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ダブルクロス3rd リプレイノベル ~Team of Gisselle~  作者: みぃ
第1章「Priestess of Dragon」
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第15話「事件の終わり」

ここは、大判市の海を一望できる旅館。

そこのロビーに、5人の人間がいた。


「えっと、領収書切ってください。宛名は『UGN日本支部』でお願いします。」


この五人の中で、唯一大人の姿を取れる裕子が大きくなって、旅館のチェックアウト手続きを行っている。


「ビディ、何かお土産でも買ってくかい? ほらこれ、ひのき泥炭せっけんだって」


「せっけんなんてあっても、支部じゃ使わないと思います…」


杉木とビディのふたりは、ロビーにある売店を見ながら談笑していた。


舞はロビーのソファに座って本を読み続け、奏もまた、ぼうっとしながらロビーの窓から見える亜の島を眺めていた。


そうやって静か二時間をつぶしていた2人の元に、やがてチェックアウト手続きを終えた裕子とおみやげ買った二人が集まってくる。


「よし、ではここでやるべきことも終わりましたし、そろそろ行きましょうか」


杉木はたくさんお土産の入った紙袋を両手に下げながらそう言った。


「あ、わかりました」

「…………了解」


奏も荷物を持って立ち上がり、舞も本を閉じて荷物にしまってから立ち上がる。

そうして、一同は その旅館を後にした。


駅に向かう道を進もうとすると、ふと杉木が思い出したような顔をする。


「あと、帰る前に少し寄っていきたいところがあるのですが、よろしいですか?」


「…構いませんよ」


舞はいつもどおりの無表情で頷く。

奏はなんだろうと言った風に首をかしげる。


「?…どこに行くんですか?」


「ふふふ。それは見てのお楽しみです」


杉木は、いたずらっぽくそう笑った。



……あれから奏たちは出雲支部の応援にも手伝ってもらったりしながら、数日間の間事後処理に追われた。

その結果、この町であったすべての事件は、無かったこととなった。

とは言っても、元より海辺の島の様子が少し変だったくらいの事件だ。



この町は、昨日と同じ今日。今日と同じ明日。


いつもと、今までと変わらないように、繰り返し時を刻んでいくように日々が続いていくのだろう



杉木を先頭に一同は最後の大伴市散策をする。


大伴駅からほど近い小さな公園。

公園とは言っても、遊具も何もない、ベンチがいくつかあるだけの広場だ。

だが、そこは確かに近隣の子供たちの溜まり場となっている、数少ない遊び場でもあった


「奏さん、舞さん。見てください」


「………!」


そう言って彼は、歩みを止めないまま公園の方に指を向ける。


「…………これは」


公園で遊んでいる子供達の中に一人、君らがよく知る顔があった。



龍宮殿いつみだ


少女は同年代の少女らときゃっきゃっと騒いで走り回ってる。

年相応の光景で、なにもおかしなところはない


奏も、舞も、その様子を見ながら、無言で穏やかな笑みを浮かべた。


公園の前までやってきてから、杉木は歩調を遅めたが、決して歩みを止めはしなかった。

それは、『ここには留まらない。通り過ぎる』という彼からの意思表示でもあった。


「……奏さん。何か、話してきたいですか?」


「…いや、大丈夫です」


奏は、首を横に振り杉木にならって立ち止まろうとしなかった。


「……私たちとあの子は、本来交わってはいけない存在」


龍宮殿いつみは、何も覚えていない。

当然だ。


彼女は今回の事件に深い関わりを持ちながら、彼女自身は何も関わらなかった。


「……これで、十分」


奏はいつみの無邪気な笑いを見て、公園から視線を外して前を見た。


「…………わかりました。では、このまま参りましょう」


舞もまた、何も言わずに視線を前に向けてあるく。


そして、舞が歩き出そうとした時、

彼女の荷物の中にある賢者の石『龍の頸の玉』から、少しだけレネゲイド反応があったような


そんな、気がした



「…お互い忘れましょう、その方がお互い苦しまなくて済む」


舞は誰にも聞こえないような声で呟く



もう公園は見えない


しかしそこには、確かに彼らが守った『日常』があったのだ。



◇ ◇ ◇



その後、大伴駅のホーム



杉木とビディは君らと向き合うように立っている

彼らはこのまま電車で支部に戻るようだ


一方奏たちは、この場に日本支部から直接ゲートが繋げられる

だから、短い時間であったが、仲間だった彼らとはここでお別れとなる


「杉木さん、ビディちゃん。どうか元気で」


杉木は、そういって2人の顔を見ながら笑って別れを告げる。

その隣にいるビディは、今にも泣き出しそうな顔で俯いていた。


「チーム『ジゼル』、噂には聞いてましたが、想像以上に素敵なチームでしたね」


「……お褒めの言葉、感謝します」


舞はそういって、丁寧にお辞儀をした。

奏も軽く頭を下げると、肩に乗ってる裕子が口を開く。


「いやー、人外支部長で名高い杉木さんも中々のモノでしたよー。お仕事も丁寧にこなしてて」


それを聞いて、当然のことをしたまでです、と杉木が言うと、少し間を空けて言葉を続ける。


「……今回の事件、色々と気になる点も多かったと思います」


舞を狙うFHセル「トラベラーズ」、中のいつみが知っていた「紅れ葉」の存在、そして、奏の右手に変わらずある“カンマシェイプ・クリスタル”。


今回の事件を経ても、彼らの謎は深まるばかりであった。


「でも、貴方達二人ならきっと大丈夫だと、今回一緒に居て、私は心からそう思いました。……ね、ビディ?」


「……は゛い゛」

ビディはもうぼろぼろに泣きじゃくっていた。

そんなビディに、奏はしゃがんで視線を合わせる。

「いずれまた会いにくるよ。ね?」

「ゔぁい゛」

そんな風にしていると、アナウンスが電車を来ることを告げた

「そろそろ、時間ですね」


「・・・お世話に、なりました」

舞がお辞儀をした直後、杉木たちの後方に電車が来てその風圧で一同の髪が揺れる

「色々と、ありがとうございました。またいつか。」

「……ええ」


電車のドアが開いて、半ベソのビディを中に押し込みつつ彼は手を小さく振る

奏も二人に向かって手を振りかえした。


ドアが閉まり、電車は徐々に加速していく

あっという間に車両は遠く小さくなり、そして見えなくなった


「さて」


裕子の背後には、黒く遠くの空間と繋がれたゲートが展開している


「時間ぴったし。本部行きのゲートよ」


奏は、ゲートを確認すると、舞の方を向いて軽く微笑む。


「うん。…じゃ、帰ろっか」


「…えぇ」


「うふふ! チーム『ジゼル』、ミッションおつかれさま!」


それぞれの手で二人の背中を押しながら、裕子は一緒にゲートへ潜っていった

そして、大伴駅のホームから黒いゲートが消え、そこはただの田舎の静かな駅へと戻った。



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