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審判の箱  作者: 千人
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目覚め




冷たい。


目を開けるとそこには白い床、白い天井、…そして白い扉が目の前にあった。


「……………ここはどこだ?」


辺りを見回すと自分が前後左右、四方を扉で囲まれた正方形の部屋にいることが分かった。


「なぜこんなところに?」


目覚める前の記憶をたどる……


「………思い出せない。」


目覚める前はおろか自分の名前さえ思い出せない。


再び辺りを見回し状況を整理する。

白い部屋の真ん中に自分はいる。正面には白い扉、右手には青い扉、左手には赤い扉、そして後ろには緑の扉がある。

物の名前や使い方なんかはわかるのに自分に関しての記憶だけぽっかり穴が開いたように思い出せない。


「…さて、どうするか。」


何か持ち物はないかと体を探ってみる…


「……鍵だ!」


ポケットに緻密な装飾が施された白いかぎが入っていた。

何か自分の身分がわかるようなものはないかと思ったのだが、これも何かの手掛かりになるかもしれない。


「う~ん……。」

唸っていてもどうにもならない。現状、なにか行動するほか選択肢はないように思える。

とりあえず正面の扉を開いてみるか。


ガチャガチャ…

鍵が掛かっている。

試しに手元にある白い鍵を挿してみる。


………ガチャンッ

「開いたッ!」

さっそくドアノブをひねり、扉を開く。


「……ん?」

「………ひぇ?」


暗い部屋の真ん中で青白く光る物体と目が合った。

「……………どちら様です?」


喋ったっ⁉

それは手のひらほどのサイズで頭でっかちな雪だるまのような形状をしており、手足はない。頭部と思われる場所には耳や口や鼻、口などはなく、目だけがついており、頭のてっぺんには角のようなものがユラユラと揺れている。

そして何よりも…、


「…浮いている?」


それには手足、ましてや翼などなくただ浮いていた。


「え?  あっはいっ‼ 浮いていますけど……それが何か?」


それは浮いていることの何がおかしいのかと言わんばかりに首を傾げた。

いや、あの円形のくぼみを首だとすればの話だが…


「私はの名前はウィルといいます。あなたのお名前を教えていただけますか?」


こちらが沈黙しているとそれは自己紹介を始めた。

みてくれは普通じゃないが意思疎通はできそうだ。


「すまない。記憶がなくなってるようで自分の名前もわからないんだ。」


危害を加えてくる様子もないし会話をしてみてもいいかもしれない。

僕は弱みを見せまいと平静を装い答えた。


「隣の部屋で目覚める前の記憶がなくてね。」


話を聞いていたウィルを見るとゆらゆら揺れていた角がピンと天を指すように突っ張っていた。


「…き、記憶がないんですか?」

「あぁ…、鍵だの扉だの物の名前なんかはわかるんだがどうにも自分が何者で何をしていたか…なんてことが全く思い出せない。」

「え、え~と 、その~、 すみません……。」


ウィルは伏し目がちになり角が枯れた花のようにしなびている。

あれは感情に反応しているのか?


「気に病む必要はない、確かに自分のことがわからないのは不便だが、それで落ち込んだりしているわけじゃない。」


こちらを向いたウィルの目は少し涙ぐんでいた。

何だか小動物のようでかわいらしいな。


「それならばいいんですけど…。」


このウィルと名乗る生き物は少なくとも相手を気遣う感情もあるようだ。

とにかく今は情報が欲しい。今この状況について何か知っていることはないだろうか?


「ところでウィル、 君はここがどこだかわかるか?」

「いいえ。」

ウィルは間髪を容れずそう答えた。先ほどまで目から読み取れていた感情はが消え、声色も単調となり、まるで機械と話しているかのような印象を受けた。唐突なその冷たい無表情に恐ろしささえを感じる。


「…………ウィル?」


「はい!なんでしょう?」

先ほどの無表情が嘘のように生気を帯びた様子で答える。


……??

どうゆうことだ?

気のせいなんてことはないはずだ。何か癇に障るようなこと言ったか?

聞き方を変えてみるか。


「ウィルはどうしてここにいるんだ?」

「わかりません。」


まただ、 またあの無機質な表情、いったい何だっていうんだ?


「じゃあ、僕がここの部屋来るまで君は何をしていたんだ?」


そう聞くとウィルは急に笑顔になって言った。


「あなたを待っていたのです!」

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