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異世界ホムンクルス  作者: 頑張郎
3/4

蒼白の剣

 暖かな風が吹き、その風は春の訪れを予感させた。

 しかし、この男。ロムフには今はどうでもよかった。

 「こりゃー!魔法を失敗するのは構わんがワシを巻き込むな」

 そう叫びながらバットルは杖を振り回す。硬質な木の杖がロムフの頭に直撃する。

 「痛ぇ!おい、ジジィ!人の頭をなんだと思ってやがる。俺は杖で殴られるために生まれた訳じゃねぇぞ」

 そう言うロムフの衣服の所々は焼き焦げている。先程から練習している火炎系の魔法をまたしても失敗しており、危うく焼き肉になりかけたのだ。その失敗劇を最初は面白がっていたバットルも巻き込まれかけたとなれば、面白がってばかりではいられない。

 今、ロムフとバットルは草原のど真ん中で魔法の練習をしていた。ロムフが生まれ変わったその日の翌日から、バットルは魔法をロムフに教え始めた。

 ロムフ自身もこの世界に魔法があることを知り、強い関心を持ち、魔法を学ぶことを強く望んだ。しかし…

 「仕方ねぇだろ。じいさんと俺とじゃ体の構造が全く違うんだから」

 そうなのだ。ロムフはホムンクルスだが、バットルは人間だ。体の構造が本質的に違う。

 人間の体の中には「魔力線」というものがあり、これは体の中を血管のように巡っており、「魔力線」の中には血液のように魔力が流れている。この「魔力線」が多い者ほど魔法の素養があるとされ、「魔力線」がない者は魔法を使うことができない。

 魔法を使うと言うことは体の中を循環している魔力を「魔力線」を介して、魔力を外に放出することにより、魔法を使うことができる。しかし、ロムフにはバットルによれば、「魔力線の一本も見当たらない」らしい

 「甘ったれた事を言うな。文献ではホムンクルスは皆、優秀な魔法使いだったことがわかっとる。お主もホムンクルスなんじゃから出来ん筈はないわい」

 「あくまで、文献の中の話だろ、それは。そもそも俺には魔力線がないから魔法は使えないはずだろ?昔のホムンクルスが使えたって言うけどじいさんが俺の設計ミスをしただけじゃないのか?」

 言ってる自分がなんだか、バカみたいになってくるロムフ。他人が聞けば正気を疑うであろうこの光景を見ているものはおらず、そこにあるのは穏やかな日射しをを受ける草原の草花だけだった。

 「たわけ!ワシの生涯を通じて出来た完璧なホムンクルスじゃ、お主は。そのお主が出来んと言うことはお主がだらしないからじゃ、それにお主はさっきまで少し使えておっただろうが」

 そこが問題だった。魔力線がないのに、魔法が少しとは言え使えている。これだけでもそこら魔導学者たちがひっくり返る事実なのだが、その事に気がつかないロムフとバットルだった。

 「はぁ……」

 魔法の練習が上手くいかず、座りこむロムフ。しかし、彼の造りの親は休ませようとしなかった。

 「なんじゃ、この程度で音をあげたのか?だらしないのぅ」

 「少し位いいじゃないか」

 座り込んだロムフはふと、座り込んだ際についた手を見た。違和感を感じたからだ。

 地面の中を何かが巡るのを感じたからだ。そう、それはまるで地面の中に巨大な「魔力線」が巡っているような感じだった。

 「なぁ、じいさん。地面の中にも魔力線ってあるか?」

 「?…ああ、あるのぅ。確かに地面の中には魔力線に似たようなものが流れとるのぅ。しかし、それは魔力線では無く地脈と言うのじゃが…何故それの事を知っておる?教えてはおらんはずじゃが」

 教えていない事を突然聞かれ、疑問に思いながらも「地脈」のことを教えるバットル。

 バットルの疑問には答えず、ロムフは二つ目の疑問をバットルに投げ掛ける。

 「その地脈ってのには、魔力が流れてるのかい?」

 質問に対して、質問で返すやり取りだったが、バットルは特に気にもせずロムフの疑問に答えることにした。

 この疑問に答えれば、おのずとロムフの言いたいこともわかるだろう、という気持ちもあるがバットル自身もロムフが言いたいことはある程度予想がつき始めていた。この疑問に答えるのは、答え合わせのようなものだった。

 「確かに、地脈には膨大な魔力が流れておる。地脈の多く流れておるところは、作物が多く実り、自然豊かになるな。…といっても地脈が全く流れていないと、言うところはあまりないがの」

 「そうか」

 ロムフはその答えを聞くと、立ち上がり、バットルから距離を取った。

 そして、地面にしゃがみ、片手をついた。

 「今度は間違えるんじゃないぞ。間違えるにしてもワシを巻き込むなよ」

 後ろから、バットルの声が聞こえるがロムフはその声には返事をせず、「地脈」に意識を向け続けた。

 「地脈」から少しづつ自分の中に魔力を汲み上げ、その魔力で「魔力線」を造り、巡らせていく感じ。

 そして、体の中を「地脈」から構成した「魔力線」が十分に満たしたとロムフは判断すると、立ち上がり、手を前にかざし、一言呟いた。

 「…火よ」

 火の玉を頭に浮かべ、一言火を求める言葉を口に出して唱える。

 すると、かざした手の前に火の玉が浮かんだ。

 ロムフがかざしている手を握ると火の玉も同時に消えた。

 「ほう、何かコツでも掴んだか?」

 後ろからバットルがやって来て、ロムフに問いかけた。

 「ああ、ある程度は掴めた。地脈からちょいと魔力線を作っただけだけどな」

 何でもないことのように言っているがこれは本来不可能とされていることだった。

 確かに「地脈」を流れている魔力は膨大なものだがこれを使おうとすると制御ができないのだ。

 水が勢い良く吹き出すホースのようなものだ。

 しかし、バットルの中では文献を参考にしていたこともあり、さらにホムンクルスだからできて当然という思いがあり、驚きには至らなかった。

 「そうかそうか、それならば他にはどんな魔法が使えるか試してみてくれ。お前さんのやりたいようにやっても構わん」

 そのように言われ、いろいろ試してみたロムフだったがある程度のことは出来た。身体強化、雷魔法、水魔法、etc…果ては天候干渉と、今まで出来なかったのが嘘のように簡単に出来てしまった。

 しかも、最後の天候干渉は大魔法の一つとして知られており、本来は数人で行われる類いのものだった。

 バットルには「最早今日死んでも構わん。なんの悔いもない」とさえ言わしめるほどだった。

 大袈裟なと感じたロムフだったが、流石に天候にまで干渉出来たのは驚いた。

 これがあれば雨の日でも自分の回りだけ晴れにできるのか。素晴らしい!

 くだらないことを考えていたらバットルに殴られた。

 「痛ぇよ、じいさん。何か言いたいことがあるなら一声かけろよ」

 「馬鹿者、帰ると三度は言ったぞ。お主こそ人の話にはしっかりと耳を傾けよ」

 自業自得だった。

 帰る道中もくだらないことの言い合いで家までの道程はほとんど意識しなかった。

 

 この様に一見くだらなさそうで実は徐々にこの世界での力や知識を蓄えていくロムフだったがそろそろ外の世界にも出たいと感じ始めていた。

 「なぁ、じいさん。実はそろそろ外の世界に行きたいんだけど…構わないか?」

 今までなんとなく切り出すタイミングを逃していたロムフは夕飯の時に思いきって、聞いてみた。

 「おお、そうか…そうじゃな。それでは早速明日にでも外の世界を回って来るといい」

 案外簡単に許しが出たことにロムフは拍子抜けしてしまった。 

 「え?…いや、良いのか?」

 自分の望む答えが出てきたのは嬉しいがここまで簡単に許可が出ると散歩にでも出るものと勘違いしているのではと、疑ってしまう。

 バットルからしてみれば己のホムンクルスが外に出て様々な事柄に触れ、成長する様は想像するだけで心踊る光景だった。

 しかし、そんなことをバットルがそんなことを考えているなど夢にも思わないロムフは改めて聞いてしまう。

 「はぁ…じいさん。耳が遠くなってきてるようだな。改めて言うぞ。外の世界を自由に見て回りたいんだが構わないか?……痛ってぇぇぇぇぇぇ」

 言い終わると同時にバットルの加減なしの杖がロムフの頭に高速で一撃を見舞った。

 「ワシはまだそこまで耄碌しとらんわ!しっかりと聞こえておるわ」

 叱りつけられたロムフは今、杖で殴られた勢いで椅子から転げ落ち、床を悶絶しながら転げ回っていた。

 しばらく転げ回った後椅子にロムフは座り直し、バットルと必要なものを考え、その後は考え出したものの準備に取り掛かった。

 杖で殴られたことには言いたいことは二つも三つもあったが、言ったところでどうにもならないことをロムフはこれまでの経験から学んでいたし、自分にも非があったので飲み込んだ。

 

 代わり映えのない朝日は、ここを出て外の世界を見に行くロムフの門出を祝福しているようだった。

 少し古いマントを纏い、腰には長剣を差しているロムフの姿はどこをどう見ても新人冒険者と、言う感じだ。

 「それじゃ、じいさん。世話になったな」

 「うむ、へこたれてすぐ帰って来るんじゃないぞい」

 「ははは……そうならないように祈っててくれ」

 「ここから西に少し行くと、テッサリア王国に続く道が見えるはずじゃからそこを進み、テッサリア王国に迎え。テッサリア王国は近年、生まれや階級、立場によらず優秀な者を集めておるから、そこで上手くやればよかろう」

 「テッサリア王国ね…了解。そこまで行けば後はなんとかなるか」

 ロムフの当面の目的地はテッサリア王国に決まった。

 「おお、そうじゃ、これも持っていけ」

 そう言って手渡されたのは拳程の大きさの水晶玉だった。

 受け取ったロムフは首を傾げたが、水晶玉をどう使うかはバットルから説明された。

 「それは、連絡水晶。読んで字のごとく連絡に使われる水晶じゃ。それさえあれば困ったときにワシに連絡できるはずじゃ」

 「こっちじゃ携帯電話みたいなもんか」

 形は全く違うが用途としては前世の携帯電話と同じ道具なのだろうと推測できた。

 「重々、ありがとうな。じいさん。それじゃ行ってくるよ」

 そう言い、ロムフは西に向かって歩き始めた。その後ろ姿をバットルは姿が見えなくなるまで見送っていた。

 

 西の道を目指し、歩いていたロムフは何かに呼ばれた様に感じ、足を止めた。

 視線を呼ばれた様に感じた方向に向けてみれば、遺跡の様なものがロムフの目に写った。

 このまま、まっすぐテッサリア王国に向かうべきか寄り道すべきか迷ったが多少の寄り道は許されるだろうと遺跡の方向に歩き始め、40分程で遺跡に着いた。

 遺跡に近づくにつれ、遺跡は雨風により大分痛んでいることがわかった。遺跡の入り口の両脇には石造りの巨像が手に大斧と槍を持って佇んでいた。

 「俺が入ったら、急に崩れるとかナシだからね?」

 ロムフが懸念しているのはそこだった。見てみれば作られたのはかなり昔だと言うことが用意に判断できる。

 ゲームの中では遺跡を探索するなどはよく目にする光景だがそれはゲームの中であって、現実では知識のない素人がやれば遺跡が自分の墓場になりかねないのだ。

 しかし、ここまで来て「じゃあ、帰るか」とはロムフにも言えなかった。意を決して遺跡の中に入ることを決める。

 遺跡の中は日の光が入らず、暗かった。ロムフは「光よ」と唱え、光魔法を使った。

 遺跡の中には壁画等は書かれていなかったが、その代わりに無数の石像が槍を持って佇んでいた。

 「これっていつ襲ってくるかわからないやつじゃん」

 そんなことを言ったのが悪かったのか、一体の石像が動き、槍を構え、ロムフの前に立ちはだかった。

 「口は災いの元か…言うんじゃなかった」

 そんなことを呟きながら、どう対応するかわからずにいた。石像に当然剣は通じないだろう。かといって、石像をかわし、強引に先に進むのは流石に道幅的に無理がある。

 魔法で破壊すると言うのはありだが、遺跡に入る前にも考えたが魔法などで崩れ出したら目も当てれない。しかも、その原因が自分とは笑い話にもならない。

 この様に考えていたら石像の方から動いてきた。とても古びた石像とは思えない動きで槍で突きを繰り出す。

 この突きをロムフは左にかわし、石像の胸元まで一気に迫り、その冷たい質感の硬質な胸に手を置いた。

 一瞬、石像は動きを止め、次の瞬間にはガラガラと音をたて、崩れ去った。

 ロムフがいまやったのは石像の中にあった、魔法式の上書きだ。

 魔法式とは魔法使いが複雑な魔法を使うときや、魔力を効率的に使う際に用いるものだ。無論魔力で強引に魔法を使うこともできるが、それをやると魔力が驚くほど必要になる。多くの魔法使いはそれほどの魔力を持っていない。

 「ふぅ……こんなのがこれからもあるのかね。面倒だから遺跡のトラップは全部上書きで無効にするか」

 そう言い、ロムフはしゃがみ、地面に手をおき、遺跡の魔力に意識を向けていく。そして、ある程度、自分が何処いるのか。それと、この遺跡の見取り図を頭のなかに入れた。

 広い場所を調べるのはロムフが最初に考えた地脈の使い方だ。

 遺跡の魔法トラップを無効に出来たことにより、遺跡はかなり簡単に進むことができるようになった。しかし、そう簡単に行かないのが人生だ。それともこれはロムフの生まれもった性か。

 「勘弁してーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 ロムフはいま古典とも言える、大岩に追いかけられていた。魔法式を無効にしたことにより、気が緩み、うっかり、石畳の内の一枚を踏み抜いてしまったのだ。それにより現在、大岩に追いかけられている次第である。

 「これはヤバイ!ここで本当に第二の人生終わるかも!ジジイよりも早く逝くかも!」

 叫んでも体力を消耗することはわかっていたが叫ばずにはいられない。

 ガコン。

 この音ともにロムフは足元に僅かに沈んだような違和感を感じた。それと同時に50メートル程先に石畳が二枚、すっぽりと抜け落ち、落ちし穴が出現した。

 「死ねと!?」

 しかし、ロムフはこう叫びながらもある可能性を考え、腰の長剣を抜いた。後ろからも大岩が近づいており、迷っている暇もなかった。

 そのまま、落とし穴に飛び込むロムフ。大岩は落とし穴には落ちず、そのまま転がっていった。

 落とし穴になんとか剣を刺し、それにぶらさがることで命は助かった。下を見ればそこは針地獄かと言うほど、鋭利な突起物がそこかしこに見てとれる。そこから、なんとか這い上がり、生きていることを確認するとロムフは大岩の転がってきたその先に向かった。

 見取り図の通りに最深部の部屋に向かっているのだが、奥に行けば行くほどトラップの類いが多くあり、そのなかには魔法を使っていないトラップもあった。

 しかし、先程の大岩が最後のトラップだったらしくあれ以降は、特にトラップらしいものには引っ掛からなかった。

 「ふぃーー、ここであってるはずだけど、ここまで来て何も無いとか勘弁してくれよな」

 そう一言ここまでの苦労を口に出し、両開きの重厚な扉を開け、暗闇の部屋に入った。

 光魔法により、少しは見やすくはなっているが完全に見えているわけではない。仄かに薄暗い部屋をロムフは探索してみたが、ロムフの期待する物はなかった。

 ガックリきていたその時、部屋の奥に薄蒼く光る物を見つけた。ロムフはその薄く光る「何か」を見つけると、光魔法を消し、ゆっくり歩み寄った。

 それはロムフのよく知る、生前よく見た色合いだった。

 そこにあったのは祭壇のようなものに突き刺された「蒼白の剣」だった。その色合いはまさしく人の死の間際、あるいは死した者の顔色だった。

 その剣を手に取ろうとするが、ロムフの視界から剣が消える。それと同時に左胸に軽い衝撃を感じる。

 そこに目を向けてみれば、先ほど手に取ろうとしていた剣が左胸を貫いていた。それに気づくと同時にロムフは急激な眠気によって意識を失った。


 目が覚めてみればそこは暗闇の中だった。目を凝らせば、僅かに自分の手足や体が見えるが、回りの景色は闇に支配されていた。

 光魔法を使おうかと考え、「光よ……」と、唱えてみたが、光魔法が発動する様子はなかった。

 「参ったねこりゃ……どうしたもんかな」 

 そう、言いながらも他の魔法を試すがどれも効果がない。

 完全に打つ手がなくなり、改めて辺りを見回すと、先程はなかった灯りが見えた。少し悩み、結局はそこに向かうことにするロムフ。少しは明るい方がいい。

 「提灯鮟鱇みたいに、でかい口でバクン、みたいのはやめてくれよ?」

 自分の半分妄想をブレンドした予想が的中することがないよう祈りながら、明かりの場所まで歩く。

 近づくにつれ、灯りに一人の男がいることに気がつく。

 「おお、来た来た」

 そう言い、男はロムフに笑みを向けた。

 「よし、質問だ。ここはどこで、あんたは誰だ?……前にもこんなやり取りなかったっけ?」

 以前にも似ているやり取りがあったことを思い出しながら、ロムフは男に疑問をぶつけた。

 「ああ、ここはまぁ、あの世に近しい場所かな……。そして、私が誰かと言う質問だが、とりあえずスルーする方向で」

 「スルーかよ。何てあんたを呼べばいいんだ。……しかもあの世って……」

 名前を聞いて、スルーしろと言われるのは、前世でもなかった。

そんなやり取りを経た後に男は表情を真剣なものにし、ロムフもそれに合わせ真面目な表情を作った。男がこれから重要なことを言おうとしてることを感じたからだ。

 「ロムフ・バトラル。聞きたい事は、多くあるかもしれないが私はそれに、答える気もなければ答えることもできない。私は謂わばここの代表者の様なものだからね」

 そう言い、男が回りに視線を向ける。その視線の先を追うといつの間にか多くの人々がロムフを取り囲んでいた。

 その視線には嘲笑や憐れみ、称賛や眩しいものを見るような、中には目を大きく見開き驚きに身を固める者もいた。ロムフには多くの視線が集まっていた。

 気配を感じることもなければ、これほどの大人数に気づくことさえなかったことに、ロムフは驚きを隠せず、戸惑った。

 最終的に代表者を名乗る男に視線を改めて向けることになった。

 「回りの奴らは何なんだ?」

 そう、代表者に聞いた。

 「ここにいるのは皆強い欲求、願いを持っていた人々だよ。無論、君もそう言う人なんだろうけどね」

 「そうか……で?何であの世に近いんだ?」

 ここにいる人々などどうでもいいとばかりにロムフは聞きたいことを代表者に聞いた。

 男はそれに対して苦笑しながら、質問に答えた。

 「君が手に取った剣があの世にあったものだからだよ。この剣に出来ないことはない。……それこそ、神も殺せるし、天を裂き、海を蒸発させることさえできるだろう。その上で聞きたい。この剣をもってして君は何を行う?」

 どうやら、自分は自分の胸を貫いた剣の中にいることだけは何とか把握したロムフ。

 しかも、世に出ればまず間違いなく災厄の種になりかねない代物らしい。

 確かに遺跡の見取り図を思い返せば、到底最深部へ、到達することは不可能な罠がそこらじゅうにあった。

 そのほとんどが魔法を用いた罠であったため並の冒険者や魔法使いならば生きて出ることさえもまず無理な作りだった。

 地脈の膨大な魔力があり、魔法使いとして、十分な力を持ったバットルに教えを受けたロムフだからこそ罠のほとんどを無力化できたのだ。

 余談になるが、ロムフの通った道はいくつかある道の中でも最善手といっていい道だった。

 「どんなことでも出来るから、ここにいる奴らもまた剣を求めたのか」

 誰に言ったわけでもないがロムフの口から言葉が漏れた。

 「俺はただ強くなりたかったからな」

 そんな言葉が群衆の中から聞こえた。

 「私は、戦で死んだ息子と夫を蘇らす為に」

 今度は女性の声が聞こえた。

 「家族を守るために」

 「自分は復讐だ」

 「人から敬われる為」

 「俺は国を作ったね」

 「ほう、俺は逆に滅ぼしたね」

 「革命でな」

 「俺をバカにした奴らを見返したかった」

 「名誉欲かな。歴史に名を残したかった」

 それ以降も群衆からは多くの欲望、願いがロムフに向かって放たれた。

 その多くをロムフは無表情で聞いていた。代表者もその声に目を閉じ、耳を傾けた。

 徐々に声が収まっていく過程で再び視線がロムフに向けられ始めていた。

 そして、声が完全に収まり、静寂がばを支配すると、ロムフは自らの答えを群衆に告げた。

 「俺の願いは今も昔も変わらない。苦しむ人々を救いたい。その過程で力が必要であり、それが今ここにあるのならば迷わず俺はそれを手に取るよ」

 その答えに代表者は顔をしかめた。

 「はぁ、はっきり言って私にはこの男が剣の持ち主になるのはかなり気に入らないがどうだろうか?今までどんな欲望とも共にあった剣だが、今回ばかりはこいつを殺した方がいい気がしてきたな」

 とんでもない独り言が帰ってきた。

 この言葉に戸惑いながらもロムフはなぜ殺されねばならないのか、聞くことにした。

 「イヤ、おかしいだろ。何でいきなり殺されにゃならない」

 この言葉を不愉快そうに聞きながら代表者は口を開いた。

 「なぜって?それは君が自分の欲望に忠実じゃないからだよ」

 欲望に忠実じゃない。つまりこれはロムフの願いは別にあると言うことを言外に言った。

 「本当だろ。俺の願いは苦しむ人々を救いたい、だ。これ以上などあるか」

 「いいや、嘘だね君の願いは、苦しむ人々を救いたい。ではない」

 真っ向から自分の答えを完全に否定され、口調を荒げ、反論しようとするがそこに第三者の声がかかる。

 「俺はこいつと行くが?」

 そう言って、ロムフと代表者の間に割って入ったのは黒い甲冑を纏った男だった。

 「ヘイサー!君だってわかっているだろう。彼の言った願いは本当の願いではない。彼の本当の願いは……」

 「自ら嘘偽りを吐いているわけではない。いつしかそう思い込んでしまったに過ぎない。代表者、以前の貴方にもあったことだ」

 代表者の言葉を遮り、ヘイサーと呼ばれた甲冑の男代表者からロムフに視線を移した。

 「ロムフ・バトラル。君は忘れてしまっているが君の本当の願いは、苦しむ人々を救いたい。ではない。断じてだ」

 「俺は嘘を言ってるつもりはない。俺の願いはあんたらに否定された願いだ。だが、そこまで言うのなら今度こそ俺は自分の本当の願いとやらを探し当てて見せよう」

 その答えはヘイサーの望む答えそのもの。生涯を通して己の願いとは何かを探し続け、ついに見つけることのできなかったヘイサーの夢の続きを彼なら見してくれるだろう。

 ヘイサーは頷き、群衆に向かって

 「俺はロムフと行く。自らの願いを生涯探す、謂わば、自らの願いとは何か知る願い、を叶えてやりたい」

 「あ、それはいいな」

 「願いを探す旅か。新しいな」

 「年長者として、助言してやると言うのも楽しそうだ」

 「自分の願いも忘れるとか、そこらのジジイよりヤバイじゃん」

 「まぁ、いいじゃん。そう言いながらもお前ついていくだろ?」

 「当たり前じゃん」

 「私はそれでも構わない。息子と夫のように苦しむ人々がいない世界になればそれで」

 「復讐は無しの方向で、もうお腹一杯」

 「国は作れよ。楽しいぞ」

 「国を滅ぼすのも一興だぞ」

 ロムフが願いを言う前より盛り上がりを見せており、しかも自分の願いをロムフに押し付けようとする声さえ聞こえる。

 代表者はそんな声を聞きながら大きく溜め息を吐き出し、ロムフに歩み寄った。

 「確かにヘイサーの言う通り、願いを探す旅と言うのも良いかもしれない。君のやりたいようにやればいい。皆もそうしたいようだからね」

 「ああ、おれは好きなようにやるぞ。観客席から見てろ」

 そういい放つと代表者は今度は笑みを隠さずロムフに向けた。

 その笑みを見ながらロムフはここに来たときと同じように意識を失っていった。

 

 「お……帰ってきたかな」

そう言って回りを見回し、空を見上げれば星空が見え、辺りは街道に行く途中に歩いた草原であることが見てとれた。どうやら転移魔法によりここまで転移されたようだった。

 腰には胸を貫いていた「蒼白の剣」があり、自分を何とか持ち主に認めてくれたようだった。

 「しかし、今から街道行くのかよ。……どうしたもんかね」

 そう、時間だけが進んでおり、バットルの所に戻ろうにも結構な距離がある。

 空を仰いで見ても星空が見下ろしてくるばかりで助けなどしてくれるわけでもなかった。

 初日からついていないロムフだった。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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