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ダブルクロス3rd リプレイノベル ~Team of Gisselle~  作者: みぃ
第1章「Priestess of Dragon」
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第16話「新しい名前」

UGN日本支部

その高いビルの一室、そこはチーム「ジゼル」に与えられた部屋だった

決して狭くはないのだが、動き回れるほど広いかと言えるとそうでもない。


小さな会議室程度の広さだ


手狭く感じるのは、このチームの監督役の女性が、この部屋に色々と持ち込んでいるからかもしれない


まず、部屋の真ん中に置かれたテーブルは8人用だ。

この部屋を使うのはたった3人しかいないと言うのに


壁には本棚が2つ、食器棚が1つ

邪魔にはならないのだが、日々双方中身が増えていっている


ソファにテレビ、果てにはシンクにIH小型コンロ。

ここに住むつもりでもあるのだろうか?


先日の事件から、一週間が経っていた。


君らはひと段落ついたと肩の力を抜いたこのタイミングで、また呼び出しを受けた


なので、奏と舞は今この部屋に居て、思い思いに過ごしていた。

舞は相変わらず文庫本に視線を落とし、奏は何をするでもなく外の景色を眺めている。

そこに二人はいるのだが、二人とも特に何も話すことなく過ごしているので、小さな会議室は静かなままだ。


そこで、部屋の扉がバァーンと開かれ、従者ではない本物の裕子が現れた


「ハーイ、エビバリー! はぅでぃっどゅー!?」


「…あ、裕子さん。こんにちは」


奏は裕子が入って来たのに気づくと、外から裕子に顔を向けた。

一方舞は、一瞬裕子に目をやってため息ついてから本のほうに視線を向けた。


「ま、冗談はさておき。前回の事件、色々とその後の経過も合わせて報告タイムよ。

舞ちゃんも一旦読書ストップしてちょーだーい」


「…了解」


舞が本を閉じたのを確認すると、

裕子はポチッとな♪と言いながら機器を操作し、部屋にプロジェクターを下ろす

では準備が整うと、プロジェクターに見知った顔が映し出される


『どうも『ジゼル』の皆さん。先日はミッション大変お疲れ様でした』


画面に映る霧谷の顔は、ミッションの報告をすでに受けており、大変満足そうに笑っている。


「はい。色々ありましたが、なんとかなってよかったです」


奏も、微笑みながらそう返した。


「では、その後のことでいくつか簡単な報告だけ」


そう言いながら、霧谷は改まって言う。


「まず、今回の事件における中核を担った、『龍の頸の玉』の封印先であった少女、龍宮殿いつみについてです」


「はい」


奏は、少し真剣な顔になって、霧谷の言葉を待った。


「あの後、経過観察を行いましたが、オーヴァードとして覚醒する確率はかなり低いでしょう。もとよりレネゲイドの影響に強い肉体だったのかもしれません」


「…そうですか。」


それを聞いた奏は、とてもほっとした安堵の表情を浮かべた。

あれだけレネゲイドの中心にいたのだから、覚醒していてもおかしくはなかったのだ。


「今回の件で大量のレネゲイドをその身に取り込んだので心配していたのですが、なんとか杞憂に終わったようです。

ただ、おそらく彼女は《AWFアンチワーディングファクター》の体質にはなってしまったでしょう。

彼女の周りでレネゲイド事件が発生しないよう気を配らなくてはならないですね」


それでも、とりあえず彼女は無事なんだ。

普通に、彼女は日常を送ることができる。


「『龍宮殿いつみ』さんに関しては以上です。……では、もう一人の『龍宮殿いつみ』さんについて、です」


「…はい」


霧谷が話を切り替えた。

あの後、もう一人のいつみの形代となった珠は、レネゲイド研究班に一時期預けられたのだ。

奏も舞も、その後の彼女についてはまだ何も知らされていない。


「谷城さん、お願いします」


「はいはーい」


裕子は軽めの足取りでるんるんと舞の座る席の前まで行く

そして、舞を覗き込むように屈みこんでからにへらー、と怪しく笑った

舞は、突然自分の顔を覗きこんできた裕子に、困惑とほんの少しの怪訝な表情を浮かべる。


「…なんですか」


「これを見よーっ!」


じゃじゃーん!と自分の口で言いながら、裕子は懐からケースを取り出し、

中にあるそれが繋がれたチェーンを両手で摘みあげる形で舞の方へ見せる。

それは、ネックレスだった


「それって…!」


「…」


そのネックレスは銀の鎖で結ばれた先に、淡く五つの光を放つビー玉サイズの宝玉が付けられている


「……はい。それが先程言った、もう一人の『龍宮殿いつみ』さんです」


やっぱり、間違いなくあの夜の島で出会い、新しい姿を得た彼女に違いなかった。


「あの後、遺産に近い特殊な賢者の石として、レネゲイド研究チームで解析されました。

彼女と触れた者は意思の疎通がはかれたので、相談を重ねつつ今後の彼女についての方針を決めました」


「で、どうなったんです?」


奏が聞くと、霧谷は続ける。


「彼女は、自身は役目を終えた身。できるのなら誰かのためにこの身を使っていきたい、との希望がありまして、調整を加えつつ今のような特殊な装飾を施し、また携帯しやすいようにアクセサリーとしての形をとらせていただきました」


「…で、それを私につけろと」


裕子が自分の目の前で石を掲げている状況から察して舞はそう確認する。


「つけろ、と言うわけではありません。ただ、不思議なことに、彼女はあなたに適しているという研究結果が出ました」


「……」


「舞さん。その石は通常の賢者の石と違い。体内に適合させなくても、石と相性の良い者なら力を発揮できるという、特殊な賢者の石です。

そして、UGN全エージェントとの相性を調べた結果、舞さん、貴女が一番その石との相性が良いことが判明しました」


奏が、秋家さんに?と霧谷に聞くと、霧谷は頷くが、少しだけ難しい顔をして言う。


「……正確には、舞さんではなく、くれはさん、です」


「くれはさんと…いつみちゃんが?」


「はい、理由はわかりませんが…。なので、我々としては、舞さんが望むのであれば、その石は貴女に託そうということを決めました」


それを聞いた舞は、少しだけ黙ると目の前の裕子を見ながら言う。


「…裕子さん、貸してください。」


裕子はにこにこしながら無言で手渡してくれた。

石は、淡い光を仄かに放っている。


「…御託はいいです。この子が自身の意志で私たちを選んでくれたのなら、それに答える…そう、それだけです。」


「……どうしますか? なんて聞くまでもありませんね?」


舞は、淡い光を放つ宝玉のネックレスを首にかけて、宝玉を手の中でころがした。


「…えぇ、この子と一緒にいます。」


「では、彼女はUGNに入るに辺り、新しい名を手に生きていくことを決めたようです。

……それを私からは言うのは無粋でしょう。後で彼女から直接聞いてあげてください」


「…了解」


「では、私からの報告は以上となります。新しいミッションの際は、またよろしくお願いしますね」


そう言って霧谷はフッと笑うと、連絡が切れた。

奏は、舞の首にかけられたネックレスを見ながら、嬉しそうに言う。


「…これで、みんな一緒だね」


「…えぇ、そうね」


「うふふ。そのネックレスのデザインしたの私なのよ? 褒めてもいいのよ〜?」


そういいながら、裕子は腰に手を当てて得意げな顔をした。


「で、さっき霧谷さんがいってた、新しい名前ってなんなんだろう?」


「この子が直接教えてくれる・・・はず」


舞が意識を集中すると、暗い水面が広がるような感覚と共に、空中にいつもの彼女の姿がぼやけるように現れた。

彼女はどこか照れ臭そう苦笑いし、そしてはみ噛みながら君らに小さく手を振る


「…久しぶり」


「私は実はもう既に会ってるのよね〜」


いつみは三人を見下ろすと、まだ緊張の抜けきらない顔で言う。


「……き、霧谷さんが変にハードル上げたから、妙に緊張しちゃうよ」


ははは、と彼女は笑った。

「いつみちゃん……いや、今は違う名前があるんだっけ」


「…うん。っても、実は千年前の本名はもう思い出せなくてね…。あの子と区別をつける意味で、今はこの名前をもらったわ」


そう言って3人の顔をそれぞれ一瞥してから、言います


「私の名前は『龍頸玉(りゅうけいぎょく)いつみ』。

名前はあの子から、苗字は私が終えた役目からもらったわ。……これから、よろしくね?」


「…宜しく」


「うん。これからもよろしくね。いつみちゃん」


「いやー、当初は2人組のコンビってチームの予定だったけど、まさか3人メンバーになるとはねー!」


3人に笑顔で迎え入れられ、いつみは純粋な笑顔を浮かべた。

そうして和やかに笑っている中、裕子が突然不敵な笑みを浮かべてススススと二人に近づいてくる。


「ふふふふふ」


「わっ、ゆ、裕子さん??」


裕子は、いたずらっぽい笑顔を浮かべて、どこから取り出したのか大きな一升瓶を取り出した。


「……えへっ。日本酒買ってきちゃった☆」


「じゅ、準備がいいですね…」


「『上善如水』……。これって確か新潟のお酒でしたっけ?」


「あら〜。詳しいのねー! これ飲み易くていいのよ〜。中途半端に高いけど…」


酒瓶のラベルを見ながらふわふわと浮くいつみに、裕子は酒瓶を持ったまま大きく笑う。

奏は軽く苦笑いし、舞はあきれたように大きなため息をついた。


「ほら、新しい仲間が入ったじゃない? だったら、ねぇ? 歓迎会が必要でしょう!?」


「…分かりました、じゃあ飲み物買ってきますね」


あきれながらそう言って、舞は席を立った。


「奏、何がいい?」


「あ、僕も行くよ」


そういって奏が席を立つと、裕子はちゃんとジュースもちゃんとあるわよ、と言って冷蔵庫から色々コーラとかドクペと取り出す。


「いつも以上に張り切ってますね、裕子さん…」


舞はそれを見ると、なるほど、と言った風に頷くが、

でも歩いて部屋の扉に手をかける。


「んじゃあお菓子も買ってきますよ、私アルフォート食べたいですし…」


「僕はじゃがりこかな」


「じゃーー私もアテ買いについて行こう♪」


「さっさと行きましょうか、この子を待たせるのも宜しくない」


そういいながら、舞は扉を開ける。

しかし、後ろからふよふよと幽霊のようについてくるいつみは満面の笑みで舞に言った。


「大丈夫だよ、舞さん。時間はこれからたっぷりあるんだから」


それを聞いた舞は少しだけ目を見開くと、ほんの少しだけ、微笑んだ。


「………そうね、たまにはゆっくり行くのも、悪くはない。」


「…うん。あなたたちが、作ってくれた時間なんだから」


3人と1人はそう言いながら楽しそうに笑い、部屋を出ていく。



一人の少女を迎え入れた、新たな日々が始まろうとしていた。



    ◆  ◆  ◆



「ゔあー…。やべーわ、あの二人まじつえーわ。もう戦いたくねーわぁ~…」


灯りのついていない小さな家。

そこのリビングに、ため息をつきながら入って来た。


「…?」


彼が部屋に入ってから顔を上げると、ふと部屋のテレビがつけっぱなしなのに気づいた。


消そうとして近づくと、このテレビを見ていた主を発見する。


カーペットの上に、タオルケットを首まですっぽりかぶり、クッションを枕代わりにすぅすぅねむりこける女性がいた。


タオルケットからわずかに出た顔だと、眼鏡をかけてることしかわからない


「……」


春樹は頭をぼりぼり掻いたあと、ったく仕方ねぇなぁと言いつつ、居眠りする女性の眼鏡を取り、それをダイニングのテーブルの上へと乗せる。


彼女を私室に運ぼうとタオルケットを剥がして思わず吹き出す


白いTシャツ一枚に、下に至っては下着姿だった。


「ラフな格好したいなら自分の部屋でしろっていつも言ってんだろうが…」


と愚痴をこぼしつつ、ひょいと彼女を抱き抱える。

が、その際に彼女は眠りの淵から醒めてしまったようで、トロンと目を開けると目の前の人物をぼんやり確認した。


「んー…、あー…。おかえり、春樹」


「へぇへぇただいま」


「どうだったー? 秋家ちゃん勧誘か誘拐できた?」


「…………」


春樹は目をそらしながら黙りこむ。

すると、女性はすぐに彼の考えてることを察した。


「あははw 失敗しちゃったのねw」


抱き抱えられながらも春樹は彼女の私室に向かう。

彼の腕の中で彼女は楽しそうにくすくす笑う


「まぁ、超有望エージェントだしね〜。一人で相手できるような子たちじゃないでしょ?」


「まったくその通りで…。耳が痛い限りです…」


なんやかんやで、彼女の部屋に到着する


狭い部屋の真ん中にベッドが一つと、ベッドのすぐ隣に机が一つ

シンプルな部屋だ


春樹は抱いていた女性をベッドの上に降ろす

女性はありがととだけ言うと、ベッドの上にいるまま、拳銃やら弾やら転がる机の上から一枚のメモを手に取った


無言で内容を確認してから、ハイとそれを春樹に差し出した

彼もそれを無言で受け取り確認する


「秋家ちゃんと言えばあれ。色々と動いてるみたいで、もうすぐウチのタチの悪い情報屋辺り捕まえちゃいそうなのよね」


「ふむ」


「やっぱり、面倒なことになる前に抑えておいた方がいいかなぁ…?」


「…………まぁ、後の祭りになるよりかは、先にどうこうしといたほうがいいだろ? どうするかは後で決めてもいいわけだし」


「だよねー。あ、あと春樹春樹」


「んぁ?」


生返事をした春樹をまっすぐ見つめ、女性はにやりと笑う

しかし、その目はちっとも笑っていなかった


「上層部のやつらが『鏡』を見つけたわ」


その言葉に春樹は目を見開いて押し黙った。



~第1章「Priestess of Dragon」・ 完 ~


と、いうことで

第1章「Priestess of Dragon」完結となります!

2章から、作者のあとがきコメント出来るだけ書いていこうと思います。

少し間が空いてしまいましたが、なんとか1章完結できてよかったです。


それでは、2章からもよろしくおねがいいたします!

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