train-ing
たまにはいつもより早く電車に乗って、のんびり登校するのもいいな、
と思ったのが事の発端だった。
4号車の隅、
優先席の前に君はいた。
いつもなら私がいるはずの場所も、いつもと違う時間には、私と違う人がいるんだと思うとなんだか不思議だ。
君の隣に並ぶ。
鞄のチャックが開いていたのか、気づかぬうちにイヤホンが落ちたらしい。
「落としましたよ?」
「ありがとう……ございます」
よく見ると、近所の高校の制服を着ている。
私と年が近いなんて、私のよりもひとまわりくらい大きいであろう、その綺麗な手からは全く想像できなかった。
「ああ、おはよう」
「おはようございます」
それから毎日、朝早く電車に乗るようになった。
イヤホンを落としたあと、突然話しかけられたのにはちょっと驚いたけど、彼との会話は憂鬱な朝の楽しみになった。
彼は、私の二つ上。
最初見たとき、やたら大人っぽく感じたのは背の高いせいだろう、と勝手に思う。
話してみると大柄な見た目とは裏腹に、気さくでとても面白い。
私より二駅も前で降りるのが惜しいくらいだ。
そんな彼に惹かれ始めるのは、そう遅くなかった。
いつしか彼と毎朝話す日課は、どんな嫌なことも吹き飛ばしてくれる、特別な日課となっていた。
そんな時、声をかけてくれたのは君だった。
「今度、出かけない?」
遊園地に行く予定が、雨が降ってプラネタリウムに行ったこと。
そこで初めて手を繋いだこと。
聡明な彼に勉強を教えてもらったこと。
わかりやすかったのに、いつもより近距離で少しドキドキしたこと。
楽しかった思い出が、鮮明かつ鮮烈に蘇る。
そんな楽しい日々も、やがて破綻を迎える。
二つ上の彼は受験勉強に勤しむようになっていた。
次第に電車の時間もずれ、会うことも少なくなった。
久しぶり、と会えたのは最後に会ってから既に1ヶ月が経過していた。
そこで告げられたのは突然の別れだった。
「ごめん、君を幸せにはできない」
私にはそれが、ただの綺麗事にしか聞こえなかった。
できることはするから、ただ君のそばにいたいだけの日々なのだから。
そうやって君にすがっても、彼の意思は揺るがなかった。
私は彼を忘れられないまま、あの頃のままでいたい自分を忘れられないままで、
電車だって私の思いだって、行き止まりのはずなのに、続きがあるように思う自分に憤りを感じる。
ずっと、君のことばかり考えている自分がいる。
数日後、彼との決別の意も込めて私は、彼に電話をかけた。
(おかけになった電話はーーーーー)
繋がっていたのは電車と電話でだけだった。
どこに住んでいるか、どこの学校に通っているか、思えば彼のことを何も知らないままだった。
もう、二度と会えない
そしてもう、会わないと心に決めた。
電車に佇む彼女の瞳には強い意思が表れているように感じた。
そういや、あの彼はどこか遠くに引っ越したらしい。
あの彼女が立ち直れるといいのだけれども。
これは、私のみぞ知る物語ーーーー。