プロローグ バースデイ
それは深い眠りにも似た感覚だった。
暖かく、穏やかで、そして安らかな暗闇がどこまでも続く。
そんな空間がこの時間の中に満ち満ちていた。
何となく、身体を超えたどこかの部分で理解していた。
此処を出なければ、ずっとこの感覚が続いてくれる、と。
けれども、同時にこの空間の中で思うのは、焦燥だった。
早く出なければ、早く会わなければ。
そんな、胸を掻き毟る程の焦りと、想い。
誰に会わなければならないのか、何処に行かなければならないのか。
それさえもこの暗闇の中に隠されてしまっているようで判然としなかったが、それでも、出なければいかなかった。
ここでは無い、何処かへ。
やがてその思いに突き動かされる様に、出来上がった手足の爪が、頭から生えて来た角が、体の半分にもなる尾が、暗闇を突き破ろうとしてその意思に導かれる様に暴れ出し始める。
その小さな体を突き動かす意思は、やがて身体を堅く覆う卵の殻を徐々に破っていく。
そして――――――
「----うん?漸く出て来たか。おはよう。今日から私が、お前の母だ」
真っ白な視界の中で、白銀色に輝く体毛と共にそんな声が彼女に掛けられた。