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ダブルクロス3rd リプレイノベル ~Team of Gisselle~  作者: みぃ
第1章「Priestess of Dragon」
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第12話「嵐と雷の龍」(下)

先の咆哮によって、戦いの火蓋は切って落とされた。

奏が右腕を前に翳すと、手の甲の石がきらりと輝く。


それを遠くから見て、春樹は興味深そうに

「へぇ」

と呟いた。


石が輝くと、そこから溢れた光が右腕を埋め尽くし覆うように形を型取っていく


やがてそれは右腕を肩まで丸ごと飲み込んだ、光の大砲にと変わった。

「パワータイプかい! おもしれぇ…」

春樹は、やけに楽しそうに奏の腕の大砲を見て笑う。

それに対して奏は、付き合ってられないという感じで答えた。


「…悪いけど、こっちには優先順位ってものがあるから」

「へぇ、そうかい。余所見してくれるならお姫様攫いやすくてこっちは助かるわ!」

すると、春樹は宙に小さな球体…魔眼を2つ展開し、変形させる。

それは春樹の腕に纏われ、二つの籠手となった。


「それとこれとは話が違うんだけどな…っ」


奏が少し厄介そうな顔でそう呟く。

その間に、舞は身体を変形させて地面に潜り、そして龍の目の前まで移動していた。

龍の眼は、突然目の前に現れた少女を見下ろす。


「…気づかなかった君が悪い。」


前衛の舞と、後衛の奏。

この立ち位置が、戦闘における彼らの配置だった。

「まずはこっちを片付ける!」

奏はそう言いながら龍に向かって銃口を向ける。


光が奏の掌の銃口に集まっていく。

ほんの数秒、光を掌に溜めると、龍に向かって真っすぐに大砲から太いレーザーが発射される!!


光の筋はまっすぐに龍に向かって放たれ、避けられないと踏んだ龍は持ち前の鱗で奏の砲撃を受け止める!


「グオオォォォ!!!」


龍は喰らった砲撃の勢いに一瞬仰け反った。

石畳が音を立ててバキバキと粉砕される。


だがその砲撃を耐えられる十二分の力を持っていた龍はその眼光で奏を睨んだ!


その光線は、150m離れた浜辺にいた春樹にもしっかりと目に入った。

「……はぁ、もしかして俺、弱いって思われてる?」

春樹は、軽くクラウチングスタートの構えを取ると、大きく息を吸い込み、そして


「し か た な い な !」

と叫ぶと同時に、ドンと大地を蹴って駆け出した。

彼の重力を操る力が、彼の落下を極限まで遅くする。

しかし、その一跳びだけでは150mという距離は詰められない。


やがて春樹は海に着水したかと思うと、ハヌマーンシンドローム特有のスピードでもって、海の上を走り出した。

島への距離は、100m切ろうとしていた。


「ったく。あんまり背中向けてくれるなよな!!」


そう吐き捨てて春樹が目を細めると、一瞬、奏の、舞の、他の物体の動きが止まる。


時間が、一瞬止められたのだ。


春樹は海をもう一度蹴って飛び上がる。

今度は先ほどよりも大きく飛んで、およそ60mをたった一瞬で詰める。


あと40m。


「届かねぇと…! 思ったのかっ!!」


再び、春樹が海を駆ける。


最後の40m。それは、春樹にとってもう一度一瞬で駆け抜けるのには簡単な距離だった。


春樹は海を駆け抜け、やがて小島の地面に踏み込んだ。

そして、次の瞬間、目の前にいた奏にたった一本のナイフによる袈裟切りを喰らわす。


ザシッという音と共に、奏の左肩に激痛が走る。


「がっ…!!こ、の…!」


奏は一瞬のうちに海を超えてきた春樹に振り返りながら痛みに歪んだ表情を浮かべる。


「はぁっ! はぁっ…! どうだい小憎! 詰めてやったぞ!」


そういう春樹も、大分息を切らしていた。

恐らく、奏が少しでも動いていたら、春樹の攻撃範囲には届かなかったのだろう。


「あんたを嘗めてた訳じゃないんだって…ば…!」


奏は怪我した肩を抑える。


すると、流れていた血は止まり、すーっと傷口がふさがっていった。

オーヴァード共通の自己回復能力リザレクトの力だ。

「っ、時間がないんだ…」

奏がそう言うと、再び龍が吼えた。

龍の怒りは止まらず、目の前にいる敵全員を全て破壊さんばかりの眼で見下ろす。


そして、龍は再び巨大な衝撃派を放った。


空気が震え、その衝撃派は、島の木々をなぎ倒し、海を大きく荒立たせる。

その衝撃派はすぐに3人にも襲い掛かってきて、まるで全身をたたきつけられたような強い衝撃を受ける。

その強さは、彼らの身体を簡単に吹き飛ばして倒すほどのものだった。


「ってーなぁ!」


「うっわぁ!」


「ッ…!!」


強い衝撃に、奏と舞は大きなダメージを受け、再び傷がふさがっていく。

春樹もかなりのダメージを受けたようで、服装が乱れところどころ衝撃で打ち付けられた傷が見受けられた。


「流石にさっきので小憎仕留めきれなかったのがいてぇな…」


春樹がよろめくと、


「あれぐらいでやられて…たまるか…」


奏も、舞も起き上がる。


舞は、攻撃を受けた後無言で龍を眺めると、

刃のない空気の刀…ガシアスブレードを形成し、大きく息を吸った。


彼女の鼓動が収まってくる。

衝動が、落ち着きをみせてくる。


「…大丈夫。」


誰に言い聞かせるでもなく、舞はそう呟いた。

その間に奏の掌にはまた光が溜まり、いつでも砲撃を放てる用意が出来た。


「…やっぱり、あんたは厄介なんだ。これ以上秋家さんに、近づけさせるわけにはいかない!」


奏は目の前の春樹に向かって銃口を向ける。


「そんな至近距離でぶっ放す大砲が当たるかぁ!」



ほぼ数メートルにも満たない距離で、大砲はまばゆい光を蓄え、

やがて放たれる。


その強い光は、膨大なエネルギーを蓄えていることを、春樹は本能的に悟った。


「っ!?(この大砲を食らうのはまずい…!)」


春樹は、全力で回避の態勢に入る。


すると、風が、嵐が、まるで春樹の味方をしているように彼にとって最適な回避ルートを導き出す。


これが、春樹の特殊な能力。

運命が、自分に味方する恐るべき力…




ところが。



「────周りを見てないわね?」

春樹の足元から、声がする。

そこには、数人のちび裕子が、彼の足元に群がっていた。

「この嵐のおかげで、大量の“雨”が空から降ってきてくれたからね」

「ナイスタイミングよ、舞ちゃん!」


その裕子の言葉を聞いて、春樹はふっと顔を上げる。


目の前で、ガシアスブレードを構えた彼女は、してやったかのような笑いを見せてこちらを横目で振り返っていた。


「…私は隠者(ハーミット)、敵の隙を突き、相手を倒す者。」


まさか、この従者たちに指示を出したのは


そう春樹が察した瞬間、大量の鳥が春樹の足元から一斉に空へと飛び立つ!



それが、一瞬の遅れを生んだ


一瞬の、致命的な遅れを


「…っ」


ライフルの銃声が響く。

支援を仕掛けたビディの狙撃による弾丸を、咄嗟にナイフで弾く春樹!

だがそれは、目の前の少年の攻撃に無防備になることを意味した!!


「……遅いよ。」


光は、間髪入れずに春樹を貫いた。


「っつぅぅ!!」


奏の砲撃を真正面から受けて、春樹は先程詰めた浅瀬の海に背中から落ちる

バシャァッと大きな水しぶきを立て、傷だらけでボロボロ身体で海に倒れ伏した。


だが、一度は倒れた春樹だったが、数秒しないうちにまた立ち上がった。


「!」


奏が警戒し、もう一度右手を掲げようとしたが、春樹は全然敵意を見せず、ただひょうひょうと笑っている。

「よう、秋家舞」

立ち上がった春樹は、奏のその奥、舞に声をかける

「……なによ」


相変わらずの不愛想な顔で、舞は答えた。


「お前のナイトさんは、ちゃんと啖呵切った通りに決めてくれたじゃねぇか」

龍との攻防しつつ、振り向かずに答える舞の背中に春樹はどこか嬉しそうにそう言った

「・・・当り前よ、その子はとても優秀な子だから。」

「ハハッ! そのとーりだ! 舐めてたのは、どーやら俺の方だったみたいだな」

春樹は片手で器用に折り畳みナイフをパチンと閉じると、そのままジーンズのポケットにしまった

「コンビにソロで向かっちゃあ駄目だよな。OK! 『ジゼル』のお二人、今度は『トラベラーズ』として、ちゃんと相方連れてきて相手させてもらうぜ?」

春樹のその言葉に二人は軽く振り返って答える。


「……勝手にしなさい」


「何度来ても追い返すから、そのつもりで」


二人の返事を受けて、春樹は思わずくすくすとこれまた嬉しそうに笑う

それから、耳元に仕込んでたイヤホンマイクに何かを言った。


「俺の完敗だ。ここは情け無く逃げさせてもらうぜ」


そう言うと、春樹は大の字なりながら仰向けに海に倒れるように後ろに倒れていった


だが、彼が倒れるよりも、その背中にディメンションゲートが出現する。

そのまま彼は闇に飲まれるように消えていった

嵐の中、嵐のように来た春樹は、また嵐のようにいなくなった。

「…面倒なのは居なくなったね。」

「うん。……あとは、こいつだけだ!」

奏がキッと龍に向き直ると、再び龍が咆哮を上げる。



「ゴ オ オ オ オ オ オ オ オ !!!!」



吼えた龍の口元に巨大な雷を帯びた玉が現れ、放たれる。

そして、雷球を発すると同時に、再びあたりに強風程度の衝撃が広がった。


「ッ…!!」


舞も、その余波を受けて軽くよろめく。


そして、雷球の標的となった奏は、先ほどの砲撃の反動で自分を狙ったその攻撃を回避することができなかった。


「ぐあぁあっっ!!」


先ほどと同じ衝撃に、電撃が追加され奏は大きなダメージを受ける。

しかし、血は再び止まり、完全ではないが動けるまでに回復する。


「ってて…まだ…まだ、大丈夫。」


そういいながら立ち上がり、舞の方を見た。


龍を目前とする舞は、少し様子がおかしかった。


舞の意識が…『反転』し『混濁』する。



「…『てめぇ』、よくも俺の体に穴ぼこ開けやがったな…」



すっかり髪が真っ白になった舞…いいや、『くれは』が、眼前の龍を思い切りにらみつける。


「…こいつは強がっているだけで、本当はくそ痛がっていたんだよ…」


龍は低い唸り声をあげて対面する



「…こいつを傷つける奴は…塵微塵も残さず、壊す!!!!」



くれはのその怒号を聞いてもジャームの身に落ちた龍はただ怒りに任せて吠えるだけだった。


「(こんなに怒ったくれはさん、滅多に見ないかも…いや、くれはさん自身あんまり見ないけど)」


奏が、くれはが表面に出た


くれははガシアスブレードを手に、地を蹴って思い切り飛び上がる。

腕を能力で伸ばし、まだ倒れていない木々の枝を握って空へと昇っていく。


龍が彼女を叩き落とそうとするが、俊敏な動きでくれはは龍を翻弄する。


そして、龍よりも高い位置に飛び上がると、枝から腕を離し、

龍に向かってガシアスブレードを思い切り振り翳す!!


「くたばりやがれェッ!!!!」


重力に乗せた重い一撃が、龍に突き刺さる!!


スパァァンという、気体の刃が龍のレネゲイドの身体を斬る乾いた音が響き渡る。

その一撃をまともに受けた龍は口から血を吐きながら天に向かって咆哮する!!!!

「…クソッ、まだ力があるのか」


ガシアスブレードを引き抜き、龍の返り血を浴びたくれはが地面に降りて龍をにらんだ。



そんな龍を目の前にして、奏は静かに凛とした表情で右手を翳す。

「……これで、終わらせる」


奏の右手の甲の石が、一段と眩く光り輝く。



そして奏の掌に、光が、集まっていく。



今まで以上に遥かに強い光だ。


奏の右腕は、この嵐の中でまるで灯台のように光り輝いていた。



「ほら、私達が力を合わせれば…」


「龍だって怖くない」



後ろから支援する杉木が、ビディが、光を見てそう呟く



「きめちゃえー!」


ちび裕子の最後の一人が、奏に声援を投げかける。


奏はその膨大な光のため、左手で右手を抑えた。

大砲は石を中心に眩い光を極限まで溜め込み、辺りは光に包まれる


そして、大砲が集める光が限界まで輝いた。



莫大な力

それを察したのか、龍はくれはの妨害を振り切り、奏を噛み殺さんと大口を開けて一気に襲いかかってきた

だが、先程の兇刃ブレイドとのやり合い…



今の奏が“速さ”で負けることはない



目の前に迫る龍。


奏は迫ってくる龍に慌てることもなく、案外冷静に…………光を、解放した。


「うっらぁぁぁぁぁぁあーーーーー!!!!」


溜め込まれた莫大な光のエネルギーが、一気に迫ってきた龍に向かって放出される!!!


まるで、太陽のような輝きを持った極太の光線のまぶしさに、一同は思わず目を瞑った。



一閃。


光の一筋は、龍の顎を砕き、後頭部を打ち抜き、止まることなくそのまま斜めにまっすぐ天に駆けて行く。

そして、曇天に満ちた天に大きな穴を開け、その衝撃波で雨雲の殆どを吹き飛ばした




そこには、天高く登る十五夜の月が煌々と輝いていた

あの時、少女と共に眺めたように


「っ……はぁ、はぁ…」






主を失ったその身体は、突進の勢いを僅かに残したまま、奏の横を擦り抜け、轟音とともに地面に伏した




そしてそのまま、二度と動くことはなかった






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