いつか、旅立つ―「さくら草」より―
(昼休み、友達とおしゃべりしていた亜実。ふとしたことで、好きな季節の話題が出てきた。)
「私さ、一番好きな季節って、春なんだよねぇ~程よいあったかさが良くって~」
こう言ってるのは、いつものほほんとしている玲歩。常にマイペースで、「こまったねぇ~」と言いながら、いつの間にか問題を解決させている。
「私も春がいいな。春って言ったらさ、お花見があるでしょ。おいしいものがいっぱい食べられるじゃない!」
なぜか食べ物につられやすい沙和に、
「まったく沙和は・・・春だったら、他にもいろんな花が咲くのよ!チューリップとか、タンポポとか、アンズとか!これぐらい常識だよ!もっと周りを見なさいね!」
そして、普通以上に花について知っている奈瑠。
「ふ~ん。みんな、春好きなんだね。」
ぼそっと呟くように言ったのは、草愛。いつも、一風変わったものの見方をしているところが面白い。でも、そのせいで友達は極端に少ない。
「私、あんまり春って、好きじゃないな。」
「え~?!」
一斉にブーイングがおきる。
それらをほほえみでかわしながら、
「だって、春は別れの季節だよ。」
「でもさ、逆に言えば出会いの季節ともいえるでしょ?」
と、奈瑠。
「あのね、私のおねえちゃんが言ってたけど、思っている以上に寂しいんだって。特に今年卒業して、バラバラになるっていうのがそうなんだって。」
「ふ~ん?」
よくわからないという顔をされてしまっている。玲歩が話を変えるように、
「そういえば、亜実はどうなのぉ~?」
突然、話が私にまわってきた。
「う、う~ん・・・春もいいけど、夏のほうが私、好きかな。暑くて仕方ないけど、ヤル気がメラメラ出てくるんだよね。」
「へ~。すごいね~。」
意外に感嘆の声が聞けた。
それにしても、草愛、どうしちゃったんだろう?前、もうちょっとポジティブだった気がするんだけど…?
考えているうちに、みんなは別の話題に移ってしまった。
5時間目の授業は、職業調べを図書室ですることだった。
正直、私の持っている〈自分の夢〉が叶わないはずなのは、よく知っている。
前に、自分の夢を親に訊かれて言ったことがある。そうしたら、
「漫画家なんて不安定な仕事、絶対いけません!もっと安定している、普通の仕事にしなさい!」
と、言われてしまった。
それ以来、〈自分の夢〉というものは、いらないんじゃないかと思っている。どうせ、親が反対するだろうし、そうなったら叶わない可能性のほうが大きい。
気がついたら、あっという間に5時間目は終わっていた。
それからしばらくたって、今は3月。
先輩たちは卒業だけど、私たちにはもう2年、みんなと過ごせる時間がある。
……そう、思っていたのに……
学活の時間だった。
「皆さんに、重大なお知らせがあります。」
重々しく先生が言う。いっきにクラス中に緊張が走る。
「このクラスの中で、4月の進級に合わせて、転校してしまう人がいます。」
ザワリと音がした。ひょっとして、自分の隣の子?それとも前?それとも……
明らかに困惑しているみんなの中で、草愛のまとっている空気だけがやけに静かだ。
まさか、草愛……?
「えー皆さん、まずは静かにしてください。」
と、言いながらパンパンと手をたたく。
再び、静かになった。
「転校することになったのは、桜井草愛さんです。残りの一か月間、仲良く過ごしましょう。」
その時のクラスの空気。みんな固まっていて、動いてはいけない感じがした。
――この状態が、「綿ぼこりが落ちても音がする」っていう状態なのかな?
妙に冷静に、そんなことを考えてしまった。いや、冷静なんじゃない。嘘だと思いたくて、現実逃避しているんだ。
それと同時に、怒りに近い感情がふつふつと出てきた。
なんでよ!なんで、先生から聞かなきゃいけないのよ!友達だっていうなら、もっと先に行ってよ……水臭いじゃん……
その後、誰かのもらした小さいつぶやきで、解放されたクラスメートたちは、大騒ぎを始めた。
泣き出す子、無理に盛り上げようとする子、金切り声を出す子……
どうしようもない状態で、学活の時間が終わるチャイムが鳴った。
休み時間になっても、私は草愛に話しかけたくなかった。
悔しい。先生に言われるよりも早く教えてほしかった。悔しいよ……何でよ、草愛……
そのことがあって以来、ほとんど草愛と口をきかなかった。どうしても、許せなかった。
そんなこんなで、気づけば修了式の日になってしまった。
途中で、草愛と仲直りしようかと、迷ったこともあった。けれど、実行できなかった。
クラスでは、記念にクラスの集合写真をあげることになっている。どっかでお別れ会もするらしい。
私にできること……?もう、何もないかもしれない。どうしたらいいの?このままでいいの?いいわけない。でも……
悩んでいたら、玲歩が歩いてきた。そして私の手に小さく折りたたんだ紙を渡して、
「ちゃんと答えてあげてね~」
と言いながら、去っていった。
いつもながらゆっくりしたスピードだなぁと思う。
紙に書いてあったことは、
金子 亜実さま
体育倉庫の前で待ってます。
大切なコトなので、絶対来てください。
桜井 草愛
たった四行だけだった。でも、そんなこと関係ない!せっかく草愛が言ってくれたんだ!
次の瞬間、指定の場所へ走っていた。
ついた時には、すでに草愛がいた。
遠くからだと、影にとけこんでいて、わかりづらい。
「亜実ちゃん、やっぱり来てくれたんだね。」
草愛の浮かべた笑顔は、心の底から暖かくなれるような笑顔だった。
私は、その時、自分がどれだけ恥ずかしいことをしていたかを知った。
「草愛…ご・・・ごめん・・・ね・・・」
のどの奥から熱いかたまりがこみあげてきて、うまく言葉にできない。むせび泣くことしかできない私の目の前に、同じように涙だらけの草愛がいた。
ひとしきり泣き合った後、草愛が一枚のしおりを出した。中に押し花が入っている。
「これね、中に入っている花、〈さくら草〉っていうんだよ。ほら、私の名前、桜井草愛でしょ。上の名前と、下の名前の漢字をつなげると…」
「〈桜〉と〈草〉で、〈さくら草〉か~いいね。」
軽く笑ってから、草愛は言った。
「私の形見として、持っててくれたらなって思ったの。それにさ、亜実、漫画家目指しているんでしょ?」
そうきかれたので、少しあいまいにうなずいた。
「そっか。じゃあ、がんばってね。もし、漫画家になるの、反対されたときは、このしおり見て、私のこと思い出して。お守りにはならないけど、気持ちだけはどうにかなると思うから。亜実への応援花!」
「ありがとう……」
渡されたしおりをもう一度見る。下のほうに、『Dream』と、筆記体で書かれていた。
なんとなくだけど、力が出てきた気がする!
ばっと草愛のほうに向いて、
「私、草愛にしおりと一緒に大き過ぎるもの、もらっちゃったみたい。しっかりがんばるから!また、いつか逢える時に、恩返しさせてね!」
「うん。その時はよろしくね。」
はうっと息を吐いた後、
「誰だって、いつかは旅立つんだもの。どんなことがあっても乗り越えて!私も応援し続けるから!」
その時、思った。
本当の友達っていうのは、何でもかんでも話さなきゃいけないわけじゃないってこと。
時々わからないことがあるのも当然だし、すぐ言わなかったからって、怒らなくてもいいということ。
それに、言いたくないことだってあるだろう。
そう、転校することを言えなかった草愛みたいに…
うん、よし!
飛びったっていく渡り鳥のように、私もがんばろう!




