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異世界ホムンクルス  作者: 頑張郎
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男の名前はロムフ・バトラル

  男が再び目を開けて目にしたものは、ぼやけた視界だった。ちょうど、水中の中にいるようだった。

 わけがわからず、水中でもがく。すると、手に硬質な物が触った。

 男は無我夢中でそれを殴り付けた。幾らか殴り付けると、ひびがはいり、もう一度殴り付けると、完全に割れた。

 水と共に男は流され、外に出ることができた。

 「げほっげほっ……ここどこだ?…俺は確かに死んだはずだけど…」

 男は自分の最後の瞬間を思い浮かべた。閃光に包まれ、その生涯を終えたはずだと。

 「まず、ここどこだ?」

 男は回りを見渡してみると、そこは薄暗い石造りの部屋だった。

 「取り敢えず、服がほしいな。それとここが何処かを知っている人を探そう」

 裸のまま、辺りを彷徨くのは良くない。特に誰かに出会い悲鳴をあげられ、誤解を招くのは男の本意ではなかった。

 しかし、ここにいてもいずれは人が来てしまうと思い、辺りを警戒しながら廊下に出た。

 廊下には人影はなく、ランプの様なものが廊下を少しばかり照らしていた。

 廊下を歩いていくと幾つかの部屋があったがどれも服をしまってあると思われるところもなく、人に出会うこともなかった。

 「ふぅー、参ったな。このままじゃホントに悲鳴をあげられかねないな。いや、悲鳴をあげる人さえもいないからいいのか?」

 その様な事を呟きながら、廊下を進んでいき、他の部屋を探していくと、二つ目の目的が部屋の中にいた。二つ目の目的とは、ここが何処かを知る人物のことだ。

 男の目に写ったのは、安楽椅子に揺られ、心地良さそうに眠っている老人の姿だった。

 男は部屋の中に入ったものの、声を掛けていいか迷っていた。全裸の男がいきなり眠っている自分を起こし、声を掛けてくればまず間違いなく、驚き、警戒するだろう。

 しかし、ここまでどの部屋を探しても、服もここを何処かを知る人間にも会えなかったのに次にいつ、ここを知る人間に会えるだろうかと自問し、男は眠っている老人に声を掛けることに決めた。

 「なぁ、じいさん。……起きてくれよ、じいさん」

 そう声を掛けながら、男は老人を揺さぶりながら起きるよう促した。

 「うぅむ……うん?」

 すると、老人は目を擦りながら、男の方を見て、目をかっと見開いた。

 「おお!目覚めたのじゃな…!」

 そう言うと老人は安楽椅子から、勢いよく立ち上がると、老人とは思えない早さで男の前に立ち、激しく握手をしたした。

 握手をやられた当人である男は目を白黒させている。しかし、いつまでも感激されていても困るので、男は聞きたいことを聞くことにした。

 「なぁ、じいさん。感激してるとこ悪いんだが、ここどこ?それとできれば服を着させてくれると嬉しいんだけど」

 そう言うと、老人はいま気づいたばかりに男の姿を見た。

 「おお、そうじゃな。そのままではまずいな。今、服と茶を持ってくるからな。適当な所に座って待っとれ」

 そう言うと老人は足早に部屋から出ていってしまった。男は部屋を少し見て回り、部屋の隅にあった椅子に座った。暫くすると老人が服と湯気の出ている二組の湯飲みを持って部屋へ入ってきた。

 男は衣服を受け取り、素早く着替えると、次は老人が差し出してくれた湯飲みを受け取った。

 老人は安楽椅子に座り、男の事をまじまじと見つめた。見つめられている方としてはあまりいい気分にはなれなかった。その視線から逃れるために、男は老人に自分の疑問をぶつけることにした。

 「なぁ、じいさん。ここはどこで、あんたは誰だ?」

 その質問に老人は我に帰り、男の質問に答えた。

 「おお、そうじゃな。自己紹介がまだじゃったな。ワシの名前はバットル・サガーレドと言う者じゃ。そしてここはワシの家じゃ」

 「そんで、もうひとつ質問がある。」

 そこで一旦言葉を切り、息を吸い、最も疑問に思っていることを老人に聞いた。

 「なぜ、俺は生きている?」

 男が最も疑問に感じ、そして信じられずにいること。それは確かに死を覚悟し、絶対に助からないと言う確信があったからだ。あの距離で助かるはずがない。万に一つ助かったとしても、重症のはずだ。それも手足を失うほどの。

 長い時間をかければ治るのかもしれないが、それでも後遺症や違和感があるはずだと男は思っていた。

 「そうか、お主は元の世界では死んだのか、まぁ、だからこそ今、ワシの前にいて話すことが出来るのじゃがな」

 「元の世界…?そりゃどういうことだ?ここはどこなんだ!」

 男の声の後半は怒鳴り声になっていた。当然だろう。真剣に聞いた質問にふざけた答えを返されれば誰でも怒るだろう。しかし、老人、バットル・サガーレドはその声に恐れも怯えもしなかった。その反応が当然とばかりに平然としている。

 「うむ、お若い人、落ち着きなさい。お主の知りたいことを今から全部答えよう。解らないことがあればその都度聞けばよい。時間はたっぷりある。」

 そうバットルは言った。その声には不思議と男に響き、荒れ狂っていた。怒りとも不安ともつかない感情は徐々に落ち着いていった。

 男が椅子に再び座るのを、バットルは見てから、バットルは話始めた。

 「この世界はお主が言うところの異世界とやらじゃ。」

 「質問だ!バットルじいさん!仮に本当だとして、何でそんなとこに俺はいる?」

 これを聞いたバットルじいさん(男命名)は、ため息をつき言った。

 「わかっておる。それも今から言うから少し待っとれ、全く落ち着きのない奴じゃ。」

 いきなり訳の解らない所で目が覚め、いきなり異世界と言われて落ち着いていられる奴がどれ程いるんだよ!?落ち着いていられる方が当然なのか!?と、言うのが今の男の心情だ。

 「異世界と言うのは一つの空間の兄弟の様なものじゃ。それぞれの世界はその空間で繁栄する種族もおれば、衰退する種族もおる。お主は今、無数にあるその一つにいると思えばいいのじゃ。」

 男は暫く理解しようと、頭をフル回転させていたがやがてなんとか理解することが出来たようだ。

 「まぁ、なんとなく理解できた。つまり、人間が一生頑張っても辿り着けない大陸みたいな感じでいいのか?」

 「まぁ、そんなところじゃ。では次になぜお主がここにいるのかと言う質問じゃが、これは少し複雑での

…少し長くなるが良いか?」

 「かまわない。時間はたっぷりあるんだろう?」

 と、そう返し話の続きを促した。

 「そうか、そうじゃったな。では、話そうかの…ワシが何故ここにいるのかと言うとな。このローム大陸の歴史の謎を解くためじゃ」

 男は今のバットルじいさんの言葉から、ここが大陸規模ではあるがローム大陸と言う名前の大陸であると同時に、このローム大陸以外にも大陸があると言う可能性に気づいた。可能性と言うのはバットルじいさんがローム大陸以外の話をしていないからだ。後で聞くべきことと、男は頭の隅で覚えておくことにした。

 「話してもいいかの?…この大陸の歴史書の中にはホムンクルスと言う人工的に造られた者達の記述がある。ワシは先人達の様にホムンクルスを造ってみたかったのじゃ」

 男はある記述を思い出した。ホムンクルス…それは「フラスコの中の小人」を意味する言葉だったはずだ。

 ホムンクルスにも様々な記述が存在するが男が知る限りではホムンクルスはフラスコの中でしか生きられず、その代わり、多くの知識を持つものとして扱われていた。

 ホムンクルスに始まり怪物や神、またはそれに属するものの本は数多くあり、どれが正しいかと言うわけではないが、男が知るのはその一説だけだった。

 しかし、そこで男は新たな疑問があることに気がついた。仮にバットルじいさんが大陸の歴史に記されているようなホムンクルスを造ろうとして何故、自分しかいないのか?未だ、自分がホムンクルスになったという実感は湧かず、現実に混乱しているが男にはそれが疑問だった。造ろうと志したのが遅かった?いや、今まで造ることが誰にも出来なかった?

 「気づいたようじゃの。その通りじゃ、多くの学者たちが歴史書に記されている様にホムンクルスを造ろうとしたが完成させたものは誰一人としておらん。99%は完成させることは誰にも出来たが、あと1%その肉体に意識を、自我を芽生えさせることは出来なかったのじゃ。」

なるほど、と男は納得した。確かに体だけを造るのはできるだろう。しかし、体を造ることが心を造ることにはならない。ここまで来ると男の中でもある程度話が見えてきた。しかし、解らないところもあった。

 「そこで、ワシは召喚魔法を応用し、肉体に別の意識をいれようとしたわけじゃ。意識を作れぬのなら、作られた心を肉体に入れてしまえば良いと考えたわけじゃな」

 「なるほど、だから、俺は怪我もしていなければ、後遺症もないのか。しかし、何故俺なんだ?」

 そこが問題だった。確かに男は「次の生」を望んだが、こう都合よくいくだろうか?と、言う思いが拭えずにいた。

 「それは異世界から精神を呼び出すには強い欲求が必要だったからじゃ。次の人生をより、強く願った者のな。それも身勝手な欲望ではなく、高潔な精神の持ち主をワシは求めておった。そして、お主が一番最初にワシに召喚された精神じゃった。召喚された精神を今のお主の体に縫いとめ、今に至ると言うわけじゃ。最も成功するかはわからんかったがな。」

 ここまでのバットルじいさんの話を聞いた感想は非現実的の一言に尽きる。しかし、男はこの話に妙な納得をしていた。もし今までの話を頭のおかしい老人の話と一笑したとしたら、いろいろおかしな点が出てくる。

 なぜ、自分はベットでは無く、水槽の中に閉じ込められていたのか?廊下はコンクリートでは無く、石造りなのか?なぜ、体は全くの無傷なのか?今までの話が本当だとすれば、全ての辻褄が合う。

 「そう言えば、ワシばかり話してしまったが、お主、名前はなんと言う?」

 当然と言えば当然の疑問。逆に今まで聞かれずにいたことの方がおかしいことだった。

 「ああ、そうだな。相手に名前を名乗らせておいて、自分が名乗らないのは間違っているな。俺の名前は……あれ?俺の名前は…?」

 必死に思い出そうとするが知らないかの様に全くの思い出せない。

 「ふぅむ…思い出せんか?名前を呼ぶのにそれでは困ってしまうな。…お主、元の世界の名前でなくては駄目か?」

 「いや、そんなことはないけど…」

 「どうせなら、新しい人生を新しい名前で歩んでみると言うのはどうじゃ?前の世界に区切りをつけるのに丁度良いではないか。」

 新しい名前。それは男に新鮮な響きを持って聞こえた。

 「そうだな。せっかく手に入れた二度目の人生だ。新しい体と新しい名前でいくか」

 「どんな名前にする?」

 そこで、男は昔やったゲームの中でも同じ様に名前を聞かれた事を思いだし、フッと鼻で笑ってしまった。

 「?何かおかしな事を聞いたかの?」

 「いや、前の世界での出来事だ気にしないでくれ」

 そこで男は言葉を切り、自らの名前を言った。以前の自分に区切りを付けるための名前、その程度の感覚で決めた名前。それが後世に伝えられる名前とも知られずに。

 「ロムフ。ロムフ・バトラル。どうだ?バットルじいさん。あんたの名前を少し改変しただけなんだが」

 バットルじいさんはその名前を聞きながら満足そうにアゴヒゲを撫でた。

 「うむ、いい名前じゃの、特にワシの名前を入れろと言ったわけじゃないのに入れてくれたところがいい。」

 この素直な意見に男は、ロムフは笑った。素直に笑みを浮かべるなど暫くぶりのことだった。

 この世界に新しく生まれた男の名前はロムフ・バトラル。自らの無力さを知った男は数奇な運命の末に新たな生を得た。後に彼は知る。この世界に自分が生まれ変わったのが偶然ではないと言うことに。しかし、それは暫く先の出来事であり、同時にそれに気づいた時には彼は一人ではなく、彼の回りには多くの仲間たちがいたことが前世とは、大きな違いであろう。

 


 


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