
「それなら問題ないか…。」
いざってときは罵倒して水に帰してしまえばいい。
「あと、愛する人が別の相手を愛してしまうと殺してしまうそうです。」
「なにそれ怖っっ‼」
嫉妬深いにもほどがあるだろ!
「どうかなさいました?」
これ見よがしにこそこそと話していれば当然気になるわな。
「い、いやっ何でもないっ!」
ウィルに物騒なことを聞かされてしまったせいで返事がぎこちなくなってしまった。
恋人とかじゃなきゃ大丈夫なんだよな?
「初めまして、僕はナノ。よろしく。」
「私はウィルです。」
「ぼくはグリンだよっ!」
「三人ともよろしくね。」
ウンディーネはグリンを撫でながら言う。
グリンもされるがままとなっていて心地よさそうである。
「つめたくてきもちいぃ~」
「あら、それだったらもっと撫でて上げるわね。」
「ふへぇ~」
グリンは目をつむりウンディーネに膝枕をしてもらう形で見るからにリラックスしていた。
ウンディーネの仕草は一つ一つがぞくっとするほど艶めかしい。女性としての魅力にあふれ、百人に聞けば全員が美しいと絶賛するであろう絶世の美女であった。
「なに鼻の下を伸ばしているんですか?」
ウィルがジトッとした目で僕を見ている。
「鼻の下なんて伸ばしてない。」
「ではどうしてウンディーネさんを舐め回すように見ていらしたのですか?」
ウィルが攻めるような口調で言う。
「見ていない。」
僕は決して初対面の相手を顔、胸、お尻、脚の順で見た後に今度は下から順にみていくようなことは断じていていない。
「嘘ですね。」
「嘘じゃない。」
「ナノさんの顔がすべてを物語っています。」
「僕の顔は他に類を見ないくらい紳士的な表情をしているはずだ。」
「そうですね。他に類を見ない紳士的な表情でウンディーネさんと体をガン見していますね。私と話している今でさえ。」
「……。」
嘘だった。
すべてが嘘だった。
ウィルのほうを見るとまるで汚物を見るような目で僕を見ている。
僕はそれに気づかないふりをして視線を戻す。オアシスはここにあったのだ。
「ウィルさんっ!無言でウンディーネさんを鑑賞し続けないでください!」
「かわいいグリンを見ているだけだ。」
「視線の位置が違いますっ‼」
僕がウィルを無視してひたすら目の保養に集中していると、女神と目が合った。
「あなたも撫でてあげましょうか?」
あっ今、天国の呼び鈴が聞こえた気がする…。
「よろしくお願いしますっ!!」
「ナノさんっ!」
雑音が聞こえた気がするが気にしない。
僕は天国に導かれる亡者のように約束の地へ向かう。
「あ゛痛っ!?」
耳に痛みが走るっ!
振り返るとそこには僕の耳をつかんで離さないウィルがいた。
「何をするんだ!ウィル!」
「行かせませんっ!」
そういって僕の耳を引っ張り続ける。
「痛だだだだだぁー⁉」
僕の悲痛な叫びを聞いてグリンが体を起こす。
「きもちいいよぅ?ナノにもやらせてあげたらいいのに。」
「ダメです!グリンさんのような純粋な心をナノさんは忘れてしまっていますのでっ!」
「とりあえず放せって!痛いからっ!!」
そうしてようやく僕の耳は解放された…。




