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いつか、旅立つ―「さくら草」より―

掲載日:2015/11/20

(昼休み、友達とおしゃべりしていた亜実。ふとしたことで、好きな季節の話題が出てきた。)



「私さ、一番好きな季節って、春なんだよねぇ~程よいあったかさが良くって~」


こう言ってるのは、いつものほほんとしている玲歩(れいほ)。常にマイペースで、「こまったねぇ~」と言いながら、いつの間にか問題を解決させている。


「私も春がいいな。春って言ったらさ、お花見があるでしょ。おいしいものがいっぱい食べられるじゃない!」

なぜか食べ物につられやすい沙和に、


「まったく沙和は・・・春だったら、他にもいろんな花が咲くのよ!チューリップとか、タンポポとか、アンズとか!これぐらい常識だよ!もっと周りを見なさいね!」


そして、普通以上に花について知っている奈瑠。


「ふ~ん。みんな、春好きなんだね。」


ぼそっと呟くように言ったのは、草愛(そうあ)。いつも、一風変わったものの見方をしているところが面白い。でも、そのせいで友達は極端に少ない。


「私、あんまり春って、好きじゃないな。」


「え~?!」


一斉にブーイングがおきる。

それらをほほえみでかわしながら、 


「だって、春は別れの季節だよ。」


「でもさ、逆に言えば出会いの季節ともいえるでしょ?」


と、奈瑠。


「あのね、私のおねえちゃんが言ってたけど、思っている以上に寂しいんだって。特に今年卒業して、バラバラになるっていうのがそうなんだって。」


「ふ~ん?」


よくわからないという顔をされてしまっている。玲歩が話を変えるように、


「そういえば、亜実はどうなのぉ~?」


突然、話が私にまわってきた。


「う、う~ん・・・春もいいけど、夏のほうが私、好きかな。暑くて仕方ないけど、ヤル気がメラメラ出てくるんだよね。」


「へ~。すごいね~。」


 意外に感嘆の声が聞けた。

 それにしても、草愛、どうしちゃったんだろう?前、もうちょっとポジティブだった気がするんだけど…?

 考えているうちに、みんなは別の話題に移ってしまった。



5時間目の授業は、職業調べを図書室ですることだった。

正直、私の持っている〈自分の夢〉が叶わないはずなのは、よく知っている。

前に、自分の夢を親に訊かれて言ったことがある。そうしたら、


「漫画家なんて不安定な仕事、絶対いけません!もっと安定している、普通の仕事にしなさい!」


と、言われてしまった。

それ以来、〈自分の夢〉というものは、いらないんじゃないかと思っている。どうせ、親が反対するだろうし、そうなったら叶わない可能性のほうが大きい。




気がついたら、あっという間に5時間目は終わっていた。




それからしばらくたって、今は3月。

先輩たちは卒業だけど、私たちにはもう2年、みんなと過ごせる時間がある。

……そう、思っていたのに……


学活の時間だった。


「皆さんに、重大なお知らせがあります。」


重々しく先生が言う。いっきにクラス中に緊張が走る。


「このクラスの中で、4月の進級に合わせて、転校してしまう人がいます。」


ザワリと音がした。ひょっとして、自分の隣の子?それとも前?それとも……

明らかに困惑しているみんなの中で、草愛のまとっている空気だけがやけに静かだ。

まさか、草愛……?


「えー皆さん、まずは静かにしてください。」


と、言いながらパンパンと手をたたく。

再び、静かになった。


「転校することになったのは、桜井草愛さんです。残りの一か月間、仲良く過ごしましょう。」


その時のクラスの空気。みんな固まっていて、動いてはいけない感じがした。

 ――この状態が、「綿ぼこりが落ちても音がする」っていう状態なのかな?

 妙に冷静に、そんなことを考えてしまった。いや、冷静なんじゃない。嘘だと思いたくて、現実逃避しているんだ。

それと同時に、怒りに近い感情がふつふつと出てきた。



なんでよ!なんで、先生から聞かなきゃいけないのよ!友達だっていうなら、もっと先に行ってよ……水臭いじゃん……



その後、誰かのもらした小さいつぶやきで、解放されたクラスメートたちは、大騒ぎを始めた。

泣き出す子、無理に盛り上げようとする子、金切り声を出す子……

どうしようもない状態で、学活の時間が終わるチャイムが鳴った。




休み時間になっても、私は草愛に話しかけたくなかった。

悔しい。先生に言われるよりも早く教えてほしかった。悔しいよ……何でよ、草愛……



そのことがあって以来、ほとんど草愛と口をきかなかった。どうしても、許せなかった。

そんなこんなで、気づけば修了式の日になってしまった。


途中で、草愛と仲直りしようかと、迷ったこともあった。けれど、実行できなかった。

クラスでは、記念にクラスの集合写真をあげることになっている。どっかでお別れ会もするらしい。

私にできること……?もう、何もないかもしれない。どうしたらいいの?このままでいいの?いいわけない。でも……


悩んでいたら、玲歩が歩いてきた。そして私の手に小さく折りたたんだ紙を渡して、


「ちゃんと答えてあげてね~」


と言いながら、去っていった。

いつもながらゆっくりしたスピードだなぁと思う。

紙に書いてあったことは、

 


 金子 亜実さま

  体育倉庫の前で待ってます。

  大切なコトなので、絶対来てください。

                    桜井 草愛



たった四行だけだった。でも、そんなこと関係ない!せっかく草愛が言ってくれたんだ!

次の瞬間、指定の場所へ走っていた。

ついた時には、すでに草愛がいた。

遠くからだと、影にとけこんでいて、わかりづらい。


「亜実ちゃん、やっぱり来てくれたんだね。」


草愛の浮かべた笑顔は、心の底から暖かくなれるような笑顔だった。

私は、その時、自分がどれだけ恥ずかしいことをしていたかを知った。


「草愛…ご・・・ごめん・・・ね・・・」


のどの奥から熱いかたまりがこみあげてきて、うまく言葉にできない。むせび泣くことしかできない私の目の前に、同じように涙だらけの草愛がいた。

 

ひとしきり泣き合った後、草愛が一枚のしおりを出した。中に押し花が入っている。


「これね、中に入っている花、〈さくら草〉っていうんだよ。ほら、私の名前、桜井草愛でしょ。上の名前と、下の名前の漢字をつなげると…」


「〈桜〉と〈草〉で、〈さくら草〉か~いいね。」


軽く笑ってから、草愛は言った。


「私の形見として、持っててくれたらなって思ったの。それにさ、亜実、漫画家目指しているんでしょ?」


そうきかれたので、少しあいまいにうなずいた。


「そっか。じゃあ、がんばってね。もし、漫画家になるの、反対されたときは、このしおり見て、私のこと思い出して。お守りにはならないけど、気持ちだけはどうにかなると思うから。亜実への応援花!」


「ありがとう……」


渡されたしおりをもう一度見る。下のほうに、『Dream』と、筆記体で書かれていた。

なんとなくだけど、力が出てきた気がする!

ばっと草愛のほうに向いて、


「私、草愛にしおりと一緒に大き過ぎるもの、もらっちゃったみたい。しっかりがんばるから!また、いつか逢える時に、恩返しさせてね!」


「うん。その時はよろしくね。」 


はうっと息を吐いた後、


「誰だって、いつかは旅立つんだもの。どんなことがあっても乗り越えて!私も応援し続けるから!」

 


その時、思った。

本当の友達っていうのは、何でもかんでも話さなきゃいけないわけじゃないってこと。

時々わからないことがあるのも当然だし、すぐ言わなかったからって、怒らなくてもいいということ。

それに、言いたくないことだってあるだろう。

そう、転校することを言えなかった草愛みたいに…

  

うん、よし!

飛びったっていく渡り鳥のように、私もがんばろう!





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