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それまでに。

 立ちくらみにも似た吐き気と、頭痛が気持ち悪い。

 手元にあった懐中時計の手触りは消えていて、指は掌に当たる。

 すべてを我慢して瞼を開けると、僕は自分の部屋の中に居た。

 意味不明な状況に何をしたら良いか分からなくなる。

 それでも何とか頭の中を整理して行動に移る。

 日時を確認するために手に取ろうとした携帯電話は、ベッドの上で充電器に挿されていた。

 それを手に取り僕は慌しく開いた。

 そこに四月十四日金曜日、二十一時四十六分そう表示されていた。

 本当に戻ってきた、らしい。

 今、灯白月々火、彼女は死んでいない。

 自分は彼女が死んだときの悲しみも、これから死ぬという事も、覚えているのにこの世界の誰もがその事を知らない。自分だけが馬鹿みたいにその事を知っている。

 それはさておき、と思考を入れ替える。

 まず、何をしたら良いか。やはり

 やる事と言えば鼕華雨露とうかあまつゆに会って、懐中時計を貰わなければならない。

 早速と言わんばかりに彼女に電話する。

 呼び出しから三秒ぐらいですぐに出てきた。

「懐中時計かな?」

 少し悪戯めいた様に予測で先手を取られた。

 あぁ、と微妙な返事をすると彼女は由越交差点に居るよ、とすぐに返事を返してきた。

 由越交差点、そう聞いてすぐに部屋を出て、家族には行って来るとだけ言って家を後にした。

 まだ薄明るい空と薄暗い道の狭間を走る。

 高校には電車で行くし、あんまり外に出ないので自転車なんて物は家には無かった。そして今、買っておけば良かったと薄く後悔する。

 学校のマラソン大会の三分の一位の体力を使って由越交差点にたどり着いた。

 彼女は十八日に僕の居た歩道橋で、手すりに腰を掛けていた。

 階段を上がり彼女と同じ高さまで来ると右手を少し上げてこっちに向かってくる。

「本当だっただろう?」

 少し勝ちほっこった様にそう問うて来る。

「本当だったから感謝するよ」

 そう言うと彼女は微笑んだ。

「ところでさ、君は本当に繰り返して彼女を救うのかい?」

 珍しくも彼女は神妙な顔でそう言った。

 いつもと違う彼女だから、その質問をすぐには返せなかった。

「・・・、やるから、その時計が欲しい」

 そう言うと彼女は多少安心したように小さく笑った。

「いいよ、ほら」

 ポケットに入っていた時計を投げ渡しててくる。

「なにかあったら相談してね。こういうことは辛い上に、話せるような人が居ないからね」

 そうして彼女は自分に背を向けた。

 じゃぁね、とだけ彼女は言うとそのまま歩道橋を降りていった。

 そうして一人残された歩道橋の上。

 自分にとって、寂しさの象徴のようであるこの場所は、ひどく心を沈ませる。

 この感覚が嫌いなわけではないが、今はすぐにここを離れたかった。

 二日後、彼女が死ぬ。


夜空 朱那巡{よぞら かなめ}

灯白 月々火{とうはく つつか}

鼕華 雨露{とうか あまつゆ}

由越交差点{ゆうえつ}

興ヶ高校{こうきょう}

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